1/16(月)『秘密の花園』本読みWS 第2回レポート(中野)

2023年1月16日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
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↑これは現代のオシャレな銭湯ですが、菖蒲の葉をあしらう風習は残っています

昨晩は『秘密の花園』本読み第2回目でした。
やはりこの作品は人気が高い。大勢で読みました。

今回はひたすら大貫とアキヨシの会話です。
約20ページの間、いちよの夫である大貫(おおぬき)と恋人であるアキヨシが
ひたすらせりふの応酬をするのみ。
女性参加者は大貫、男性参加者はアキヨシ、という風に役を振って読みました。

会話は大貫の主導で進み、話題としては下記3点です。

①大貫はアキヨシの持つお金(給料)を狙っており、アキヨシは警戒している。
②大貫はアキヨシにひときわ大きな菖蒲の葉をプレゼントする。
今日は端午の節句、銭湯のお湯から大貫は大量に菖蒲を持ち逃げしてきた。
③大貫が過去に起こした惨事が語られる。大貫は働いていた乳児預かり施設で
火事を起こしてしまい、赤ん坊が一人亡くなった。


まず①。
全体に、大貫はアキヨシが持つサラリーを狙っています。
だからこそ、岩崎宏美の『すみれ色の涙』を歌いながら登場した時も、
アキヨシは警戒心でいっぱい。前回のシーンでいちよに、大貫の手管に乗せられて
お金を渡してしまわないよう、釘を刺されているからです。
まずは、あの手この手でアキヨシに取り入ろうとする大貫と、
それに乗せられまいとする大貫のやりとりが面白い。
まして、彼らはいちよの夫と、いちよの恋人という関係です。
普通はコミュニケーションできない関係ですが、お互いが公認している?
という関係の奇妙さも愉しい。

次に②。
大貫は登場時から身体中に菖蒲の葉をまとっているといういでたちで
強烈なインパクトをアキヨシと観客に与えます。
これ、すべてアキヨシに取り入るため。

考えてみれば、この菖蒲の葉を楽しみにしていた子どもたちの中に
割って入り、根こそぎいい歳をした大貫が掻っ攫ってきたわけですから
かなり非道な行いと言えますが、これが軽妙に語られます。

中でもひときわ立派な一本を、子どもたち、街の人たちが「夕泣き丸」と
呼んでいることがわかります。同時に、銭湯から菖蒲をさらって逃げた大貫
の語りから、日暮里の街にある坂の多いこと、夕暮れ後の暗さも語られます。

菖蒲の葉を持って自転車で逃げる大貫を、子どもたちがやはり自転車で追う。
坂を駆け上がる大貫に、子どもたちの体力では歯がたたない。そういう光景を
想像するのは面白い。かなり大人気ない光景。銭湯から逃げているわけですから、
ひょっとしたら大貫も子どもたちも半裸かも知れない・・・

また、子どもたちを振り切った大貫がゆっくりと坂を降りる時、
自らの持つ菖蒲や夕泣き丸でない葉笛が坂上から鳴るのを大貫は聴きます。
これを彼は「夜泣き丸」と名づける。正体のわからない謎めいた葉笛。
闇に包まれた坂の上から、誰がどんな葉で鳴らしているとも知れない
調べが聴こえてくる、というミステリアスな描写です。

最後に③。これは実はかなりヘビーです。
曰く、大貫は2年前に大変な事件を起こしたといいます。

その頃の大貫は乳児預かりの施設で働いており、子どもをひとり火事で
死なせてしまったのです。哺乳瓶を使った授乳中にミルクの粉が切れているのに
気づき、火を付けっぱなしで買い物に出てしまったのが原因でした。
多くの子どもを助けたものの、一人だけは救うことができなかった。

救助に当たるなか、大貫は通り掛かりの少年が亡くなった赤ん坊を抱え、
坂の上に連れて行く光景を幻視したと言います。要するに昇天してしまった
ことをそのように語ったわけですが、この通り掛かりの少年が夜泣き丸の
イメージにつながってくる。

・・・この場面の読み解きには相当に注力しました。
大貫の語りは唐さんの巧みな言葉のベールで覆われていますが、
一方で、私たちの生きる社会で年に数回おきてしまう、不幸な子どもたちの
事故に他ならないからです。保育園や幼稚園で起きる事故と同じように
大貫が起こした事故や、大貫といちよがその後に背負った責任、賠償、
罪の意識、園や遺族との関係を想像する時、この夫婦がどうして
アキヨシのサラリーをあてにするのかという理由もまた、
切実なものとして浮かび上がります。

その上で、この語りの全体が、大貫のついた単なる嘘かも知れない
というところに、この『秘密の花園』の面白さがあるわけです。
過去の上演を見る限り、この事件に関する現実的な重さを自分が
キャッチしきれていなかったと思いましたので、この場面にはかなり
重点を置きました。


最後に、大貫がアキヨシを丸め込むテクニックはメチャクチャで、
①②③を通じて、アキヨシは「夕泣き丸」にされ、「夜泣き丸」にされ、
「夜泣き丸」が連れて行った亡くなった赤ん坊にもされてしまいます。

菖蒲の葉「夕泣き丸」を吹く「夕泣き丸」。
坂の上の闇の中にいて亡くなった子どもたちをあやす「夜泣き丸」。
幼くして亡くなった子ども。

・・・どこかキリストの三位一体っぽい。
そしてまた、初期に唐さんが展開した「腰巻お仙」の男の子版という
感じもします。「お仙」も笛を吹いて堕胎時たちをやしていましたし、
もちろん、劇団第七病棟の旗揚げ公演が『ハメルンの鼠』であることも
関係があるでしょう。


昨日は重要かつ面白い描写が連続したので長くなりました。
序盤の基礎情報をよく押さえて、3週目以降に進みましょう。
『秘密の花園』は3/12(日)まで取り組む予定です。


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