7/21(水)好きなせりふを言ってみて⑤
2021年7月21日 Posted in 中野note
↑『黒いチューリップ』二幕。下記の歌を歌唱中。
昨日に続き、今度は唐さんによくリクエストされた劇中歌を紹介します。
その歌のタイトルは『毀(こわ)れた橋』。
今、こうして思い出しても変わったタイトルだと思いますが、
これは恋愛の歌です。
この歌がうたわれるのは、
1983年にパルコ劇場で初演された『黒いチューリップ』。
その二年前、1981年に同じ劇場の柿落としとして公演された
『下屋万年町物語』の好評を受けて上演された劇です。
初演の演出は蜷川幸雄さん。
2004年の春に唐ゼミで『盲導犬』に挑戦して手応えを得た後、
秋の演目について唐さんと話し合っていた時、
私は、タイトルだけ知っていた『黒いチューリップ』がどんな物語なのか
質問しました。すると唐さんは「あれは良い!」「よく目を付けた!」
仰り、自分がまだ未読にも関わらず、上演を決めてしまったのです。
今から考えたら、ちょっといい加減な話でもありますが、
それほど唐さんが勧めるのであれば面白いに違いないと思って台本を探し、
それから文芸誌「海」に掲載されたものを手に入れました。
蜷川演出を前提に書かれただけあり、
多くの人たちが出演するこの劇を上演するのは大変でしたが、
確かに面白い演目でした。何より、"引きこもりの姉"というテーマが現代的。
その姉ノブコを巡って、なんとか彼女を世間に引っ張り出そうと、
主人公である妹のケイコは奔走します。
そして、引きこもりに至った原因を探るべく、姉の元恋人に会いに行く。
実は当のケイコもその人のことが好きなのですが、
彼のことを想って次の歌をうたうのです。
♪毀れた橋
ただ、渡り合うのは あたしにゃ合わない
そっと、咲くのも陰で慕うのも、
だから ここは毀れた橋
ただ、見つめあうのも あたしにゃ合わない
だって、ここは毀れた橋
ただ、睦みあうのもあたしにゃ合わない
橋は、こうして、こわれているから
ああ! まるで裏切りから始まった恋みたい!
(ムニャ ムニャ)
誰なの、こうして毀れた橋を渡らせるのは、そこに、あたしの恋があるのか!
あたしにゃ、恋が分らない、いつも、取るか取られるかだ、それでも恋!?
だって、春太さんに会った時だってーー。
相手は姉の恋人なので、叶うはずもない恋。
だから「毀れた橋」です。
それに、水や池を使うのが得意な蜷川演出に合わせて舞台の床は毀れており、
池のように大きな水たまりができている。だから、具体的にも「毀れた橋」。
一方で、歌詞を見ればわかるように、
この歌には悲壮感はなく、かなりコミカルでした。
だから楽しい。宴会でうたうと盛り上がる。
「椎野ちゃんは、のどかなのが良いよね!」と唐さんは仰っていました。
この歌と、歌に対する唐さんの評価は、
当時は青くて、どちらかといえば悲劇に憧れる傾向のあった自分の目を
開いてくださったように思います。
楽しいことは良いことだ。くだらないことも良いことだ。
そして、世の中には喜劇と悲劇が背中合わせにあることを、
この歌がうたわれるのを何度も何度もよろこびながら、
唐さんは私たちに教えてくださったのだと思います。
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