6/23(水)虫の脅威②
2021年6月23日 Posted in 中野note
2005.3に近畿大学で上演した『少女都市からの呼び声』
巣立っていったカブトムシの話をしました。
虫と唐さんといえば、「鳥の目、虫の目」という言葉が有名ですね。
「蜷川くんは鳥の目、僕は虫の目」というのが唐さんの自認するところ。
つまり、蜷川さんの作品づくりは俯瞰で見た世界という感じがするけれど、
自分は触覚や嗅覚を大事にしている、ということです。
体当たりの感覚や実感、そういうものは、
役者でもある唐さんの必殺技だと思う。
いつだったか、テレビの取材に、
「自分は尺取り虫みたいなもの」と答えられていたこともありました。
地べたを這いずりまわる感覚に、テントを担いで興業している自分は
支えられているとおっしゃりたかったのすが、例によってインタビュアーは
キョトンとしていました。
自分にとって、唐さんと虫にまつわる事柄で印象深いのは、
今年の初めに唐組が上演した『少女都市からの呼び声』です。
あの作品のすごく重要なところに、虫が出てくる。
シーンとしては、
この世に生まれてくることができなかったヒロインの雪子が、
現世からやって来た兄・田口と入れ替わって現実の世界に行くために、
田口の指を欲しがるシーンです。
妹のために兄は流血も辞さず、生きている指を授けようとします。
二人がそう決意すると、ここからはまるで
ヤクザ映画における指ヅメのシーンが展開します。しかも、三本!
そして、この場面。痛みと緊張が極に達した時に、虫は登場する。
指を切断する行為の最中に、雪子は周りを這い回る虫が気になってしまい、
これを退治しようとする。兄の田口はたまりかね、自分の指を半端に切っておいて
虫を追いかけるのはやめて!と訴えます。
コミカルなシーン。
しかし、唐ゼミ☆でこの演目を上演した20代前半の私は、
この場面をうまくつくることができませんでした。
人生経験が足りなかったのだと思います。
例えば、お葬式の最中にも、吹き出してしまうことはあるし、
爆笑を誘う芸人さんの中に悲哀が溢れることもある。
そういうこと。人生の悲喜劇が隣合わせにあることを、
当時の自分は実感していなかったのです。
この場面をうまくやれば、
笑って、泣いてという喜怒哀楽が入り乱れて、
双方が双方を引き立てる素晴らしいシーンになります。
今では、そういう感覚と技量を持っているつもりですが、
当時の自分はいかにも鈍感で、悲劇なら悲劇、喜劇なら喜劇、
そういう感じでした。
青かったなあという苦味とともに、唐さんと虫のことを思い出します。
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