8/21(月)『夜叉綺想』本読みWS 第8回レポート
2023年8月21日 Posted in 中野WS『夜叉綺想』
↑2幕終盤、帽子をとると、魔大医学部では全員がロボトミー手術、
別名「スイカ割り」を受けていたことがわかる。医学へのいき過ぎた
専心が狂気を帯びてくる
この劇の中でもっとも完成度の高いシーンで、大技が連続します。
さまざまあり過ぎて勢いに押されそうなので、
今回は箇条書きで整理します。そうすれば冷静に何が起こったか、
追いかけられるからです。
前段:牛乃京子が水銀体温計を用いた殺害計画を持っていたか。
魔大医学部研究室を訪れた刑事による追究が行われる。
・折れた水銀体温計を脇に挟んで隠そうとした牛乃を詰問する
・牛乃の脇から体温計が落ち、刑事は鬼の首をとったように糾弾
・牛乃は兄のロボトミー手術の非同性を訴える
・野口弟は牛乃兄妹への贖罪として、甘んじて復讐を受けようとする
・野口弟を救うべく京子を攻撃するケイコ
・ケイコと揉み合ううちに、野口弟はケイコを刺してしまう
・ゴーシュは突発的にシャベルで野口博士を殴る
・野口博士が人造人間化していたことが明らかに
・野口兄弟の対決
・牛乃京子がインターンたちによりシミの世界に封印される
・野口弟が我にかえると、ケイコ殺しの咎で刑事に尋問を受けている
という進行で二幕終盤がたたみかけます。
野口弟は義姉ケイコを刺した罪で刑務所に収監されており、
牛乃京子は野口の囚われた部屋の壁のシミとなっている。
初めからこの世界にあったのは野口兄弟が兄の妻ケイコと起こした
三角関係の痴情のもつれだけであり、これまで劇が始まって以来
進行してきたことは、閉ざされた部屋で野口弟が見た夢。
うなされる彼の前にある壁や天上のシミが彼に迫り
実行してしまった悪夢に過ぎないのかと思えてくる。
そういう幕切れです。
思えば、1幕冒頭も同じ取調室で始まりました。
牛乃京子との関係は場末の映画館ですれちがったに過ぎないと
弁明する野口弟と、それを訝る刑事との対話です。
2幕終わりは、そうして冒頭に還る。見事なシーン構成です。
が、同じ1974年に初演されながら
この『夜叉綺想』が傑作『唐版 風の又三郎』と異なるのは、
ここからの展開によるところが大きい。
3幕に広がる不思議な物語進行、カオス、やおら登場する新モチーフ、
その蛇行こそ、『夜叉綺想』がマイナー作品にとどまった理由にして、
その独自の魅力によって私が好む噛み応えともいえます。
要するに奇想天外。
これに付いて来られるかい?
と唐さんに問われているようでもあります。
9月末までかかる長い長い3幕の始まります。次回は8/27(日)。
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