12/23(水)歩いてきた人たち(熊野)

2020年12月23日 Posted in 劇団員note
熊野です。


ゼミログのお題である、先日の公演で自分だけが見た面白い事、を考えていたら
好きな台詞に思いが至りました。
『唐版 風の又三郎』の中で、好きな台詞は沢山ありますが
上演中、密かに好きだった台詞が三幕終盤、夜の男が放つ以下のもの。

「この日のために俺は宇都宮から歩いてきたんだ。」

劇の舞台は御茶ノ水ですから100km以上!!
屈強な元自衛官であるとはいえ、休みなく夜通し歩いても、随分とかかるはずです。
(googleで調べてみたらノンストップで丸一日かかるよう。死んでしまう。)
この執念たるや。
そこは電車に乗ればいいのに、とも思いますが
(実際はハッタリで、公共交通機関を使っているかもしれないけれど)
執拗にエリカを追い求める夜の男の過剰さが際立って、馬鹿馬鹿しくもたまらない台詞です。
織部として決闘を申し込まれているシーンで耳にしていたので、
とても冷静には聞いていられないのですが
嬉々として演じていた丸山さんの力もあり、胸の内でニヤリとしてしまう台詞でした。
丸山さんは大量の小道具(ナイフ2本、目隠し2本、巨大なハンカチ、鞭、ラジカセ...これまた過剰。)に
苦戦していましたが、それらを乗りこなして嬉々として発せられる台詞には、
書かれている以上の力がありました。


歩いてきたと言えば、
『海の牙』で演じた名和四郎も歩いてきた人でした。
「シュリンガーラ・ティリカ。」としか言わなかった朝鮮と日本の間の子である少年が
一幕終盤、父に向けて弓を引き、こう喋り始めるのです。

「横浜から歩いてきました。疲れきったからだです。」

宇都宮と比べてしまうと短いですが(50kmくらいか)、やはりすごい。
パンチ力のある台詞です。
当時、この上演を観た気田さんが「この台詞がすごくいい!」と何度も言ってくださっていました。
唐組のテント建てに行った際、気田さんから「どうやって来たの?」とふられたのに対し

「横浜から歩いてきました。」

とは答えられず

「東横線で。」

と答えた自分を、今でも恥じています。
しかも、後日また同じふりを投げられたのに、ことごとく答えられず。
恥じ入ります。


他にも歩いてきた人はいないかなぁ、と台本を漁ってみたら
『続 ジョン・シルバー』では
小春からの電報で、世紀のドラム合戦をするため
湘南の海沿いにある喫茶ヴェロニカへやって来たキセル屋がおりました。
キセル屋は基本的に「エーン、エーン」と泣きっぱなしの男ですが
小男いわく

「浅草からきたらしいよ。東京湾沿いに歩いてきたんだってさ。」

自分では高らかに宣言しないが、こいつも結構な距離を歩いてきてやがる...。


さらに、
『絵巻巷談 ジョン・シルバー』では
シルバーを探してさまよう小春が「九十九里浜も九十九日かけて歩いた」ようだ!
九十九日...!!
距離を越えた過剰さ!!!
やはり三作品通してシルバーを想い続ける女は、ズバ抜けて過剰だ...。


きっとこの他にも、歩いてきた人たちが唐作品の中にいるに違いない。
自分だけが見た面白い事、からすっかり遠ざかってしまいましたが、
歩いてきた人たちを他の台本でも探してみることにします。
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(写真=伏見行介)

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