8/16(水)発見!幻の『性病部隊』! その②

2023年8月16日 Posted in 中野note
IMG_4362.jpg
"この国の空は私たちをきらっているのね・・・"
二人がキューバに侵入してひとこと目のせりふがこれ。
こういうところはやはり素晴らしい


やっと手に入れたマンガ『性病部隊』。
ひと言でいうと期待外れでした。

小池一夫先生(当時は"一雄"だったよう)らしく、極めて言葉が強い。

"私たちは諜報員(エージェント)でも兵士(ソルジャー)でもない・・
意志をもたない人間爆弾・・・"
"人類が開発した兵器の中でも一ばん汚ならしい性病爆弾なんだわ・・"

といった具合。
いつもの小池節に、やっぱりいいなあなどと惚れ惚れしますが、
しかし、この物語はどうかと思いました。

なにしろ、件の男女。
性病部隊に課せられた使命はものの数ページでたちどころに成功、
あっという間にキューバ全土の6割が彼らの持ち込んだ新型梅毒に
感染します。アメリカの作戦はただちにハマってしまう。

その上で、物語の主眼はその後の性病部隊に転じます。

彼らはすでに用済みとなり、
むしろ証拠隠滅を図るアメリカによって消されにかかる。

だいたいが、この二人に知らされていた自身への理解、
すなわち抗体ゆえに特殊梅毒を持っていても自分たちは大丈夫、
という情報自体が真っ赤な嘘だったと知らされ、
長くとも一年の命であることを知らされる。

他方、自分たちが貶めたキューバからは、
抗体保持者として、言わば生きた特効薬と目され、
これまた命を狙われるハメになる。

前門の虎、後門の狼の様相でアメリカとキューバに挟まれ、
しかも1年間の期限付きという条件下で、この男女はせめて
精一杯を生ききり、まるでアダムとイヴ、イザナギとイザナミの
ように孤高のひと組としてお互いを求め合う、という状況が
描かれるのです。

で、自分はこれらをひどくつまらないと思いました。
なぜかと言えば、それは単に、追い詰められた男女の心理に
過ぎないからです。それ自体は、一緒に殺人を犯したとか、
無人島で生きることになったとか、要するに一対が孤高である
心情と結局は同じになってしまうわけで、なにも『性病部隊』
という特殊設定を持ち出さずともできることなのです。

さらに言えば、特攻を命ぜられたあらゆる人間兵器には、
押し並べてこの心情や物語が当て嵌まってしまうのです。

自分はそれよりも、この性病部隊がいかに奇想天外な、
あるいは逆に、いかにも俗っぽい色仕掛けでキューバ人たちを
虜にし、業病を蔓延させるか。
そういうプロセスを描いて欲しかったと願わずにいられません。

発想の突飛さはさすが小池先生ですが、
先生はあろうことか、けっこう凡庸な正義感に駆られてしまった
のではないか。そのように思い、落胆とともに長年求めたはずの
一冊が、今は目の前にあります。

ここにお宝は無かったわけですが、
好奇心が満たされ、スッキリした思いはあります。
が、タイトルに妄想を膨らませていただけの方が良かったかも。

そういう思いで、ここ数日います。嗚呼、トゥループパリダよ!

トラックバックURL:

コメントする

(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)