4/24(月)『愛の乞食』本読みWS 第5回レポート(中野)
2023年4月24日 Posted in 中野WS『愛の乞食』
↑シルバーは自らの思いを語ることなく、ただラムを煽るのみ。
代わりにオウムが喋ります。万寿シャゲとシルバーの会話より。
(唐ゼミ☆2010年公演より。写真は伏見行介)
残すところあと2回。昨日は、
「2幕2場 愛の満州おろし」をメインに、
「3幕 花の幽霊船」の冒頭までをやりました。
まずは、朝鮮半島の酒場の主人であるチェ・チェ・チェ・オケラの
一人語りから始まります。大正時代に起こった二つの事件について
語りながら、歴史的な事実のなかにシルバー、尼蔵、馬田、大谷の
越し方を位置付けるせりふです。
尼港事件・・・ロシア人が日本を含むアジア人たちを虐殺して強盗
大輝丸事件・・尼港事件の報復として日本人海賊がロシア船を襲う
後者の大輝丸事件に参加したのが、シルバー、馬田、大谷の
三人であるとチェは語ります。しかし、よく類推すると、
ここでシルバーと言っているのは、シルバーの名を騙った尼蔵で
あることが読み取れます。不良軍人の尼蔵は憲兵シルバーを恨み、
シルバーの名を騙りながら悪行を働くことでシルバーに悪評を
立てようとしていることがここでも分かります。
一転、続く万寿シャゲとチェの会話は天真爛漫になります。
万寿シャゲのシルバーへの憧れ、恋心はあまりにティーン女子の
恋愛で猪突猛進型、あえてバカっぽく書かれているところが
台本に潤いを与えています。
真剣で重たい舞台設定の中にこうした軽さを与えるようになった
ことで、唐さんの作家としての技量が抜群になっているのが
分かります。最近、若書きの『煉夢術』を読んだばかりなので
特に強くそれを感じます。
そして、当のシルバーが登場する。
シルバーが散文的な会話をする。しかも恋愛に関わる会話を
するというのは、『ジョン・シルバー』シリーズ全般を通じて
初めてのことです。あとは、『あれからのジョン・シルバー』
最終幕で小春と亡霊として話すシーンがシルバーの発言シーン。
この場における具体性について言えば、ちょっと例がありません。
それだけに、シルバーの内面を彼自身のせりふから識ることの
できる唯一の場面です。貴重!
「ハードボイルド」という言葉をこの場面のシルバーを語る
キーワードにしました。シルバーは視力を失い、片足と片手を
失い、悲嘆に暮れながらもそれを押し殺して軍務についています。
シルバーが寡黙に耐える一方、肩のオウムがその内面を語る。
万寿シャゲが想いを打ち明けるほどにシルバーは頑なになり、
万寿シャゲを手にかけようとすらします。(あくまでフリですが)
その時、シルバーの心を代弁するオウムは「小春、小春」と哭く。
戦地で大怪我をして重度の障害を負うシルバーの内面が炸裂する
場面です。この時は、こんなに小春のことを想っていたのだ、
と知れるシーンです。
万寿シャゲはシルバーを想い、シルバーは小春を想う。
『愛の乞食』の特徴である片思い構造がはっきりと現れます。
と、ふいを狙って尼蔵たち3人海賊がシルバーを刺殺します。
恨みを果たす3人海賊。この行動をブリッジに場面は現在に
戻り1幕の公衆トイレに還ってきます。
刺されたのはシルバーでなくガードマン。
2幕は丸ごと3人海賊たちの回想であった、という仕掛けです。
たいへんに分かりやすい。ここから現代における海賊たちの因縁が
決着するのが来週です。スッキリと読みやすい『愛の乞食』。
男のロマンに溢れるエンディングを来週にやります!
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