6/30(火)浅草での付き合い

2020年6月30日 Posted in 中野note
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「付き合いを忘れちゃこの世は闇さ」
『ジョン・シルバー』2幕、「小男」のせりふより


昨日、浅草について書いたことで色々と思い出しました。
私は、あるもんじゃ焼き屋の女将さんに、
人と人との付き合いを教わったのです。

花やしきの駐車場での公演を繰り返していた頃、
近所のもんじゃ焼き屋の女将さんと親しくなりました。
女将さんは芸事を応援する浅草の気風に溢れた方で、
ご自身の店のみならず、周囲でご自身の顔のきくご近所さんの壁にも、
ポスターを貼って回って下さるのです。

自然と、このお店に通うようになりました。
このお店で、自分はもんじゃ焼きの底力を知ったように思います。
とにかく材料が厳選されており、旨いのです。
「B級グルメ」という言葉がありますが、なかなかどうして、
岩手から取り寄せたお水を使い、粉からさきイカからチーズから、
女将さんのこだわりが結集したもんじゃ焼きは他とは別格でした。

はっきり言って、通常のもんじゃ焼きより値段がしますが、
なるほどこれは高級であって仕方がない納得させられる質でした。


確か、搬出の日だったと思いますが、その日は食べ納めと思って、
トラックの荷積みの合い間に、いつもより早くお店に行ってみました。
それで、一番好きなもんじゃ焼きを頂いて会計をしようとしたところ、
「中野さん、ごめんなさい。クチアケだから」と言って
定価より500円多く請求されたのです。

クチアケ・・・何のことかよく判らず、
それでも、いつも優しい女将さんのことですから、
言われる金額をお支払いして現場に戻りました。

ネットで調べてみると、すぐに判りました。
「クチアケ」=「口開け」とは、開店して一番乗りしたお客のことで、
1日の商売繁盛を祈念してちょっと多く料金を頂く風習があるらしいのです。
元来が高級品である上に、バカにならない500円ではありましたが、
郷に入っては郷に従えと言い聞かせました。

問題はそこからで、お昼過ぎ、いよいよ荷積みを終えそうな私たちのために、
女将さんはいっぱいの焼きそばを差し入れてくださったのです。
明らかに、500円では及びもつかない量でした。

私の表情が怪訝なのを女将さんは見逃さなかったのだと思います。
もともと応援してもらっている身です。
もっとスマートに払ってこれなかったのかと後悔し、
ありがたさが身に染みました。

最後に伺ってから5年ほど経ちます。
すっかり足が遠のいて失礼をしていますが、
今度はもっと粋にこなせるでしょうし、
なんとなしに教育してくださったことも含め、
浅草はありがたい土地だと、改めて感じています。

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