6/13(土)アドリブのようで確かに書かれているせりふ

2020年6月13日 Posted in 中野note
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今日は劇団の稽古で、『唐版 風の又三郎』2幕の前半をやりました。
もうこの本読みが何周目なのか、よく思い出せませんが、
年明けから本読みを行ってきた劇団員にとっては、
すでにここは何度も通り過ぎてきた道です。

ですから、実際に声を出して読んでもらうのは、最近加わった人、
劇団の外から参加してくれた人をメインの役にするようにしています。
実際に声に出して考えながら読むと、よくわかりますからね。

彼らは初めてですから、念入りに、時には台本の内容を超えて、
劇団員なら知っていて当たり前ということから、伝えていきます。


例えば、こんなやり取り。

教授 口から吐き出すもの(=せりふ)はダイヤモンドだ。
   おまえのはジャリ石じゃないか!
乱腐 誰がジャリを吐かせているんだ!
教授 それを言うな!
乱腐 俺だってダイヤを吐きたいんだっ。それを、誰かのために
   涙を飲んで、ジャリを吐いているんじゃないか!ちくしょうっ。

これは、初演で唐さんが「教授」役を演じたことを知らなければ、
ちょっと読み解けません。
要するに、「乱腐(らんぷ)」が「教授」に文句を言っているのでなく、
乱腐役の不破万作さんが教授役の唐さんに舞台上で文句を言う、
というシーンを、やっぱり唐さんが書いたわけです。
まあ、かなりズルい手でもあります。

同じように、こんなせりふもある。

教授 シェークスピアが何だってんだ。

唐さんが言ったとなると、役柄を超えたところで聴こえてきますね。
では、唐さんじゃない人が演じた場合、
もちろんせりふは一切変えずにどう渡り合うのか、稽古ではそんな話もします。


ところで、「シェークスピア」という響きはどこか懐かしい。
日本で初めての全集翻訳者、ご存知・坪内逍遥先生では、
「シェイクスピア」でなく「シェークスピア」です。
同じように、『ヴェニスの商人』でなく『ベニスの商人』。

これは『唐版 風の又三郎』に出てくる
登場人物たちが演じる劇中劇の場面ですから、唐さんが書かれたように
シェイクスピアの『ヴェニスの商人』よりも、
シェークスピアの『ベニスの商人』であった方が、
大時代的で良いな、と思います。

だから、ここはひとつ大いに芝居がかって、
時には大根役者に見えるくらいにやろうじゃないか、
そんなことも伝えます。

繰り返し、繰り返し、何周目かの本読みですが、
読むたびに発見される細部の魅力が、いずれ地力となる時がきます。
新しい人を劇の世界に導入するために過ごすこの時間、
すでに先を走るメンバーをさらに加速させる稽古でもあるわけです。

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