9/24(日)『夜叉綺想』本読みWS 最終回

2023年9月24日 Posted in 中野WS『夜叉綺想』
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↑もっと牛乃をぐったりさせるべきであった、と反省したいエンディング。
なんとなく闇に浮かぶ巨大な牛をご覧ください(写真:伏見行介)

先ほどまで本読みを参加者の皆さんとしました。
不思議な後味。これが『夜叉綺想』です。

いつもだったら日曜の夜は劇団員の日記。
月曜日に前夜のレポートという流れですが、
最終回を終えた後味のまま書きつけてみようと思い立ちました。

ラスト、物語は単純です。
牛乃京子と野口が一致団結して転落花横丁からの脱出を図ります。
二人の手は牛乃のかけた手錠で結ばれ、完全な協力関係です。

しかし、皆がそれを阻む。
娼婦たちが撒いたポスター掲示用の画鋲がそれです。
(忍者の撒くマキビシみたい)

次に、マニキュアの紳士こと薬学博士のサイトーが仕込んだ
毒を煎じた液体が地を流れます。傷ついた足から毒が入れば命取り!

そして、斧を構えた博士。さらに、娼婦たちは木綿針を持ち、
針先には地を這う毒汁がつけられます。

野口と牛乃は大ピンチ。

すると脇の方で、
若いヒモとケイコに似た女・桂が駆け落ちしてこの苦界を
抜けようとします。が、博士が施した手術によって桂は錯乱、
思わず手にした毒針を愛するヒモに刺してしまいます。
そのことを気に病んで、自らをも刺して自死。

激昂したヒモはこと切れる前にドスを博士に向けますが、
これが誤って牛乃に刺さってしまう。そこから乱戦で、
サイトーと刑事にはがいじめにされた牛乃と野口を博士の斧が
襲います。結果、野口の手首は切り落とされてしまう。
(このへんは、1973年秋に初演された『海の牙 黒髪海峡篇』を彷彿)

皆が去った後、取り残された野口と牛乃。
野口は手首から先を切り落とされ、牛乃は腹を刺され毒も回っています。
まさに満身創痍。ここで牛乃は、ヒマラヤ山岳民族の末裔たる
長野の被差別部落民の呪術性を発揮して、野口の胸に針を刺して
血文字をつくり、それをすすることで状況を打開しようとします。
(呪術的にそういう方法があるのだそう)

しかし、それでUFOが飛来してハッピーエンド
(『唐版 風の又三郎』のヒコーキとまったく一緒のパターン!)
と、思いきや、志半ばで牛乃が死にます。

結果、野口は闇に閉ざされ、そこに一条の光が刺すと、
闇の中より巨大な牛が現れて、牛乃の死骸を連れ去ります。
牛乃の手首には手錠、そこに繋がれた野口の手首を道連れに、
牛乃京子は闇に呑まれていきます。

巨大牛の鳴き声にゴーシュが演奏した「愛の讃歌」の旋律が
含まれていることから、巨大な牛は、ゴーシュの思念か、
被差別部落民の魂が結集したものとも読み取れます。

ともかくも野口は、閉ざされた世界の中で手首から先を失います。
まるで、留置場の壁のシミから吹き出す悪夢が彼の希望を持って
いってしまったようなエンディングです。

「マブ、マブ、ドリュイド!」
そう叫ぶ野口の呼びかけもまた闇に呑まれます。

・・・というエンディングでした。
前作『唐版 風の又三郎』と異なり、バッドエンドです。
好悪が分かれるところとも思いますが、唐さんが知恵をひねって観客の
期待を裏切ろうとした成果です。怖くて不思議な物語。
すべてが、野口が留置場壁のシミの向こうに見た悪夢のように
書かれている。


3ヶ月間の長丁場でしたが、夢魔のような暑さの終わりにふさわしい
エンディングでした。皆さま、ありがとうございました。

次回はスカッとした快作『青頭巾』のはじまりです!

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