4/24(金)雨が空から降れば③
2020年4月24日 Posted in 中野note
↑その頃の私たちは『鐵假面』に取り組んでいました。
尽きない雨の話題。今日は唐さんの話をします。
私が紅テントを観られるようになったのは、
大学に入学した1999年春の『眠り草』からです。
以来、唐組の本番は全公演に立ち会ってきましたが、
中でも抜きん出て雨の記憶が濃いのは、
2007年春に上演された『行商人ネモ』の千秋楽でした。
あの日の大雨はすごかった。
記録によると6/17(日)の公演ですから、まさに梅雨まっ盛り。
スコール性の大雨が猛烈に天幕を打ちつづけた公演でした。
特に凄絶だったのは2幕中盤、
クライマックスを目前に主演の稲荷さんの見せ場がやってきました。
『オイディプスは母と寝た......』という冒頭から繰り出される
延々とした長ぜりふを述べるのですが、
はっきり言って、先に上げたフレーズしか聴き取れなかった。
渾身の力を込めて声を絞り、
伝えるべき単語を立てに立てて物語を届けようとする稲荷さん。
その努力は悲壮な感じさえしました。
すると、せりふこそ聞こえないものの、やがて舞台は異様な迫力を帯び、
稲荷さんの背後に湯気が揺らめくようなシーンが現れました。
しかし、雨は情け容赦なくテントの屋根を叩きつづけ......
結局、この日の雨が止むことはありませんでした。
終演後は、出演者も観客もお互いを称え合うような雰囲気でした。
忘れられない舞台になった、そういう言葉が取り交わされたと
記憶しています。
あれはあれで良かった。だってテント芝居じゃないか。
その場に立ち会った皆が心からそう感じていたと思います。
が、一人だけ納得していない人がいました。唐さんです。
唐さんはその晩こそ胸を張ってお客さんの相手をしていましたが、
二日後の夜、ベロベロに酔っ払って私に電話してこられました。
そして、「なんで楽日なんだ。なんで楽日でなんだ」と、
繰り返しおっしゃるのです。
はっきり言って、あれはもう不満や愚痴こぼしというレベルを超えて、
泣き言の域に達していました。
とにかく電話ごしに伝わってくる地団駄感がハンパない。
当時、67歳だった唐さんがあまりにジタバタするのに、
私は唖然としました。
だってこの人こそ、テント芝居を標榜する張本人なのです。
自ら「暗雲よ来い!」という人なのです。
それでも、「やっぱりせりふが聞こえなきゃイヤだ」と言う。
この正直、この偽らざるワガママ!
唐さんは、芝居が決して安心のなかにあってはいけないと言います。
けれども、やっぱり自分の託したせりふや物語が伝わらないのも、
イヤでイヤで仕方がない。
矛盾です。けれどもこの盾と矛はともに極めて強靭。
雨よ来い!そして雨なんか絶対に来るな!そういうことなのです。
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