6/26(土)李麗仙さんを悼む

2021年6月26日 Posted in 中野note

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↑これをやっと手に入れた時は狂気しました。現在は復刻CDあり。

 

李さんが亡くなりました。

唐さんを中心に、李さん、麿さん、大久保さん、シモンさんという5人を

状況劇場の第一世代として仰ぎ見てきました。

 

大久保さんを除いて、他の方々は唐さんを「唐は〜」という具合に敬称をつけません。

大久保さんだけは大学の後輩なので、こんな感じなのでしょう。

(学生時代の学年差は上下関係に大きく影響する!)、

お互いをそんな風に呼び合っている姿は同志的な結び付きの強さを

感じさせて、憧れでもあります。

 

李さんご本人と接することができたのは、

ここ10年以内のことで、お話しできたのも限られた機会だったけれど、

記録に残る歌やせりふの録音は、学生時代から膨大に聴いてきました。

 

やっと手に入れたカセットテープから『二都物語』の主題歌を聴いた時の驚き。

「石榴が割れて〜」と始まるAメロは、男性かと思うほどの低音だけれど、

やがて数行の歌詞のうちに果てしなく世界は盛り上がり、

終結部の「夜はどんな味がするの?」のという箇所では

女声の中でもとりわけ高音にゆきつきます。

それはそれはすごい音域の広さ。とにかく驚きました。

 

そしてまた、映像で見る李さんの身体能力の高さ。

芸能を志した時からたゆまず鍛え上げてきたダンスの精華がここにはあって、

動き回り、手足を動かす、身体いっぱいのダイナミズムが、

クルクル変わる表情の豊かさに結びついていて、

また、よく考えられた衣裳が、その運動を活かすように計算されている。

すごいな!と唸ってきました。

 

80年代の初頭にロックフェラー財団の招きで唐さんと李さんが

ニューヨークに滞在した時、唐さんはホテルに立てこもって『秘密の花園』を執筆、

李さんは毎日ダンスの稽古に行き、ブロードウェイの舞台を観て歩いたそうです。

お二人のキャラクターの違いをたたえる、自分の好きなエピソードです。

 

李さんの舞台に接した機会は何度かありましたが、

唐さんの作品に立たれたのは、2015年に金守珍さんがスズナリで演出した

『少女仮面』。ただ一回のみでした。正確には、

思わず同じ公演を2回観に行きました。

 

印象深いのは、1場最後の「春日野八千代」の登場シーン。

満を持して現れた李さんの、ゆっくり進まれることと言ったら。

驚くべきは、これが台本に、ト書きに書かれた通りの動きであることでです。

 

永遠の処女春日野はどこかを病んでいるふうに

吐気を催す程ゆっくり歩いてくる。

 

この「吐気を催す程ゆっくり」という指定を、全身で体現されていました。

突飛そうに見えて、ひたすら一徹に取り組む姿。

 

いつだったか唐さんが「李は真面目。あれほど真っ直ぐな役者はいない」

とおっしゃられていた真髄を見た気がしました。

 

もちろん他にも、3場の初めの少女・貝との稽古風景や、

水飲み男との掛け合い、満洲での天粕大尉とのすれ違いなど、

受けた印象は山ほどありますが、やはり冒頭は鮮烈でした。

 

たった一演目、たった一役だったけれど、

唐さんの世界に生きる李さんに接することができて、本当に良かった。

ギリギリ間に合って、本当に良かったと心から思っています。


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