5/22(金)言えやしないこと
2020年5月22日 Posted in 中野note
「嫌いになったならそう言って」
一年ほど前、新人劇団員のSANEYOSHIがこう私に言ってきました。
驚いて調べてみると、わずか2歳半の彼が唐突にそんなことを言うのは
私が買い与えたジブリの『コクリコ坂から』を何度も観たかららしい。
話のなかに、そんなせりふがあるのだそうです。
最近は「マヌケなおじさん」と盛んに言ってくるようになり、
ある時、こちらが書き物に没頭している時に靴べらで突きながら
しつこく連呼してきたので、完全にブチ切れました。
これについては何を見聞きしたのか、出自は判っていません。
ただ判っていることは、上に挙げたふたつの言葉のどちらも
彼はよく意味を把握せずに使っているということです。
使ってみたら、容赦無くブチ切れられた。
そうして身体で意味を理解していくのだろうと思います。
私自身は幼い頃、よくカセットテープを聴いていました。
特に気に入っていたのは、前にも話したように思いますが、
伯父に買ってもらった『宮沢賢治童話集』。
宇野重吉、米倉斉加年、長岡輝子という
往年の新劇界の大立者が、全10話を分担して読んでいるものでした。
小さな頃から、文字通りテープが擦り切れるほど聴きました。
話し方、抑揚の付け方、間の取り方、音色、音圧、声色。
SANEYOSHIのように子どもは丸呑みに覚えますから、
自分のなかには知らないうちに彼らの影響があるに違いありません。
こういうせりふが心地良いな、という価値判断のなかに、
彼らの詠み方がきっとある。
しかし、このテープについて、私は唐さんに伝えたことはありません。
宇野さんこそ、唐さんの『少女仮面』岸田賞受賞にケチを付けた張本人。
米倉さんは、唐さんが明治大学を卒業して入った劇団「青年芸術劇場」
の幹部であり、あんまり良い思い出がない方なんだそうです。
そういう訳で、
唐さんとは賢治の話はしても、このテープには一切触れずにきました。
ただ、渡辺えりさんが宮沢賢治を題材にした芝居をされていた時には、
長岡さんの朗読が大好きなことを率直にお伝えしました。
えりさんが演劇少女に覚醒したのは、かつて文学座が山形に巡業した
『ガラスの動物園』がきっかけであり、その時に出演されていた
長岡輝子さんに大いに憧れたんだそうです。
このテープ、今はハードディスクの中にすべてデータで入っており、
ふと思い出して聴くことがあります。
トラックバック (0)
- トラックバックURL:
コメントする
(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)