1/14(水)たった5行から生まれたヒロイン

2026年1月14日 Posted in 中野note
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『下谷万年町物語』のヒロイン「キティ飄田」はたった5行の文章から生まれた、
と単行本のあとがきにあります。
唐さんも個人的に親しかった種村季弘さんの著作に『書物漫遊記』という
一冊があり、そのなかに「逃げた浅草」という一章があります。
そのなかほどに、たった5行。


 それから数年後のことになるが、半年程の間ながら私は集中的に浅草に通い
つめたことがある。
 東洋劇場に出ていたキティ福田の、ヒロポン中毒でみるみるうちに肉が殺げて
いく真白な身体を胸の痛くなるような思いで見つめていた。そしてキティ福田が
ガス自殺を遂げると、それが合図のように、六区に足が向かうのを避けた。


たったこれだけの記述から、唐さんがあれだけのせりふと、
人間のバックグラウンドと、「文ちゃん」や「洋ちゃん」との数知れない
やりとりと、道行きを書いたのだと思うと、思わず天を仰いでしまいます。

そして、ふたりに共通する報われなさとやりきれなさに、ああいう
エンディングを用意して彼女を蘇らせた唐さんの願いを感じます。
今は絶版ですが、中古の文庫を取り寄せてよかったと思わせてくれる
5行でした。

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