5/12(火)おそるべき帰巣本能

2020年5月12日 Posted in 中野note
IMG_7824.jpg
↑その唐突さに震撼します。

一週間前の5月5日、菖蒲にまつわる唐作品の話をしました。
その時に挙げたのは『秘密の花園』『唐版 滝の白糸』です。

今日は、私が他にも、
この2作には共通点があるのではないかと思っている話です。

まずは、『秘密の花園』から。
日暮里を舞台にしたこの作品は、何とニューヨークで書かれたそうです。
当時、かのロックフェラー財団の支援により渡米した唐さんは、
ブロードヴェイなど見向きもせず、
ホテルの部屋に引きこもっていたそうです。
後年、冗談めかして唐さんが私に教えてくださった理由としては、
「アメリカ人はみんな背が高くて、イヤになっちゃった」

結果、唐さんは自ら強烈な缶詰状態になり、
下町中の下町を舞台に不器用な男女のラブストーリーを書きました。
まさに、帰巣本能のなせる術と云えます。

一方、ゴーストタウン化した長屋を舞台にした『唐版 滝の白糸』もまた、
『秘密の花園』と同じように海外で、具体的には
1974年7月のパレスチナで書かれたのではないかと、私は睨んでいます。

理由としては、登場する小人プロレスラーたちのうちに、
世界同時革命をほのめかすせりふのあること、
何より、芝居の冒頭に「ホテルのロビー」というト書きのあることです。

このト書きは、
初演の演出家である蜷川さんを多いに悩ませたらしいのですが、
私の個人的な推測では、何のことはない、
執筆に当たった場所をノートに書きつけたのを、
戯曲が初掲載された別冊新評『唐十郎の世界』の編集者が、
ト書きと間違えたのではないかと推測しています。

唐さんは時折、生原稿に執筆に当たった場所がメモされました。
きっと雑誌にト書きとして印刷されてきた「ホテルのロビー」という記述を、
唐さんはいつものイタズラ心でわざと指摘せずに、
蜷川さんを苦しめたのではないかと思っています。

ここまで2本、唐さんが海外に行く→強烈に下町に寄せる
というパターンを紹介しました。
まあ、唐作品にはかなりの確率で下町が出るよね、
と言われればそれまでですが、この2作の下町っぷりは
他の作品と比べて抜きん出たものがあります。

最後に、唐さんの帰巣本能が極限にまで達した例をご紹介して終わります。

作品は、芥川賞作家に唐さんを押し上げた『佐川君からの手紙』。
皆様ご存知、オランダ人女性のルネさんを殺して食べてしまった
佐川一政さんとのやり取りをもとにしたこの小説で、
唐さんはパリに収監されている佐川君に会いに行くご自身を描いた
わけですが、ついに目的の方には会わずじまい。
話題はオリジナル・キャラクターであり謎の女性「K.オハラ」に
収歛していきます。その最後のシーンが、まあすごい。


「オハラさん」とわたしは声かける。
「前から聞こうと思ってたんですが、K.オハラのKは何て名ですか」
「キク」
と言いながら、ドア口にはみ出たトランクを、オハラは足で押し戻した。
「菊です」
それは、わたしの祖母の名であった。


↑見てください。何と、唐さんのおばあちゃんの名前で終わっています。
よほどフランスやパリ、佐川さんをアウェイを感じていたに違いない。
そして、唐さんの拒否感が極北に行きつき、下町を超えたホームグラウンド、
まさかの「おばあちゃん」を呼び出してしまったに違いない。
この帰巣本能!

ジョイスよりも「意識の流れ」に忠実であることは、間違いありません。

トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)