7/2(金)『特権的肉体論』を読む

2021年7月 2日 Posted in 中野note
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↑思潮社版の復刻本。1983年に再刊されたものですが、
私たちがゼミ生となった2001年にはギリギリこれを新刊で買うことが
できました。大学生協にありったけ買ってもらって、ゼミナールでの
課題図書に。『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』を上演しました。


今日は、学習院大学での講座のゲストに呼ばれて、講座を行いました。
連続して日本の演技論を勉強しようというシリーズとのことですが、
今回のお題は唐さんの『特権的肉体論』、そこで私に白羽の矢が立ちました。

おおもとの『特権的肉体論』は、
唐さんが1968年に初めて出した著作、
思潮社の『腰巻お仙』に収められた文章群です。
大小さまざま、10の文章から成り立っていて、
『腰巻お仙』の「忘却篇」と「義理人情いろはにほへと篇」
の横に添えられている。

素直に読んでみれば、
これは体系だった演劇論、演技論、俳優論、芸術論であるより、
デビューしたての唐さんがその時々の発注に応じて、
自分の思うところを述べていった所感やエッセイです。

けれども、この「特権的肉体」という言葉のインパクトは絶大で、
「紅テント」と並んで、唐さんの代名詞になりました。


今回、これを機会に久々に読み直して「おっ!」と思ったのは、
俳優「サラヴィーダ」について触れたくだりです。

唐さんの代表作のひとつである『少女仮面』には、
颯爽と登場したヒロイン・春日野八千代が「サラヴィーダは知っている!」
という言葉に続けて、とうとうと長ぜりふを繰り出すのですが、
この名前については、同作品中には、「海でルンバを踊るブレヒト役者のこと」
という述懐があるのみで、ネットサーフィンしてみても一向に誰のことなのか
よくわからずにきました。

ところが、『特権的肉体論』の一節「石川淳へ」には、

しかし、ブレヒト的などというものは、チャールス・ロートンと
『8 1/2』のサラヴィーダだけで結構だ。

という一文が、ちゃんとあるではありませんか。

これを発見し、すぐさま『8 1/2』を検索条件に加えてみましたが、
どうもヒットしない。しかしまあ、フェリーニの映画を観れば
ヒントがありそうだということがわかったので、
時間を見つけて約20年ぶりのあの名作を観てみたいと思いました。
こんな些事を積み重ねていくことこそ、唐さんへの探究です。

学生さんたちの反応はもちろん、この一事をとってみても、
今回の講座を引き受けた甲斐がありました。感謝!

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