1/6(木)『吸血姫』WSレポート 二幕終盤(中野)
↑1971年の状況劇場初演、2018年唐組再演で使われたビジュアルです。
この絵柄の意味が分かるのが、二幕終盤のくだりです。
中野からのワークショップレポートです。
昨晩は『吸血姫』二幕の終盤をやりました。
海之ほおずき、本名は"海之さと子"を迎えに来た父親の妻となるため
結婚式よろしく、母がさと子を生み落とした関東大震災の景色を
再現する前回からの続きです。
まず、中年男が扮した川島浪速(なにわ)が登場。
この人は実際の人物ですので、養女の川島芳子と併せて簡単に紹介します。
川島浪速は幕末の長野県松本に生まれ、
明治維新以降に成長して官吏となり、台湾、日清戦争前後の清で頭角を現す。
その後、清が滅びて中華民国が誕生すると、満蒙独立を目標とし、
清朝の第十四王女を養子に迎えます。
皇帝の血を引く彼女の日本名が"川島芳子"。
芳子が養子となったのが8歳(1915年)。
その後、17歳で自殺未遂をして以来、断髪・男装となり、
これが当時の新聞に取り上げられて人気を得る。
昭和となり、満州国を建国して運営する日本に協同して
諜報活動などにも加わったとされ、"東洋のマタ・ハリ"として、
ここでも人気を得ますが、太平洋戦争後は中華人民共和国により
処刑されてしまいます。
『吸血姫』に戻ると、
中年男扮する川島浪速は、幼女・芳子が亡くなった後、
芳子の代わりに特別な血を持った女を探しており、そこで、
さと子に目をつけます。
父と結婚して娘を生み、その娘がさらに父と結婚して娘を生む。
これを繰り返して"濃い血"を持ったさと子こそ理想的な女。
そのように浪速は彼女に興味を持つわけです。
ここから、さと子がしようとしていた父親との結婚は、
"第二の川島芳子"づくり→満州国設立→芳子が王女様に
→国民をお世話できる、という方向性で話が進み、
さと子もすっかりその気にさせられていきます。
もともと"引っ越し看護婦"として、
自分が生まれた時に起こった関東大震災の被災者たちを
お世話したかったさと子としては、北へ北へと逃れた被災者たちを、
看護婦以上の王女としてお世話することができれば本望なのです。
いつしか、目隠しをされたさと子は、
不思議な血を看護婦たちに注射されて"第二の川島芳子"となり、
ボロボロのナース服から軍服姿の男装の麗人として再登場。
耕三や、正体を明かした川島浪速→中年男の意のままになろうとします。
が、その時、一幕以来に歌手志望の青年・肥後が登場、彼によって
看護婦長が刺殺されると計画は破綻し、愛染病院は大パニックに。
引っ越し看護婦としての皆様をお世話、
父との結婚を経た純血種→第二の川島芳子→王女として国民をお世話、
この二つのお世話への望みを断たれたさと子は悲嘆に暮れます。
結局、さと子とは、母に死なれた高校生の少女に過ぎず、
夜毎、父親から近親相姦を迫られ、父の子を妊娠。
暴力にも耐えかねて父を殺した後、流産した女に過ぎたかったのです。
それが"海之ほおずき"を名乗りナースの真似をしていた。
という正体がわかってくる。
一方、愛染病院とは、病院の名を騙り看護婦を集めては、
時には芸能界を夢見させて高石かつえのようにキャバレーに叩き売る。
床屋の女房・ユリ子のように、面倒と思えば殺してしまう。
そういう組織であることも知れてくるわけです。
上記の事情は一切わからずに、青臭い正義感から看護婦長殺しまで
やってみせた肥後は、逃げる愛染病院の人々嘲笑しますが、
さと子の叫びに圧倒されている間に、耕三にさと子をさらわれてしまう。
この詰めの甘さ。
・・・というように、三者三様入り乱れるのが、二幕終盤でした。
それにしても、さと子を意のままにするために、愛染病院の面々が
労やを惜しまないのが、面白い。
彼女の身の上を調べ、さと子が殺してしまった父とそっくりの人形を
つくり、父として説得させる。(『少女仮面』の腹話術の応用!)
結婚式のために風呂屋の上げ板を用意し、中年男は川島浪速の扮装まで
してみせる。"不思議な血"とされる注射器の中身は、女の子を意のままに
するための"薬物"と見られますが、それだって手に入れるにはコストが
かかりそうです。
唐作品によくあることなのですが、
悪役はどこかセコい上に、
主人公たちを翻弄するために大きすぎる手間や資力をかけがちです。
せりふがとにかく凄いので、たいそうなな悪人たちに見えて盛り上がる
のはもちろん、それだけでなく、ギャップも含めて、
読む・観る・演じる者として味わうのが醍醐味です。
特に二幕は、夢野久作の『氷の涯』に出てくる北国の情景描写や、
満州帝国、川島芳子なども登場し、スケール感が急激に増します。
その実、行われているのは、今日も都会で少女が騙され、
夜の世界に引きずり込まれるのと変わりません。
こういった具合に愉しんでもらえればと思います。
それでは、続きは幕間から三幕へ。
あと二回でワークショップ『吸血姫』篇が終わります。
トラックバック (0)
- トラックバックURL:
コメントする
(コメントを表示する際、コメントの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。その時はしばらくお待ちください。)