5/29(月)『二都物語』本読みWS 第4回レポート

2023年5月29日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『二都物語』
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↑ジャスミンの写真。思えば小さく可憐な花ではありませんか!

昨晩の本読みWSのレポート、今回は第4回目です。
箇所としては、1幕終わりから幕間の前半を当たりました。
特に重要なのはリーラン=ジャスミンの過去が明らかになり、
彼女の苦境が描かれる1幕の終盤です。

太平洋戦争末期、
日本人の青年と恋仲になった朝鮮人の少女リーランは、
敗戦後の排日運動の中で彼を守ろうとします。
そして同じ朝鮮人の男たちに輪姦される。

この場面で、日本人の青年もまた男たちに暴行を受けながら
リーランを「ジャスミン」と呼びます。
「ジャスミン」というのが、彼らが国境や植民・非植民国の立場を
越えて愛し合うために付けたリーランだと、この場面から判明します。
好きな男のために身を挺して乱暴されるリーラン=ジャスミンの
悲痛なシーンが展開します。

・・・と悪夢のシーンが終わり、
時間と場所が現代の東京に戻ると、リーランはかつての恋人の姿に
目の前の内田一徹を重ねます。しかし、内田は妹の光子を思うばかりで
リーランのことなど目に入らない。まして「私はジャスミンよ」と
迫られても、反応のしようがない。内田にとっては理不尽な
アプローチを受けているのに過ぎないとも言えますが、
この行き違いは、リーラン=ジャスミンにとって悲劇です。

彼女は内田に、自分がいかに彼を守ったのかを証明しようとして、
何度でも自分が輪姦されたシーンを繰り返しリフレイしようと、
100円をねだる。悪夢のような過去が同時に恋人への無償の愛に
つながり、本来は他人である内田が反応のしようもないことが、
リーランの哀切を生む。

そして、木馬によって遠ざけられた光子が舞台に帰ってくると、
リーランはますます内田の前で霞んでしまいます。
この構造こそ『二都物語』で必ず押さえておかなければならない
物語の基本設定です。

顔に大火傷をして包帯グルグル巻きにした
妹・光子もまた悲劇的な存在ですが、兄・内田がいることに
彼女の強みがあります。

他方、リーラン=ジャスミンの圧倒的孤独。
だからこそ、リーランは光子を排除して内田を奪おうとする。
哀しい哀しい過去が彼女をそのような衝動へと駆り立てるのです。

1幕ラスト。「包帯の王女」を名乗る光子+光子の友だちに
赤チンの女王として対抗するリーランは、徹底した弱者の強がりです。
多勢に無勢。突っ張ってはいるけれど、可哀想なリーランの
チャレンジが、物語を後半へと誘うのです。

・・・長くなったので、今日は1幕の終わりのみとしましょう。

皆さんと『二都物語』を読んでいると、今までのステレオタイプが
取り払われて、物語が真の姿を表す感動があります。

リーラン=ジャスミンは、怪物のような女傑ではなく、
傷つき疲れた少女だということが素直に浮かび上がります。
タンカを切るようなせりふが快い反面、それらはすべて彼女の
強がりなのです。考えてみれば「ジャスミン」というのは、
小さな花びらを持つ可憐な花であり、バラのような毒々しい
美しさを誇るような花ではありません。

だいぶ『二都物語』の目指すべきところが見えてきました。
明日は幕間についてレポートします。

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