6/5(月)『二都物語』本読みWS 第5回レポート
2023年6月 5日 Posted in 中野WS『二都物語』
"The Days of Wine and Roses"というフレーズを生んだ英国詩人
アーネスト・ダウスンのお墓(2022.12.25に撮影)
場所は幕間の後半から2幕の冒頭。
物語の進行にとっては、内田一徹をめぐってリーランと光子が対立した
1幕の終わりが、物語の後半に向けて盛り上がる下地を整えるような
箇所です。
まず、幕間。
幕間は全体を通じて、光子のその後を追うものです。
一徹と光子が暮らすアパートは、今では光子と同じく工場を焼け出され
家族をも失った包帯の少女たちの溜まり場になっています。
造花の内職に励む彼女らは、体を売って生きるしかないのではないか。
そういう不安に慄いている。光子も熱病に罹っています。
そこへ、1幕で犬殺しから転職した猫とりがやってきてコミカルな
掛け合いをしますが、その中で、包帯少女たちが化け猫のように
なってしまうのが面白いところです。
リーランが戦中以来、何年生きているのか知れない朝鮮の少女なら、
光子たちもまた、処女のお化けめいている。
一徹、どちらも災難、そんな感じもします。
変わって2幕。
「酒とバラの日々」というネーミングについて私は熱弁を振いました。
これは唐さんが1962年に封切られたハリウッド映画のタイトルを
転用したものですが、そのおおもとは、私の好む英国のマイナー詩人、
アーネスト・ダウスンの一節によるからです。
去年、ダウスンのお墓参りに二度行った。そんな話も披露し。
『二都物語』の二幕は、明確に『吸血姫』3幕を思わせます。
あっちはバー「お世話好き」で繰り広げられるやり取りでしたが、
こちらもなかなか珍妙。偽の役人や刑事がマスターやバーテンを担い、
猫とりがくだを巻いている。面白いのは、オンザロックの氷の輝きを
1幕に少しだけ登場した陽向ボッコの群れが注視していることです。
彼らの異様なまでののどかさは、この劇において場違いであり、
だからこそ笑いを呼びます。東北に伝わる太陽の光を求めて彷徨う
座敷童子が陽向ボッコたちの原型ですが、日本の田舎が誇る
純国産という感じがする。
彼らがなぜ重要なのかといえば、
この劇のベースには、朝鮮半島から渡ってきた朝鮮の人々、
戦前戦中に日本から半島に渡り、日本国籍を失って向こうで年月を
過ごした後、失った国籍や故郷を偲んで帰ってくる元日本人が
登場するからです。そこへ唐さんは、日本の田舎が誇る
純日本人を持ち出した。突飛なのですが、そういう構造になっている。
ともあれ、場末にくすぶるバーにリーランが登場し、
あとは一徹が登場すれば物語はクライマックスに向かって動き始めます。
猫とりが自らに染みついた体臭を嫌って香水を丸ごとかぶる、
しかもその香水の名前が、リーランがかつての恋人と交わした名
「ジャスミン」であることが、唐さんの巧みさです。
道具立てが整いました。
あと3回。6月を通して『二都物語』を完結させます。
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