4/13(火)どちらが好きか? 春と秋

2021年4月13日 Posted in 中野note
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↑春。近所の川には5月に備えて鯉のぼりが連なる。
まるでメザシかシシャモのようでもある。


前回のワークショップから早くも一種間が経ち、
明日は第2回目の『海の牙 黒髪海峡篇』です。

これは全く愛すべき台本、冒頭にとにかく力があります。

カツラ屋を舞台に幕開けしたと思ったら、
瞬間、絡みついた髪の毛が解けずに苛立ったカツラ屋の主人が
女房の名を叫びながら癲癇の発作を起こす。
すると、当の女房が登場し、発作を起こす旦那を静めるため
倒れた彼の頭に足をのせる。と、実際に旦那は落ち着きを取り戻す。
問題はここからで、脇にいた番頭は、この夫婦の行為に羨みに満ちた
視線を向ける。どうもこの女房と番頭はアヤシイ。
実際、倒れた旦那を残して、二人は店の奥へと姿を消す。
何やら奥で不倫な行為が行われている気配が漂うと、
やおら、勢いに乗った按摩の群れが舞台袖から列をなして現れ、
「どなたか、つかまらしておくんなさあい!」と叫びながら、去る。

ここまでが2ページとちょっと。
どうですか? この恐るべき情報量とハイテンション!

ところが、ここからは比較的ダラダラとした会話劇に突入します。
ペアを変えながら、それは結構な長さで続く。

・・・要はこの台本、明らかに突貫で書き上げられたのです。

1973年が明けると、2月『四角いジャングルで歌う』、
3〜6月『ベンガルの虎』のバングラデシュ公演と国内公演、
並走して5月櫻社『盲導犬』と6月ラジオドラマ『ギヤマンのオルゴール』の本番、
夏には8月テレビドラマ『追跡-汚れた天使』のお蔵入りと、その処遇への反対運動。
とこんな具合で、とにかく忙しかったわけです。

充分な執筆時間などあろうはずもなく。
が、そんな状況でも9月発売の「文芸誌『海』10月号」には
しっかり『海の牙 黒髪海峡篇』の戯曲が掲載されているわけですから、
唐さんの超絶速技。

必然、30代前半、唐さん絶好調時の勢いに満ちつつも、
どこか暴発しっぱなし、構成的にはどこに向かうのかわからない作品が生まれます。
これが、その頃の秋公演の演目に漂う共通の特徴です。

反対に春公演は、テントのオフシーズン、11〜12月にかけて
よく準備されて書き始められた演目が多い。構成がしっかりしています。
平たく云うと、春公演の演目は、エンディングを決めて書いた感じがする。
一方で、秋公演の演目は、最後にどうなるかわからないけど
とにかく書き始めてしまった感じに満ちている。

私は個人的に、秋公演演目が好きですねえ。
だから、ずっと唐ゼミ☆は『鐵假面』『夜叉綺想』などをやってきました。
こう云った演目に共通するカオスに、物語の筋を通す作業の面白さ。

一方で、お客にウケるのは春公演の演目です。なんと云っても見やすい。
薄々感づいていましたが、この前に『唐版 風の又三郎』をやって、
心からそう思いました。

劇団主催としては、コロナ厳しき折でもありますし、
興業は当てなければなりません。秋公演的な演目はしばらく断念かな、
と思います。でもやっぱり、特に唐さんを好きな人には秋公演演目の
入り組んだ魅力も伝え、共有したい!
そう思いながら、明日のワークショップの準備をしています。

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