10/10(月)『黒いチューリップ』本読みWS 最終回レポート(中野)
↑エンディング。目を凝らして、二人の間をつなげるチューインガムを
見てください。
『黒いチューリップ』本読みWSの最終回。
最後まで通して読んでみて、改めて良い台本です。
池があり、100人の役者がいて上演するのはたいへんだけれど、
情緒が泣かせます。血みどろの残酷劇でなく、
唐さんが描く世話物の魅力に溢れています。
ノブコが登場し、彼女の危うさが光ります。
引っ込み思案のキャラクターをベースに、
怒る、嘆く、かと思えば嬉々とする。
自分でも制御できない感情の波が彼女を駆り立てていく。
春太に抱きつかれていたケイコを疑いつつ、
結婚式を台無しにして自分を迎えに来ようとした春太に希望をつなぐ。
とにかく彼女は落ち着かない。周囲を安心させない。
これがノブコの魅力です。壊れそうな心を持って、
ギリギリのところを生きている彼女。
エコーが持ってきた黒いチューリップの鉢には、
当然ながら見事な花など無く、誤魔化しに造ったショボい
造花があるのみ。ケイコをなじり、春太に土下座して謝るノブコ。
激しいシーンが続きます。
そんなノブコを受け入れてくれるよう頼み込むケイコに
春太は進み出ます。そして、ノブコではなくケイコを抱きしめる。
さらにノブコを容赦なく罵る。ノブコの心は完全に崩壊。
この時の春太の心情は謎です。
どうしてここまでする必要があるのか。
多くの手間をかけ、ノブコを陥れる必要があるのか。
私の考えでは、春太は黒いチューリップにのめり込むあまり、
先のその完成に辿り着こうとしたノブコに嫉妬したのではないかと思う。
自分以外に、その花にたどり着く者がいることが許せない。
そういう心情がノブコを破壊しにかかる。
彼もまた、取り憑かれています。
春太にここまでされて、ケイコは復讐に出る。
春太の持っていた結婚式用のケーキナイフを構え、彼を刺そうと迫る。
そして、姉ノブコとは違い、心を病むことなくこの復讐を達成し、
服役を終えて世間に出る!と啖呵を切る。
が、今度はノブコがケイコを止めにかかる。
皮肉ですが、ケイコの暴走がノブコの理性を目覚めさせる。
やりきれなくも見事なシーンです。
これでケイコは膝から崩れ落ち、殺人未遂半年て泡小路ひきいる
刑事たちに連行される。
去り際にケイコが放つ「アイ・アム・リターン!」という英語・・・
文法的には完全に間違っていますが、この劇ののどかさと真剣さ、
可笑しみを謳いあげる名ぜりふです。
全てが片付き、ケイコが歌った歌声はパチンコ店の喧騒に飲まれます。
エコーの聴覚を持ってしても、もうステキな花の声が聞き取れない。
数日後、関西風の女がうなだれるエコーの前に立ちます。
その女こそ出所したケイコ。自分を慕い続けるエコーに、
恋が何かわからず、いつも「取るか/取られるか」だと言っていた
ケイコは、「今度はエコーを取る」と宣言します。
そして、黒いチューリップのキッス。
1幕では正露丸。2幕では氷砂糖。ケイコが最後に仕掛けたキスは
チューインガムでした。二人の口もとからガムは伸び、パチンコ屋に象徴される
世間の喧騒に揉まれても、二人の絆が決して途切れないことを魅せます。
正露丸、氷砂糖、ガム。
いずれも子どもの世界を代表するアイテムを並べて、
唐さんが繰り広げた可愛らしい世界が完結しました。
初演は1983年。
1982年に初演した『秘密の花園』の影響も大きい作品ですから、
目下公演中の唐組を観に行くと、さらに深く味わえます。
来週からは『ベンガルの虎』。
唐ゼミ☆では未上演の演目ですが、この唐さんの代表作の一つに取り組みます。
11月には、前にコロナで延期になっていた流山寺さんの上演もあるようです。
観劇の予習や復讐にもオススメ。劇が100倍愉しめます。
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