8/9(水)『夜叉綺想』本読みWS 第6回レポート

2023年8月 9日 Posted in 中野WS『夜叉綺想』
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↑牛乃京子と野口博士の再開。互いに昭和35年7月10日の記憶が噴き出す


一昨日の本読みWSのシーンはとっても良かったです。
唐十郎の優れたところ、凄みが溢れ出る場面でした。

ミステリー調で、破天荒なところの多い『夜叉綺想』全編にあって、
急激に物語の発端が紐解かれ、ヒロインである牛乃京子の心が
打ち明けられるのが、この第6回で読んだ場面でした。

この約20ページは、
復讐をしたい牛乃京子と、その標的である野口博士の対決です。
復讐の始まりとして1幕終わりに水銀を飲まされた野口弟の体が
床下から掘り出されたことで、一気に対決姿勢が露わに。

野口博士は、パーティーに楽師として紛れ込んだチェロ弾きが
かつて自分が前頭葉を手術して廃人にしたゴーシュと知り、
傍らの女性歌手がその妹・牛乃京子だと認識します。

そこから先は、京子が行う回想です。
昭和35年夏に何があったか。自分は中学一年で、
両親を喪い兄妹で上京した生活にどんな不幸が起こったか。
頼りの兄が心を病み、それを治せると信じた野口博士が神様に見えた
と京子は言います。手術後は想定外の現実を目の当たりにし、
野口博士から月々のお金を受け取りながらも、生活が破綻したことが
察せられます。

野口博士としても、この夏の出来事は大きな傷になっているらしく
前頭葉=「待つ」ことを司る機関の手術に失敗した夏の記憶
=「待っている夏」として、彼の頭に焼き付いています。

もう一つ。一昨日の場面で大切な牛乃京子のせりふから、
1幕終わりに野口弟に水銀を飲ませる、という復讐は、実際には
果たされていなかったことがわかります。

京子は野口に毒を飲ませることができなかった。
それが、恋愛感情のはじまりなのか、それとも、肉親を廃人に
された者であるが故に、京子が野口を廃人にすることを
ためらったのか、それははっきり書かれていません。
このはっきりしないところが良いのです。

ぐったりとした野口の体を研究室の床下に仕込みながら、
京子は都こんぶを口にし、海の匂いを感じます。
夏、海の匂いに、彼女のトラウマと優しさが集約しているのが
伝わります。そういう時、京子がいつもじっと座っているだけなのが
良い。劇のなかで彼女はかなり乱暴で動き回りますが、ここぞ!
というところで、夏の暑さのなかでじっとしている。
このイメージが優れています。さすが、唐十郎。

上記が、一昨日のシーンにおける二本柱です。
そこに、学長や、マニキュアの紳士や、水銀を口に含んでしまった
野口博士の妻ケイコの様子などがスパイスとして、コミカルに
絡みつきます。

集中殿の高いせりふと、笑いの多い2時間でした。
私の予定で月曜開催にしたために出席できなかった方には
申し訳なく思います。大事な、素晴らしいシーンなので、
今度、ダイジェストで復習できないものか。

そう思案しながら、8/13(日)の第7回を迎えます。

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