3/8(火)『秘密の花園』本読みWS 第9回レポート その②(中野)

2023年3月 8日 Posted in 中野WS『秘密の花園』

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↑漫画ベルセルクより。「・・・・・・・・」部分に来る言葉は?



『秘密の花園』終盤を読んでいて特に印象的な場面があります。

劇の中に出てくる雨音や汽笛によって、アキヨシのせりふが

掻き消されてしまう場面です。


掻き消されてしまうので、台本を読む人はアキヨシが何を

言いたかったのか、類推する必要があります。彼は何を言ったのか。

前後のやりとりをヒントにしながら、彼らの真理を読み、

また、私たちの人生を総動員してせりふを推し量るのは愉しい。


実際、ワークショップに参加した皆さんの意見を聞きながら

何が相応しいか、考えました。それはこんなやりとりです。


アキヨシ (それを持って、ゆっくり、いちよを見上げる)

いちよ そうよ。その人が、いちよさん。

アキヨシ ―

いちよ そして、あたしは、あんたの心の、秘密の枯れ葉。

アキヨシ もう。

いちよ たくさん?

アキヨシ いえ、もう―

 

偶然の凄き雨音。

 

いちよ (耳をそばだてる)

アキヨシ (何か言っている)

いちよ (聞こえない)

かじか (49段式に乗ってかまえる)


以上。これが二幕のクライマックス部分。

また、エピローグにはこんな場面もあります。


姉 どお?

 

煙を吹かす。

 

アキヨシ  え?

姉 こっちから、見おろすと。

アキヨシ なにがです。

姉 あの町。

アキヨシ 秘密の花―

 

汽笛。それで、後は聞きとれない。


以上。二箇所。


一番目はかなり重要です。

アキヨシは「いえ、もう―。」の」部分に何を言ったのか?


問題は、このやりとりを聞いていたアキヨシの恋のライバル・

かじかが、自転車を構えることです。つまり、それまでは強く

結ばれていたアキヨシといちよの間に亀裂が生じたからこそ、

かじかは自分にチャンスが訪れたと見て、

荷台にいちよを乗せて二人乗りで駆け出すべく自転車を構える。


ということは、この」部分には、

いちよの心象を損ねるアキヨシの発言があったということです。


この時、いちよは執拗にアキヨシに迫っていました。

アキヨシが自分に向ける好意は、姉もろはへの恋慕の代わりではないか。

本当は自分ではなく、姉もろはを好きなのではないか。


ネンネコ男が連れてきた顔を見えない半裸の女を前にした時、

アキヨシにはさらに強くこの二者択一が突きつけられます。


......自分(中野)としては、ここには「わからないんです」

という言葉が入るのではないかと考えています。


「いちよ」と答えたらいちよの心証は害さない。

「もろは」とはっきり答えられるほど、アキヨシは決然として

いないはず。そこで「わからない」という答えを考えました。

混乱している。見分けがつかないでいる。自分でもわからない。

人間の正直とは、こんなものではないでしょうか。


・・・東出昌大の記者会見を思い出します。

「奥さんと不倫相手のどちらが好きですか?」

という記者の質問はなかなかの難易度です。


二番目の方は簡単で、これは「秘密の花園」と言ったに

違いありません。ただし、一番目があったことで、

これはとても印象的な場面になります。

一番大切なことを言おうと勇気を奮った時に、

これを伝えきれないもどかしさが、

『秘密の花園』という芝居の哀切さを高めています。


そういえば、まだ唐ゼミ☆が横浜国大にいた頃、

『ベルセルク』という漫画が流行ったこともあります。

あれにも、大変に有名なシーンがあります。


主人公であるガッツとグリフィスの関係が進退極まった時、

グリフィスは何を言ったのか。雑誌の連載時には掲載され、

単行本収録の際にカットされたせりふが有名です。


カットされると読み手はますます気になり、色々と考えを

めぐらせる愉しみが生じる。本読みの魅力のひとつです。


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