8/26(月)『煉夢術』本読みWS 第4回

2024年8月26日 Posted in 中野note
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↑2019年の唐ゼミ☆公演『ジョン・シルバー』2幕より。
重村大介くんの演じた小男の長せりふは、『煉夢術』の偏執狂のせりふ
をそのまま援用したものです。唐さんが気に入っていたのだと思います


昨日、皆さんと読んだ箇所は第1部8場と9場、第2部の序盤でした。
このように『煉夢術』は2部構成になっており、1部は9つの場で
分かれているのに、2部はワンシーンのみという不思議な構成です。

これは私の推量なのですが、
唐さんはまず1部を書き、それからしばらく経って
2部を書いたのではないかと睨んでいます。構成だけでなく
それほどにテイストが異なる。それだけでなく、
1部は1部のみで完結している印象も受けます。

とまあ、色々な感慨がありますが、
まずは第1部の8場と9場をあたってみましょう。

地図を引き裂いて東京の裏側、闇の世界、夜の世界、
時の止まった夢の世界にやってきた青年は、屠殺人に導かれて
彼を惹きつけてやまなかったオルガンのもとにやたどり着きます。
誰がそのオルガンを弾いているのか? 答えは、自分自身でした。

要するに、この物語は自分探しであったわけです。
と同時に、彼は、街を管理する屠殺人たちの罠によって母親を
殺してしまいます。オルガンが鳴る時には誰かが姿を消すというのが
この街のルールです。今回はその対象が母親だった。
彼は期せずして自らの母を殺します。

自分の源に帰りたいという帰巣本能と、外に飛び出していきたいと
いう青年の冒険心を同時を表すシーンといえます。はっきり言ってこの
母殺しには、唐さんが兄貴と慕った寺山修司さんの影響も濃厚です。

一方、自らが罠にかけられたことに気づいた青年は、屠殺人に怒り、
ずっとこの街に居座り続けることを宣言します。
すると、屠殺人たちは戸惑う。このへんは唐さんのユニークさを表す
シーンで、主人公自身はかなり真剣なのですが、読者としては笑えます。
なにせ、オレは自立しないぞ!と謳うわけですから。

このへんの開き直りは唐さんの個性だと思います。
実際、これから上野・台東区をネタにしてどれだけ作品を生んだか。
後の唐さんの業績を知る私たちにとっては、納得の宣言です。
攻めの引きこもり、そういう感じがします。

9場で、青年は夜明けとともに昼の世界、日常に戻りますが
そこでも夢の世界の話ばかりしている、という設定で、
完全に夢遊病者化しています。塔のある街を巡る物語はこれで
完結しているようにも思えますが、先に進み、2部へと続きます。

2部に入ると1部の神妙さや暗さは鳴りをひそめ、一気に喜劇的な
やり取りが展開します。夜の街から昼の街へと帰るためのバス停で、
停留所の受付人とお客の一人である偏執狂がひたすら揉める、
しかもかなりくだらなく揉める、という軽演劇な展開を見せます。

偏執狂は、父親から受け継いだリヤカーと一緒にバスに乗ると
言って聞かず、受付人は当然これを静止して問答に発展します。
このやりとりが珍妙で面白い。

しかも、いつもはやってくるはずのバスは全然やってきません。
こういうシチュエーションの中でナンセンスな対話が延々くりひろげ
られます。よく見れば、1部の青年も、2部の偏執狂も、
過去の思い出にどっぷり浸かっているという共通項もあり、
いかにも唐さんだなあと思わせます。

ただ表れ方は明らかに違って、先ほど書いたように2部のやり取りは
かなり喜劇的で、何より登場人物と舞台が活き活きしています。
ようやく芝居味が出てきたなという印象です。

劇作家としての技量が明らかに上がっている。1部と2部の間に、
唐さんに何があったのかを想像しながら来週も読みます。
次回は、9/1(日)。

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