9/18(金)安保さんに捧ぐ⑤

2020年9月18日 Posted in 中野note
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↑向島ゆり子さん(左)と張紅陽さん(中央)をバックに歌う安保さん
「21世紀リサイタル」より


第五夜です。明後日が御命日。

自分の腕に少し自信が持てるようになると、
徐々に緊張も解け、安保さんの話はますます面白くなりました。
私は酒が飲めないので、NADJA(ナジャ )では
ほとんど「ウィスキーの香り付け水」のような水割りをつくってもらって、
これを舐めながら過ごします。ナポリタンもよく食べさせてもらいました。

状況劇場の稽古や唐さんの創作がどんな風に行われていたか
いつも興味を持っていた私は、まさに生き字引きである安保さんに
様々なエピソードを伺いました。

その中で判明したのは、
勢いや暴力性に任せて語られることの多い紅テントが、
実は徹底した稽古量を土台に展開していた事実でした。

例えば、唐さんや大久保さんは、
どちらかといえば、稽古の積み重ねよりも本番でハジけるタイプです。
稽古をしていると、すぐに飲み会に突入したくて仕方がない。
一方、李さんや根津さんを中心に、膨大な稽古が実践されていたらしい。

このあたりの遠心力と求心力、双方の激しさやぶつかり合いに、
当時の状況劇場の秘密がありそうな気がします。
だいたい、当時の劇団の様子を伺うと、
年末年始の他はとにかく稽古場に集まっていたそうで、
上演台本があってもなくても、例え公演本番が遠くても、関係がない。
過去の唐戯曲や、時には唐さんではない台本も引っ張り出しては、
稽古していたと聴きました。

そう言われてみると、1980年初演の『女シラノ』の映像には、
李礼仙さんと十貫寺梅軒さんが、バレエのテクニックである「リフト」を
駆使して縦横無尽に動きながら、矢継ぎ早に喋りまくる場面があり、
あのタイミングとスピード、安定感は、
緻密な段取り、繰り返しの修練なしには不可能です。

そんな風に、私は安保さんの話の中から、
いつも自分の芝居づくりに応用できそうな要素を探っていました。
もちろん、従来のイメージ通り、
かなり破天荒な唐さんたちの伝説も伺いながら。

そうして過ごしていた2011年度の初め、
当時の上司だった室井先生が、横浜国大のサテライト「北仲スクール」の
予算を使って唐さんのイベントを構想するべしと言ってくださったことが、
「大唐十郎展」や、目玉の「21世紀リサイタル」に結実していきました。

勿論、早期に私が安保さんに協力を仰いだことは言うまでもありません。

土台、このイベントの下地には、
安保さんが2005年春に下北沢シネマアートンで行った
『追跡・汚れた天使』上映と弾き語りが大きく影響していました。
『ベンガルの虎』の名劇中歌『鬼と閻魔』を初めて聴いたあの夜を経て、
『汚れた天使』も上映した「大唐十郎展」がありました。

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↑即興で歌って下さった石橋蓮司さんを完璧にサポートする安保さん

安保さんのご紹介により、伴奏に「めいな CO.」の張紅陽さんや
向島ゆり子さんら豪華メンバーもお迎えでき、
自分ではなし得ない幸福な一人歩きをこのイベントはしていきました。

このリサイタルのために、安保さんは私がお支払いした謝礼以上を
使ってスーツを新調したのだと、後に伺いました。
飛び入りで歌って下さった石橋蓮司さんに対し、
圧倒的な経験値と対応力で伴奏を付けて下さった安保さん。

『蛇姫様』を経た私は、以前より堂々と安保さんに会い、
胸を借りることができるようになっていました。

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