4/11(木)『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』本読みWS 第4回

2024年4月11日 Posted in 中野WS『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』
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少年(=お仙)がスポーツカーに忠太郎の母を乗せて湘南海岸を
かっ飛ばすせりふは、明らかに1962年の映画『Phaedra』ラストシーン
の影響です。唐さんに焼きついたこの映画の影響は、『続ジョン・シルバー』
『吸血姫』でも繰り返し発揮されます


今夜は本読みWSでした。
本来であれば毎週日曜日の夜に行っていますが、
今回は来週末に本番の『オオカミだ!』の稽古があるので
木曜日に振り替えさせてもらいました。イレギュラーな曜日での開催
だったのでお休みの方も多かったのですが、作品の重要な箇所ですので
レポートを詳細に送ります。

読んだのは2幕終盤から3幕中盤です。

これまで、ギャグに溢れ、アクションに溢れ、
軽妙かつ平易な物語で進んできたこの『義理人情いろはにほへと篇』が
「母」というテーマに向けて一気に動き出すのが2幕終盤です。

前回からの続きで、ドクターと忠太郎による決闘が始まります。
ドクターは意気盛んです。かおるの前で恋敵・忠太郎を倒したい。
一方の忠太郎は仕方なく決闘に臨みます。かおるは
忠太郎とドクター、どちらも好きなわけでもないのに、
自分を奪い合う争いごとが見たいばかりに忠太郎に決闘を
けしかけたのです。もちろん、忠太郎にもかおるに対して特別な
感情は無し。乙女心の気ままさが二人の男を翻弄します。

決闘の中身は珍妙で、唐さんは「宇宙に輸出したくなるような決闘」と
ト書きに書いています。要するにバカバカしい。が、そのバカバカしさが
一転し、敗れそうになった袋小路が、母さんから託された忠太郎への
手紙を取り出した時、物語の求心力・推進力が一気に発動します。

「明朝10時に喫茶ヴェロニカにて」
母からの提案が込められた手紙を手にした忠太郎は、いつも同じ文面の
手紙を訝しく思いつつも、やっと母さんに会えるのだという期待を
止められません。忠太郎を案じてやってきたお春に、14歳で自分を生んだ
29歳の母について話し、母と海水浴に行った際に母を誘惑していった
少年の話をします。実は、この少年こそ腰巻お仙であり、湘南海岸に
現れた彼はトライアンフを乗りこなし、母をさらっていったというのです。
ここに、3幕の萌芽があります。忠太郎は次の場面で、喫茶ヴェロニカにて
この少年と対決することになるからです。

一方、ドクターは手紙と引き換えにもぎとった忠太郎への勝利を根拠に、
かおるを手に入れます。かおるを奪われ、床屋と禿の客が狼狽する中で
2幕が終わります。

そして、3幕は喫茶ヴェロニカ。
ドクターがシャンソン歌手に扮するところはコント風ですが、
母を待つ忠太郎の前に少年(=腰巻お仙を演じる女優が扮する)が現れると、
一気に物語が加速します。

少年は、母を待望する忠太郎の心を見透かし、
母親というものがどんなに自己中心的で欺瞞に満ちているかを語ります
(=「母体構造概論」)。

ポイントとして、「腰巻お仙」というキャラクターが「母親憎悪」の
化身であることは、この『義理人情いほはにほへと篇』では語られません。
根拠や経緯は『忘却篇』にある。ここがシリーズ篇の読みにくさですが、
要するに前作を前提として説明を省いているわけです。
そこさえ、「お仙」のキャラクターさえ押さえておけば、
決して難しくありません。

母を求める忠太郎と、母憎しの少年(=お仙)の対立が深まっていく。
三幕は重要ですから、次回、4/21(日)は復習も厚めに行います。

同棲ブームが生んだ当時の若者文化、堕胎や掻爬が頻繁に行われた
当時の青年たちによる青春残酷物語の様相が際立ってきます。

4/8(月)『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』本読みWS 第3回

2024年4月 8日 Posted in 中野WS『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』
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↑このCDの7曲目に入っている「さすらいの唄」冒頭に
唐さんのせりふも入っています

昨晩は第3回。
1幕半ばから2幕半ばまでぐんぐんと突き進みました。

前回のレポートには勘違いがあり、
第2回で読んだのは主人公・忠太郎が登場する寸前まででした。
そこで、昨晩は1幕半ばの忠太郎の登場とお春との出会いから開始。

忠太郎が登場してすぐに吐く独白、
「かえるが泣くから帰るなら〜」はずっと唐さんのお気に入りで、
『四角いジャングルで唄う』CDに収められた『さすらいの唄』
冒頭において唐さん自身が誦じるのを聴くことができます。
オススメです。

それからお春との出会い。
唐さんが幼少期を過ごした下谷万年町の住人にインスパイアされた
このキャラクターは、忠太郎の庇護者としてこれから全編に渡って
活躍します。母ならぬオカマさんにこそ母性が授けられている。
お春さんの境遇の哀しさ、だからこその優しさ、そういうものを
描く唐さんのセンスが光ります。

そして、1幕終わりといえば、『忘却篇』で展開された
お仙とドクターの会話。忘却篇によれば、母を呪う存在である
「お仙」は常に、母親というものの自己中心性をあげつらいます。
かおるとの恋に憧れるドクターに対して、かおるが落としていった
ハンカチの血のシミを示すことで、すでにかおるが少女でなく、
母の予備軍であることを知らしめます。
このあたりは、つげ義春の『紅い花』の影響。

二幕の進むと「恋づくし」というサブタイトルが付いています。
忠太郎が巻き込まれる、かおるを巡るドクター袋小路との
恋の鞘当てが眼目の場だからです。

冒頭の床屋に、極めて壮大なクラシック音楽
ワーグナーの『ローエングリン』前奏曲をかけるところが
唐さんのギャグです。

そこで見習いとして就職した忠太郎が徹底して理不尽な修行を
強いられている光景が描かれます。断っておきますが、この忠太郎に
対する床屋の苛烈さは少なからずギャグめいていて、笑いが起こる
場面でもあります。

そこにお春が訪ねて来て、忠太郎に買い物に行こうと誘っては
床屋と禿の客に徹底して排除された後、ドクター袋小路が訪ねて来ます。
ドクターの狙いはもちろんかおるちゃんですが、床屋は娘を隠すものの
禿の客の失言によってドクターにかおるの存在がバレてしまいます。

ちなみに、ドクターが情熱的にとかおるへの愛を訴える歌は
シャンソン『La vie s'en va』の替え歌です。袋小路のパッションの
ほとばしりがまた、笑わせます。

結果、かおるのワガママ、床屋のドSぶり、ドクターの嫉妬深さ、
禿の客の下世話ぶりが炸裂し、忠太郎はドクターと決闘することに
なってしまいます。武器はトマホーク。唐さんの若き笑いのセンスが
爆発しています。

次回、第4回は決闘シーンを超え、
『義理人情いろはにほへと篇』の核心部である第3幕に踏み込みます。

4/1(月)『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』本読みWS 第2回

2024年4月 1日 Posted in 中野WS『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』
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↑初演時の舞台写真より、腰巻お仙がリアカーから登場する1幕ラスト
李礼仙(当時)さんの右手に握られているのは笛。まるで弁天小僧が
短刀を構えているような見栄の切り方で、キマっています


『鐵假面』公演をはさんで3週間ぶりに本読みWSを再開しました。
唐さんにとって、初めて紅テントを使って上演した劇、
『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』第2回です。

まず初めに、久々ですので、
第1回でも話した初演当時の様子について振り返りました。
時期は8月であった点(現在ほど暑くはないでしょうが、それでも真夏)、
山下洋輔さんらバックバンドが共演していたこと。
(ト書きやせりふの端々に、バンドが後方にいてこその記述があります)

その上で、今回は1幕半ばから終わりにかけて読みました。
ちなみに、この劇は変わった構成を持っていて、
唐十郎の作品としては珍しい4幕ものです。といっても大長編でなく、
ひと幕ひと幕がコンパクトゆえに全編で2時間ほどの上演時間。

まずは、前回からのおさらいとして、
ドクター袋小路によるかおるちゃんへの口説きのシーン。
ドクターの手練手管、口八丁が冴え渡りますが(初演時にこの役を
演じた麿赤兒(当時:赤児)さんの得意でを反映したもの)、
一方で大切なのは、口説かれるかおるちゃんのリアクションです。
迷惑がりながらも、好かれることにまんざらでもない。
思わせぶりな素ぶり。少女は「可憐さ」だけでなく、
「強かさ」を持っている。ここがポイントです。

と、そこへ、ドクターの嘘によって場を外させられていた
床屋(かおるの父)と禿の客が戻ってきます。
ここからは床屋とドクターの問答が中心。
床屋は父としてドクターを怪しみますが、
これを強引なロジックでかわしながら、尚もかおるを口説く
ドクターのテクニックが光る。しかし、一旦は物別れに終わり、
ドクターの恋は一旦は成就せずに去ることになります。
このへんの哀愁、去り際に自らの引くリアカーに轢かれる仕草も含め、
滑稽かつペーソスに溢れているのが、唐さんの描く麿さん役の魅力です。

そしていよいよ主人公の登場。母を求める青年・忠太郎が現れます。
この「忠太郎」という名前は、長谷川伸の名作『瞼の母』の主人公
馬場の忠太郎から取られたもので、唐さんが自分流に、母と子を巡る
物語を宣言する象徴ともいえるネーミングです。

忠太郎がひとくさりモノローグすると、オカマのお春が現れ、
彼を気に入ります。忠太郎がお春の母性本能を刺激し、これから
全編にわたって彼を見守る庇護者となるところが描かれます。

そして、1幕の終わりに現れる腰巻お仙。
「お仙」の存在は謎めいていますが、腰巻きを付けて笛を吹く女で
あるところ、ドクターを従えているところ、登場のタイミング自体も
前作『腰巻お仙 忘却篇』を踏襲しています。

この幕の終わりは、かおるの落としたハンカチに生理の血が
こびりついている描写で終わります。男性(=忠太郎)の求める
聖母マリアのような母親像と、実際の女性との対立が予見されて
第1幕が終わってゆきます。

次回は第2幕冒頭から。
4/7(日)19:30からやりますが、この幕もまたギャグ満載で、
おもしろいところです。

3/12(火)『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』本読みWS 第1回 その②

2024年3月12日 Posted in 中野WS『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』
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↑初演時に"かおるちゃんを"演じた中嶋夏さんが3/3に亡くなりました。
お雛様の日に亡くなるなんて、やはり少女の中の少女を演じた方。
ご冥福をお祈りします


今日は昨日に引き続き、
『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』冒頭の物語を追います。
序盤に登場する、ドクター袋小路、床屋と禿の客、かおるちゃんが
いかに活躍するか。

まず、ドクターの登場です。
初め、彼の闇稼業である「犬殺し」が行われ、高らかに歌います。
この歌は初演時に同役を演じた麿赤児さんの得意技だったらしい。
また、後の場面で、床屋の飼い犬・ツァラツストラと
禿の客の飼い犬・加山くんが殺されていることが露見しますが、
犯人はこの犬殺しことドクター袋小路だと知れます。

次に、床屋と禿の客の場面。
相変わらず天気の話を呑気にするという、
軽演劇風にして前衛不条理劇風でもある会話が繰り広げられます。
が、よく聴くとその会話には、劇全体の主題である母と子のテーマが
潜んでいます。

こんなに暑い夏には皆が海水浴に行く。
海水浴に行けば子どもが亡くなる不幸が起き、嘆く親があり、
嘆かぬ親は継母だ、という内容の会話です。

こうして、思わせぶりなシリアスな会話になったかと思えば、
すぐさま禿の客の☆型の禿を扱ってコミカルな掛け合いをして
笑いをとります。

と、そこへ、床屋の愛娘であるかおるちゃんがやってくる。
高校二年生だとか、気象庁の電話交換手だとか、設定が語られますが
ともかく彼女は床屋の自慢の娘。
ナンシー・シナトラの『シュガータウン』を歌いながら現れて、
若さと乙女ちっくを振り撒きます。

さらにドクター袋小路が現れて、あの手この手でかおるちゃんに
求愛する。ドクターは嘘をついて床屋と客を追っ払い、
いよいよその求愛が高まると、かおるはかおるで表向き、
嫌と言いながらまんざらでもない、そういう場面までやりました。

ちなみに、この口説きのシーンで、
ドクター袋小路が得意の「二枚舌」を披露します。
口八丁ということでもあり、また実際に肉屋からレバーを買ってきて
表現したとも聞きますが、これも麿さんの得意技だったらしい。

結果的に、これが下町唐座で初演された『さすらいのジェニー』の
「ベロ丸」というキャラクターにつながっていったことをお伝えして
初回を終えました。

唐さんにとって大事な演目です。
だからこそ私が大学三年生の時、唐さんはゼミナールの学生相手に
この台本を課題にしたのだとも思います。
『鐵假面』公演が終わったら、3/31(日)に再開します!

3/11(月)『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』本読みWS 第1回 その①

2024年3月11日 Posted in 中野WS『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』
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↑これですね!紅テント公演第1弾の勢いを感じます!


昨晩は若葉町ウォーフでの集中稽古を打ち上げ、
ハンディラボに戻りました。皆は積み下ろし作業。
自分は本読みワークショップに入りました。

『腰巻お仙』シリーズの第2弾、
『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』の初回です。

この演目はなんといっても、紅テント公演のスタートという意味で
唐さんにとって圧倒的にエポックな芝居です。
そこで、紅テントを閃いた経緯についても、自分が知るところを
話しました。

・野外劇を経て、雨風を凌げるようにしたかった
・紅(あか)という色は、おばあちゃんの腰巻の色
・今村昌平監督の映画『赤い殺意』がヒントになった
・李麗仙(当時:礼仙)さんが閃いた

などの説がある旨、お伝えしました。

正解は分かりません。
そもそも、人がアイディアを閃くのには様々な要因が同時多発的に
絡み合うものです。みんなで喋っているうちに具体案が練り上げられて
いった場合、誰ともなしに、主導は確かにリーダーたる唐さんで、
というのが実情だと思います。だから、著作権!というようなスッキリ
したものではないし、そこがまた面白いとも思います。

そうして生まれた紅テント公演で上演された
『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』は『忘却篇』に引き続き
母をテーマにした物語です。ただし、前作とこれが違うのは、
はっきりと母を求める青年主人公が押し出されていることです。
その名を「忠太郎」といいます。忠太郎といえば、
長谷川伸の名作『瞼の母』に出てくる「番場の忠太郎」。

昨日読んだ冒頭シーンは忠太郎が登場する前段からスタートし、
『忘却篇』から引き継いだ男性キャラクターが活躍します。

『忘却篇』で「天才」という役名だったドクターは
「ドクター袋小路」となり、闇で犬殺しもしている深夜営業の医者です。
相変わらずの「床屋」と「禿の客」。そして、新たなキャラクターとして
床屋の娘「かおるちゃん」が登場。

このかおるちゃんはなかなか曲者で、ただ可愛らしいだけでなく
あざとく強かなのがポイントです。
男にかどわかされているようでありながら、時に男を振りまわし、
利用する存在でもある少女。後に続く唐さんの「少女論」が、
ここで芽吹いています。

・・・ちょっと長くなりそうなので、
今日は「その①」として、物語についてはまた明日!