劇団員と『少女仮面』〜『吸血姫』

2019年11月 2日 Posted in 中野note
唐さんは『少女仮面』をたった二日間で書いたのだそうです。
「あれ以来、同じ書き方はできないなあ」
以前、色々なお話しをしながら、そうおっしゃるのを聞いたことがあります。
畏ろしいことです。

あの芝居には何度も、印象的にメリー・ホプキンスの『悲しき天使』が流れますが、
執筆の間、唐さんは劇団員の手を借りて、
この曲をヘビー・ローテーションで聴きながら書いたとか。
1968年当時はもちろんレコードですし、リピート機能も無いですから、
数分の曲が終わるたびに針を戻していた。
その劇団員が十貫寺梅軒さんだそうです。

劇団員といえば、
『少女仮面』を乗り越えるために唐さんは『吸血姫』を書いたのではないか、
私はそう推測してきました。
あくまで私の想像、妄想ですが、どうもそうではないかと思っています。

唐さんは1969年に『少女仮面』で岸田國士戯曲賞を受賞されましたが、
おそらく、この受賞は大いなる喜びであると同時に、別の思いもあったのではないかと推察します。
それは、『少女仮面』が早稲田小劇場のために書かれた作品だからです。
1963年の状況劇場創立以来、メンバーが入れ替わりながらも苦楽を共にしてきた劇団員たちを思うと、
唐さんは『少女仮面』以上の作品を紅テントで成し遂げる必要があったのではないでしょうか。

姉妹作のようにして書いた『少女都市』は、
寺山修司さん率いる天井桟敷の面々と起こした渋谷での大ゲンカ、
有名なスキャンダルのために上演回数も少なく、作品としては影を薄くしています。
翌年に書いた『愛の乞食』は間違いなく優れた作品ではありますが、
『ジョン・シルバー』シリーズのスピンオフです。
『少女仮面』自体の紅テント版も上演しますが、
やはり新作初演のインパクトを求める向きは強かったのではないでしょうか。

ちなみに唐さんの作品に「満州」が登場するのは『少女仮面』からで、
『少女都市』『愛の乞食』と、その手応えはリフレインし、やがて『吸血姫』の2幕で爆発します。

「少女」を題材に取り、序破急の三部構成、満州を彼岸とする点において、
長大さこそかけ離れているものの、両者はすごく似ています。
むしろ、唐さんは過剰にスケールアップした『吸血姫』に自身の劇団員たちと到達することで初めて、
世評の高かった『少女仮面』を圧倒し得たのではないかと、私は睨んでいます。

傑作『吸血姫』には、30歳を迎えた唐さんの創作が乗りに乗ると同時に、
劇団員たちとともに表現の高みに至ろうとする唐さんの意志が込められているのではないでしょうか。

今日はちょっと私の想像ばかりで、
「中野、ぜんぜん違うぞ!」と怒られてしまうかも知れません。
ですから、眉に唾をつけて読んでください。


そうそう。劇団員といえば、
唐ゼミ☆に二人、新しいメンバーが加わりました。
「ちろ」と「佐々木あかり」です。
両方とも、この前の三部作一挙上演に参加してくれた縁で、正式に団員となってくれました。
また別の機会に、紹介することにしましょう。

劇団員は大事です。

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2012年の秋に唐ゼミ☆で上演した『吸血姫』


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