10/6 (火) 台風の記憶 特別編② 〜 齋藤版

2020年10月 6日 Posted in 劇団員note

昨日の記事の続きです。)

さて、総出で台風対策を施し、劇団員は帰路につきました。

テント内は機材やセットなどで溢れ、空いているスペースは僕と中野さんが二人寝れるスペースがある程度。
最初はそこでゴロゴロしながら過ごしていましたが、夜も更け風が強くなり、いよいよな雰囲気。
「何かあったら起こしてくれ」と中野さんはすでに寝ており、
所在ない僕は、ソワソワしながら揺れるテント幕と、携帯の天気予報を眺めていた記憶があります。

そして深夜0時を過ぎたころから、とんでもない強風が吹き始めました。
強風が吹く時には法則があって、遠くで「ヒュロロロ」と甲高い音が聞こえたかと思うと、
浅草の街を抜け、数秒後にテントに到達、テントをぐらんぐらんと揺らします。
この予告のようなシステムが、より僕の緊張感を煽りました。

万全の台風対策をしたつもりでしたが、時間と共に様々な場所で綻びが出てきます。
具体的に書くと以下のようなことを30分間隔で繰り返していました。

1) 何か起こる(雨漏り、風で幕があおられる、ロープが緩むなど)
2)起き上がり、濡れたカッパと長靴を装着。
3)豪雨と強風の中、作業(主にロープの縛り直しと追加、雨漏りの下にある物を移動する、など)
4)作業終了後、しばらく観察
5)カッパと長靴を脱ぎ、寝床に入る。
6)しばらくすると1)に戻る。以後繰り返し。

定期的に生まれる作業が一人でも対応可能であったこと、
またロープワークができない中野さんを起こしてもしょうがない、
こんな観点から、僕はずっと一人で作業していました。
そしてこの繰り返しは、結果として明け方まで続きました。
中野さんはずっと寝てました。

ここで、一つ言いたいのが、「中野さんがずっと寝ていたから恨んでいる」というのは正確ではありません。
そうではないのです。


彼は、物音がしても、僕が作業に向かおうと準備していても、起きません。
なのに、僕が作業を終了させ、寝床に着く瞬間、必ず起きて、こう言うのです。

「大丈夫か? 何かあったか?」

そう、いつも彼が起きるタイミングが、常に作業が終了したあとなのです。
当然、そのタイミングではトラブルは解決しているので、僕はこういうしかありません。

「大丈夫です。」と。

それを聞いて再び中野さんは眠ってしまいます。

わざとやってんだろ?と疑うほど、このタイミングで目を覚ますのです。


だんだん腹が立ってきた僕は、
作業を始める前は、わざと騒がしく着替え、終了後は、息を殺して静かに寝床につくようにしてみましたが、
それでも必ず、起きるのは作業終了後。そして一言。「大丈夫か?」

こんなコントが繰り返され、明け方。
雨は止んだのですが、風はますます強くなりました。
テントの鉄骨が悲鳴のような軋む音を上げ、ずっと揺れています。
あまりにも危険と判断し、中野さんを起こし、落ち着くまで外で待機していました。
ぼうっと明るくなった空と風に暴れるテントの風景は、不安でいっぱいだった時間の終わりを告げる
文字通り「夜明け」として僕も強烈に印象に残っています。


この時のことをこんなふうに中野さんは書いています。

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尽くせる手は全て尽くした齋藤と危険を回避するためにテント外に出て、
しばらく天井のバウンドする青テントを眺めていた記憶があります。
(台風の記憶④より)
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そりゃそうです。この時しか起きてないんですから。

この夜と足柄での台風の経験から、
台風の恐怖と台風番の地獄が骨身にしみた僕は、
『夜叉綺想』での万全の台風対策を行い、小屋番に劇団員を徴用しました。
結果、外に置かれたポリロープも飛ばない、無風で朝を迎えるのです。


イメージ 2.jpeg
台風の中、飛ばされなかったポリロープ(再現)


お分かりいただけたでしょうか。
これが僕の経験した、2012年6月19日、浅草の夜(恨み節)なのです。
改めて、こうして記憶を呼び起こしてみると、深々こう思います。

いろいろありました。
しかしながら、無事でよかった!

(齋藤)

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