9/25(金)台風の記憶②〜2004年11月 唐組『眠りオルゴール』

2020年9月25日 Posted in 中野note
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↑紅テントに出演中の禿恵。
去年末に亡くなった写真家の増尾久仁美さんが撮影して下さいました。

昨日に続き、2004年唐組秋公演の初日を台風が直撃した時の話です。

あの日は確か、70〜80人のお客さんが来ていたと記憶しています。
その内訳が誰だったかはよく覚えていませんが、
先ごろ亡くなった評論家の坪内祐三さんが合羽を着て嬉しそうに
やって来たことは印象に残っています。

坪内さんのみならず、今日の芝居をこそ絶対に観届けなくては!
客席にはそんな猛者たちの気合が漲っていました。


演目の『眠りオルゴール』は、
かつて二人のオルゴール職人が約束した誓いが戦争によって
果たされず、そのことを恨んだ一方がもう一方の息子を
窮地に陥れるという話を軸に展開する物語でした。

稲荷(卓央)さんが主人公の青年「兄谷(あにや)」を演じ、
丸山(厚人)くんが「兄谷」を陥れる「梶川」役でした。

戦時中にヒロポンを与えられ、眠ることを許されなかった兵士たち、
現在の新宿にたむろし、薬物による喧騒に眠りを忘れた若者たちに、
彼らの神経を慰めるような、安らぎのオルゴールが響くという話です。

と言っても、これは後日に改めてした観劇によって知ったストーリーで、
初日の私は本番中、ずっと楽屋番をしていました。
公演開始時間になって雨は弱くなったものの、
風は未だに止まなかったからでした。

運動会の受付用に使うような楽屋テントが風に煽られる度、
それが飛ばないように押さえつける役でした。
風が弱まると、紅テントに近づいて、
幕の隙間から舞台の進行を途切れ途切れに覗きました。
・・・盛り上がっている!
あれはあれで、なかなかの観劇体験でした。

記憶に濃いのは、これからまさに芝居がクライマックスに突入する寸前、
一度ステージから引っ込んだ稲荷さんが楽屋に駆け込み、
ウイダーインゼリーをひと飲みにしていったことでした。
一日中働き続けて食事もままならず、
けれど最後の最後で渾身の熱演を見せようと、
自らに鞭をくれるかのように紅テントに帰って行った稲荷さんを、
自分は惚れ惚れと見送りました。

そして終幕。
いつも不思議なのですが、大雨の時も、台風の時も、
終演後には何故か雨が上がる印象があります。
この時も天気はすっかり穏やかになり、安堵感と、
今日一日を称え合うような充実感に紅テントは満たされました。

それにしても、自分は今も、
開演時に挨拶に立った唐さんが忘れられません。
唐組の開演時にはいつも若手が挨拶に立つのが通例ですが、
この日はオレが行くと言って唐さんは花道を進んだのです。

観客に来場への感謝とこれから始まる芝居への気迫を伝えた後、
唐さんはこう叫びました。「眠れ、オルゴール!」

・・・・・オルゴールは、
眠れない皆を優しく眠らせるから『眠りオルゴール』なのです。
オルゴール自体は決して眠ってはいけないのです。
しかし、何故か唐さんはそう叫んだ。感動しました。

もはや話の整合性や細部は関係なし!
暴風雨にさらされ高まる混沌と期待をさらに煽り立て、
唐さんと唐組の面々は「オレたちの戸山ハイツ」に突入していったのです。

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