4/30(金)必殺のコピー&ペースト

2021年4月30日 Posted in 中野note
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↑ちょっと前まで手に入ったが、今や絶版。
古本はそう高価ではないので、Amazonでぜひどうぞ。

昨日に林麻子が報告したように、
前回の『海の牙-黒髪海峡篇』ワークショップでは、
ついに梅原北明(うめはら ほくめい)が登場しました。

この劇では、全編を通じて敵役となるキャラクターは二人おり、
一人は按摩のリーダー、そして、もう一人は梅原北明なのです。
彼は実在の人物で、戦前に活躍したエログロナンセンス系出版物の
大家として名をなした人物です。有名なのはボッカッチョの傑作
『デカメロン』の日本語訳出版。

ペストが猖獗を極めた14世紀。
人混みによる伝染を恐れて郊外に逃れた10人の青年たちが、
十日間にわたって自らが持つエピソードを話し合うという物語です。
その中に、猥談が多い。

梅原さんは大胆にもこれを翻訳して裁判沙汰になり、名を挙げました。
そして、彼の人生を『好色の魂』という小説に仕立てたのが野坂昭如。
野坂さんの作中では「貝原北辰」という名前で登場します。

唐さんの劇中では、梅原登場から程なくして、
延々と長ぜりふを披露するくだりがあります。
それが実に、この『好色の魂』の書き写し。

しかし、現代っ子が行うコピー&ペーストとは違うところは、
唐さんが初版本を開いて、丁寧に書き写したであろうことです。
決して安易なクリックではない。
自然と、唐さんは細部を自分流に書き換え、
もとから唐さんの書いたせりふのように昇華されています。

唐さんは他にも、1978年に上演した『ユニコン物語-台東区篇』でも
三上寛さんの名曲『ナカナカ』を自家薬籠中のものにして
後世に語り継がれるトップシーンを生み出しました。

そういえば、『盲導犬』も澁澤龍彦さんの『犬狼都市(キュノポリス)』
の本歌取りであるし、さらには、ずばり『唐版 犬狼都市』まで書いている。
それぞれの作者との人間的交流も背後に感じさせる唐十郎流コピー&ペースト。

もとになったものとの細部の違いに注目すると、
それらに影響されながら芝居を書き進める執筆当時の唐さんの
嬉々としたウキウキ感が伝わってきます。

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