2/10(火)『ビニールの城』本読みWS 第1回 その②

2026年2月10日 Posted in 中野WS『ビニールの城』
『ビニールの城』に取り組む時、前段として押さえておくと理解しやすくなる
キーワードがあります。第1回の本読みでは、それらについてもお話ししました。

①浅草、常磐座、神谷バー、電気ブラン
②ビニ本
③J.デリダ『尖筆とエクリチュール』


①はすべて浅草関連です。
『ビニールの城』を初演した劇団第七病棟は、場所にこだわる劇団です。
そして、浅草、そのなかにある常磐座に照準を当てた。
面白いのは、当時の浅草が完全に賑わいを失っていたことです。

唐さんの幼少期、1950年代の浅草はすごかったわけです。
映画館と劇場が建ち並び、100メートル歩くのに30分かかった。
毎日がお祭りだった。

もちろん、現在の浅草もすごい。
スカイツリーの恩恵に一番預かっているのは、私の観る限り墨田区でなく
浅草を擁する台東区です。だって、スカイツリーがよく見える。
外国人観光客で溢れかえる浅草は、とっても隆盛しています。

が、浅草がこの間、ずっと賑わっていたわけではありません。
ビートたけしさんが描いた『浅草キッド』の頃(1960年代の終わり)には、
浅草の勢いは途絶えていました。私が大学に入った1990年代終わりの
浅草にも、「両さん」の世界は無かった記憶があります。

閑散とした浅草で、廃業寸前の、けれど、芸能の殿堂だった常磐座で
世間から取り残された腹話術師の物語を描く、というところに妙味が
あったわけです。「常磐座」がどんなだったか、渥美清さんが
ナレーションを務めるドキュメンタリーを、YouTubeで観ることができます。

「神谷バー」は今も大流行りの、浅草の名物バーです。
「電気ブラン」はそのスペシャリテ。ブランデーをもとに、他のお酒や
薬草が秘伝のレシピで調合されているそうです。飲むと「ビリビリ」
するブランデー・ベースのお酒。だから「電気ブラン」!


②ビニ本
「ビニ本」って、いまも新しく製造されているのでしょうか。
そう。『ビニールの城』のヒロインは、「ビニ本」の被写体モデルとして
働く女性です。

「ビニ本」について最近、知ることができるのは、Netflixのヒットドラマ
『全裸監督』です。村西とおる監督は、英語教材のセールスマンを
辞めた後、まずはエロ書籍の販売で頭角をあらわし、やがてアダルト
ビデオにたどり着きます。その書籍販売時代に扱った品物の一つが、
ビニ本でした。ビニールに包まれ、神秘のヴェールを帯びたエロ本、
すなわち「ビニ本」とは何か、その魅力をも、あのドラマは教えてくれます。


③J.デリダ『尖筆とエクリチュール』
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唐さんが読んで、この『ビニールの城』を着想した本です。
「尖筆」とは「とがった、極めて先の細い筆」のこと。

フランスの哲学者、ポスト構図主義の大立者の一人であるジャック・デリダ
が、ニーチェの著作に出てくる女性の描写について分析した本です。
当然、読むと難しい。正直に言えば、私はドゥルーズは理解できている
つもりですが、デリダの掲げる主題には関心が持てず、難しく感じるばかりです。

が、デリダの精読や理解自体は、『ビニールの城』にとって究極的には
どうでも良いと思います。それよりこの本の表紙を見てください。
胸も露わな女の人が剣の切先を突きつけられています。
ここに唐さんは、ビニ本のビニールを破く時の感覚を見出した。
これで充分なのではないでしょうか。

ついでに、デリダが基礎とした学問は「現象学」です。
「現象学」とは文字通り、「現象」について考察するものであり、
「真理」を問題にしません。なぜなら、「真理」は不可知だから。

人間が言葉でものを考え、認知する以上、世界やモノ自体を捕まえる
ことはできません。もちろん、真理を捉えることもできない。

つまり、人間は例えるなら、言葉という「膜」「オブラート」「色眼鏡」を
通してしか、世界を体験できません。でも、「わたしは真理に到達した!」
「絶対の体験をした!」という勘違いは時々、起こります。

宗教的体験、スポーツにおけるゾーン、薬物体験、そして「恋愛」も
この一種です。たいへんに美しく、幸せな「誤解」、「勘違い」です。
でも、体験している本人にとっては、それは「誤解」や「勘違い」でなく、
「真理」なのです。

転じて唐さんは、ある奥手な男が、世界と自分を隔てる薄い膜=
ビニールを突き破って、そのなかにいる女性そのものに近づき、触れ、
一体化できるかどうか、を物語にしたわけです。

まあ、このへんは理屈抜きでしょう。
理屈抜きの直感だから、唐さんはエラいのです。
『尖筆とエクリチュール』を読んで大真面目に「ビニ本の女との恋愛」を
構想する。見事です。ちなみに、表紙の絵の画家はルーカス・クラナッハ。


といったことを押さえたら、いよいよ物語のなかに入っていきます。
続きは、明日。

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