5/2(火)『愛の乞食』本読みWS 最終回レポート その①(中野)

2023年5月 2日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『愛の乞食』
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↑いじましくもコミカルな、金歯山分けのシーン
唐ゼミ☆『愛の乞食』2010年公演より(写真:伏見行介)

3月半ばにスタートした『愛の乞食』本読みが最終回を迎えました。
終盤に訪れる立て続けの名シーンを読んでいきます。


まずは、海賊三人衆の金歯山分けシーンから。
この場面、尼蔵、馬田、大谷、チェ・チェ・チェ・オケラが
1930年以来、永々40年に渡ってため込んできた獲物を披露し合い、
山分けするという趣向でシーンが展開します。

生真面目なチェの獲物は金歯。
彼は律儀に年に13個を手に入れてきました。
40年で520個の金歯。それをチェが留守の間に3人で山分け。

1年に13個というのは少ないのではないか。
あれから40年というと、尼蔵たちはいったい何歳なんだ。
よく考えたらジジイじゃねえか。

など、ツッコミどころ満載のおかしな点はたくさんたくさんありますが、
チェに2個。残る三人で518個を目分量で山分け、という場面。

続いて馬田、大谷、尼蔵という風に獲物を披露するわけですが、
刑事として得た軽犯罪の調書、ミドリのおばさんとして得た
子どもの弁当箱や物差し、上履きといったショボい獲得品が
次々と露見し、三人はお互いの無力に打ちのめされます。

「海賊限界説」。つまり、現代において海賊は不可能。
戦後の平和や平等に飽き足りない人間の叫びを凝縮した言葉です。

海賊三人は悲嘆と自嘲に暮れ、内輪揉めがエスカレートした挙句、
同士討ちして死にます。朝日生命に勤める主人公はずっとそれを傍観。

その後、眠り続けていた万寿シャゲが起き出し、
一本足の憲兵への思いを語ります。彼女は時が止まったように
少女のままで、朝日生命の青年に切々と想いを伝える。

ここでポイントなのは、朝日生命とシルバーは一人二役であると
いうことです。同じ役者が演じることが、このシーンに生きる。

と、そこへ警察がなだれ込んでくる。
尼蔵たちに刺されたガードマンの遺体を処理していたチェを
見咎めたところから公衆トイレに踏み込み、尼蔵たち、
万寿シャゲ、皆を一斉に運び出します。

すると、そのあまりのぞんざいさ、
満州以来を生きてきた者たちを冷淡に処理していく
警察の仕事ぶりに激昂した朝日生命は、「朝日生命の海賊」を
名乗って警官たちに抵抗します。

これは、実に青年らしい反抗心、現実に対する異議申し立てを
凝縮したシーンですが、果たせるかな、青年はあっという間に
なぎ倒され、お縄となります。
「海賊限界説」がもう一度、判で押される無惨。


全てが終わって静まり帰った公衆トイレ。
そこにトイレの利用者がやってきます。何でもないただの利用者。
彼が用を足していると、そこに水洗の音がして、それが海鳴りの
ように大きくなって、奥の扉が開くと、そこに一本足の憲兵、
シルバーが立っている。

「万寿シャゲ、万寿シャゲはどこだ!」
という彼の叫びとともに『愛の乞食』は幕を閉じます。

・・・今日はあらすじで手いっぱいだったので、
解説はまた明日。

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