1/21(金) ワークショップレポート〜1/16『吸血姫』完結
刺したり刺されたり。血しぶきの舞うクライマックス。
いかにも唐作品というイメージを代表するのがこの『吸血姫』。
ここ2ヶ月間、取り組んできた『吸血姫』が完結しました。
その様子を報告します。
3幕後半。
零落した愛染病院の人々の描写したから物語が再開します。
若院長・浩三、女たちをスカウトして看護婦に仕立てる中年男、
看護婦を各地に売り捌く役割の花形の三人がすっかり落ちぶれている。
「海之ほおずき」を名乗った女の本名は「海之さと子」と知れ、
母亡き後、父との近親相姦の果てに父の子を妊娠、
暴力にも耐えかねて父を殺し、流産もした素性も前幕で明らかに。
今では、三人の男たちの食いぶちを稼ぐ娼婦として、
身体を売っては酒びたりの生活をしています。
そこへ、歌手志望の青年だった肥後がやってくる。
肥後としては、かつて引っ越し看護婦として登場した時の人力車まで
持ち出し、彼女にありし日を思い出すよう説得を試みます。
が、辛酸を舐め尽くしたさと子にとっては、甘っちょろさ以外の
何ものでもないと、一蹴します。
その時のキーワードが、
「もうすぐあたしが来る」「あたしが来ないうちにどっか行け」
という意味深長なせりふ。これが三幕のキーワードでもある。
さと子が気にする「あたし」とは誰なのか。
「あたしが来る」というのどういう状態なのか。
台本を読む者、芝居を観る者は、その謎めいたせりふの
繰り返しに否応なく巻き込まれる仕掛けです。
そのうち、肥後が粘り強く訴えると、さと子も絆されます。
久々に人力車に乗ってどこかに行ってしまおうか、
そう思い直したところで、ストップがかかる。
浩三が、中年男が、花形が次々に現れ、
現在の稼ぎ頭であるさと子を強烈に引き留めます。
女たちを食い物にする日陰者の彼らと、父殺しのさと子。
彼らはしっかりと結びついてしまっています。
肥後の誘いを打ち消すように、
再び川島浪速に扮した中年男は、さと子を持ち上げます。
母にも、看護婦にも、氷の国の女王様にもなれないさと子ですが、
娼婦として男たちを慰め、女たちが中絶した堕胎児たちの母としてなら
生きられる、という理屈です。
肥後の提案する「青春・愛・挫折・希望」、
肥後がさと子の暮らした家から持ってきたお母さん人形や
ほおずきなど捨ておいて(この「ほおずき」こそ仮名のアイディアのもと)
闇の世界に生きようとさと子を縛り付ける男たち。
さと子は両者の間で激しく揺れます。
そして、さと子を間においた男たちの綱引きが極まる時、
突如としてさと子は肥後に斬りつける。これに驚愕する男たち。
そうです。これこそが「あたしが来る」とさと子自らが予言した
状態でした。
さと子が背負ってきた過剰な不幸は、
さと子との青春を夢見る肥後はおろか、
彼女を食い物にしようとする耕三・中年男・花形らの思惑を圧倒し
深すぎる闇としてすべての男たちの前に屹立します。
すると、それに呼応するように、
二幕で耕三が殺してしまった床屋の女房・ユリ子、
三幕前の幕間で自殺した高石かつえまでもが舞台上に復活する。
男の欲に翻弄されてきた女たちが
闇の女王と化したさと子に応えて甦る壮麗なエンディングです。
ここに『吸血姫』のタイトルの意味も明らかになる。
男たち、すなわち吸血鬼たちに組み敷かれてきた女たちの中から
現れたさと子の闇が逆襲する時、いまや「吸血姫」として君臨する。
『腰巻お仙』『続ジョン・シルバー』『少女仮面』『少女都市』と、
唐十郎が執拗に展開してきた「少女論」の極北がここにあります。
ということで、傑作『吸血姫』もこれでおしまい。
次回の私のWSは、渡英前の区切りということで、
『特権的肉体論』を読み、『少女仮面』『吸血姫』の振り返りをします。
明日からは、劇団員・林麻子の劇中歌ワークショップも始まる。
メインのお題は『吸血姫のテーマ』。ぜひご参加ください。
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