12/12(金)『盲導犬』本読みWS 第3回 その②

2025年12月12日 Posted in 中野WS『盲導犬』
「夫」は何をしたのでしょうか?
タイのバンコックで安キャバレーの女「トハ」に拳銃で撃たれた
ということだけが語られていて、その原因についてはまったく触れられて
いません。でも、だからこそ、想像力を働かせるキッカケがそこに
あるわけです。

まず、事件に巻き込まれたということがあるかも知れません。
けれど、これは割につまらない仮説です。

『盲導犬』という劇全体を見てみると、
「盲導犬学校の先生」と「夫」とは同じ俳優が演じるように設定されて
います。そして、「先生」には、犬ないし生徒たちに全体的な服従を迫る
というキャラクターが与えられ、「夫」の「銀杏」に対する接し方や
過去の恋人とのラブレターについての処し方も、なかなかの亭主関白
ぶりといわざるを得ません。実に全時代的なハラスメント野郎と
言えますが、他方、かなり仕事熱心であり、日本における
視覚不自由者たちのために盲導犬学校の設立と運営に献身してきた
点は、なかなかの偉人ともいえます。
要は、かなり「昭和の男」であったわけです。

そのような男性が、タイのバンコックにおいてキャバレーの
ホステスたちにどう振る舞ったかは、想像に難くありません。

かつて、社員旅行や町内会の旅行などで、昭和の男たちが
物価が安く、人権意識の低いアジア目掛けて団体旅行をする習慣が
あったことを考え合わせると、「トハ」の放った銃弾は、そういう
男たちに向けられた一矢であったわけです。
情けなく逃げるところを後ろから頭部を貫通される夫、
上流階級に育ったものの傲慢を打ち砕く死が、そこにあるわけです。

・・・というように考えてみたら、この劇は上手くいくのでは
ないでしょうか。そして、一人の女優の中で「銀杏」と「トハ」は
手を取り合う。同一の男に抑圧されることで、敵の敵は友達となり、
一人の女になってしまう仕掛けは演劇ならでは見事さです。

そんな風に考えて、明後日も『盲導犬』の続きを読みます。

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