2024年12月 5日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』 Posted in
中野note
↑夜の御茶ノ水駅!
今日は文京区に来たので、せっかくだからと御茶ノ水に寄りました。
年明けに『唐版 風の又三郎』1幕のWSをするので、色々と思い出す
ためです。駅の近くにある聖橋やニコライ堂や電話ボックスが第3幕
の舞台になっています。
唐さんの設定によれば、死んでしまった高田三郎三曹を思って
ヒロインのエリカが御茶ノ水をさまよっていると、高田の乗った
飛行機が飛来し、聖橋の欄干の下をくぐってみせる、という
アクロバットな描写があります。
現在、工事中の御茶ノ水駅の周りにその風情はありませんが、
脳内で補正してその光景を想像することは、せりふを言う上で
とても有効です。そう。せりふを言ってやろう、というのでなく、
見ているものや、体験していることを観客に伝えよう、と、
そういう状態になればしめたものだからです。
よく考えたら、今回のWSでは1幕のみを読むので、
ホントは舞台となる代々木に行かなければなりませんが、
いろいろと作品の世界を思い出しました。
唐ゼミ☆で公演した2020〜2021年も同じように、
こんな風に劇をつくっていました。
現在、15人の定員中、11人の方が参加を申し出て下さっています。
あと4名。ありがたいことです。
さらなる参加希望をお待ちしつつ、皆さんに配布する台本を
作り始めています。
2024年11月25日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑2005.3に唐ゼミ☆で公演した時はテントなので屋台崩しアリ。
奥行きを使えました
昨晩、『少女都市からの呼び声』本読みが完結しました。
その内容をここにレポートします。
第5回で読んだ、雪子と有沢のやり取りの続きから再開しました。
有沢は田口が元気であった頃から、田口の中にいる別人を
感じとっており、そのためにすんなりと雪子の存在を認めます。
雪子は有沢に迫り、その勢いはビンコを押しのけんばかり。
面白いのは、有沢が、物語の設定である秋にオススメの魚として
即座にワラサを挙げるところで、これは田口がフランケの世界で
雪子に言っていたことと符合します。
秋の魚といえば秋刀魚、冬は色々ある。
けれど、田口&有沢にとっては断然ワラサということでしょう。
このあたりに、彼らの親友関係に通じる気脈の太さを感じさせます。
ビンコが田口を危険視するのも頷けますし、雪子はこれで俄然、
勢いづきます。
とそこへ、田口の呻き声が聞こえる。
田口がこの世に還ってきそうな気配を感じた雪子が病室に入ると、
入れ替わりにビンコが病室前の廊下に戻り、有沢が誰かと一緒にいた
気配がする。ビンコはその鋭い感性で、異変と危険を感じとります。
病室に有沢とビンコが入ると、田口の腹の上に突っ伏した雪子が
います。ここで大事なのは、有沢には雪子の全身が見え、ビンコには
髪の毛だけしか見えないということです。
この世界で自分が生きるのだ、兄ではなく自分が。
そのために有沢と結ばれたいと願う雪子はビンコは対立します。
そして対立することで、ビンコにも雪子の存在がいや増しに
感じられるようになります。
と、ここで田口が起き出します。
田口が起きるということは雪子がこの世にいられなくなることを
意味します。実際に、目覚めた田口は雪子のことを覚えておらず、
自分にまとわりつく髪の毛(=雪子)を奇妙に感じるのみで、
黙殺してしまいます。
同時にビンコは、有沢が雪子の化身として拾ったビー玉を
ガラス瓶の中に封じ込め、雪子を封印します。
こうして、雪子も、雪子のいたフランケの世界にいた人々も、
忘れ去られていきます。少女都市からかすかに響く呼び声も、
やがてかき消され、忘却の彼方に追いやられます。
哀切な終幕。
病室のある現実世界と、フランケの世界、
此岸と彼岸の構造を実にわかりやすく展開した、ウェルメイドな
作品です。そして、初演の会場に稽古場や小劇場が想定されたことで
テント芝居終幕の屋台崩しもなく、その分だけ、静かに忘却に
沈む雪子が観客の心に訴えます。
・・・・。
これで、『煉夢術』『少女都市』『少女都市からの呼び声』と続けてきた
一連のシリーズが完結しました。「オテナの塔」を貴重とした連絡と
私は捉えています。
今後は、1984年に書かれた『少女都市からの呼び声』が翌年に
どう発展したかを探るために、『ご注意あそばせ』『ジャガーの眼』へと
つなげていきます。
特に『ご注意あそばせ』では、これまであまり触れてこなかった
小説家としての唐十郎にも迫り、唐さんに芥川賞をもたらした
『佐川君からの手紙』にも触れます。
併せて、年始には1/11(土)-13(祝月)の3日間をかけて、
集中講座的に『唐版 風の又三郎』第一幕に取り組みます。
どうぞご参加ください。
2024年11月18日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑フランケが町の人々を連れて乗り込んでくると、舞台は華やぐ。
他方、フランケの孤独とか、雪子を失うかも知れない焦燥とか、
そういうものが見えにくいのが難点。面白いけど・・・
昨晩は『少女都市からの呼び声』本読みの第5回でした。
全6回の構想で進めていますから、大詰めが迫っています。
昨日は、雪子がフランケの静止を振り切り、兄・田口と引き換えに
現実の世界にやってくる場面をやりました。
兄が妹に、現実に立ち向かうための3本指を授ける場面が展開した後
田口がグラスを取り落として割ってしまったことにより雪子が
具合を悪くするアクシデントにも見舞われますが、さらに、
フランケもピストル片手に町の人々を引き連れ乗り込んできて
田口を糾弾、雪子に去られるくらいならと、悲嘆と絶望に暮れた
フランケは銃弾を放ちます。田口は身を挺して雪子をかばい、
自分と引き替えに雪子を現実世界に送り出します。
その際、現実世界を生きるよろこびを、秋から冬にかけて
旬を迎える魚・ワラサを例に挙げて語り、雪子がワラサを食べたいと
語るくだりは、唐十郎にしか書けない感動的なせりふの応酬と
なります。
昨日の後半では、現実の世界にいる有沢・ビンコ・看護婦らが
久々に登場し、病院の廊下に居残った有沢が、雪子に初対面する
場面に進みました。二人は初対面ではあるけれど、雪子はずっと
田口のお腹のなかにいたわけですし、有沢は親友のなかに田口とは
違う誰かがいることをずっと予感してきた、だから、雪子の訪れを
必然のようにして受け入れていきます。
実際、オルゴールの箱の中に入れられた髪の毛が雪子として
現れた時から、登場人物名もはっきりと「少女」から「雪子」
へと発展します。
有沢の手を取った時、雪子は自らの手に、フランケとともにいた
世界では欠落していた3本指のあることを確認します。
田口と交替し、雪子が現世を生きてゆく。どういうところで
昨晩は終了時間でした。来週の最終回では、忘却の世界に
雪子とフランケが封じられる、哀しいエンディングが待っています。
次回は、11/24(日)。
12月からは1985年9月に初演された『ご注意あそばせ』を取り上げます。
2024年11月11日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑よく見るとマグロの頭。これをサメと言い張るところの背伸び感が健気
『少女都市からの呼び声』の本読み第4回。
こんかいは日曜が立て込んでしまったので月曜日に実施しました。
それにも関わらず参加してくださった皆さんに感謝。
そして、欠席せざるを得なかった方のためにレポートします。
今回の要所は、ひたすら「指切り」の場面をどうクリアするかに
かかっています。メスで兄の指を3本切り落とす少女の姿は、
普通に考えたら、怖い。けれど、雪子には雪子なりの理由があり、
指切りを受ける兄・田口にもそれなりの覚悟があるわけです。
そこをきっちり押さえると、指切りというトンデモ行動が腑に落ちる
ものに変わってきます。
まず、昨日に読んだ7場で重要なのは、町の女たちの会話です。
彼女たちは食っていくための生活にも、夫婦関係にもくたびれている。
いわば「生活」に疲れた世帯くささを徹底して体現する存在です。
彼女らをきっちり描くと、フランケ&雪子が避け、遠ざかろうとして
いる世界がクッキリと提示できます。
続いてフランケの食事シーン。
マグロの頭を「サメ」と言い、「アルカイオ星を食ったばかり」とか
「(前回の食事は)10万光年前」などと雪子とフランケがうそぶく。
これらは全て「生活臭」から逃れるための大言壮語です。
二人が健気に抽象的な存在であろうとする努力は、なかなか
泣かせます。
直後のシーンで雪子は、かつて自分が失った3本指を怖れます。
現在の自分は、フランケとともに「ガラス化」「永遠の美」
「老いることのない永遠の生」を目指しています。
だから、指=肉が再び自分に舞い戻るのを怖れます。
肉とは、時に朽ち、臭気を放つものだからです。
一方で、雪子にはふと「指」が美しく見えます。
スウェーデンの城に降る雪のように。
ガラス化の方向に突き進めば、それは反「肉」を意味します。
けれど、雪子には指が美しく見える瞬間もあるのです。
つまり、内心は「肉」を持って現実と渡り合いたいと思っている
ということです。
ここから先、雪子は、ガラス化=フランケの幻想路線、
肉化=兄・田口との現実路線の両極が葛藤して揺れます。
その揺れ方がこの作品に重要なドラマを生んでいます。
・・・長くなったので、続きは明日!
2024年11月 4日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑創作現場的に、雪子の顔にかかるガラスの皮膚はとても難しい問題です
2005.3近畿大学構内での唐ゼミ☆『少女都市からの呼び声』より
昨晩の本読みは次のシーンを読みました。
第2回の一部復習も行い、重複も3していますが。
(1)フランケの手術室シーン ※第2回でもやりました
(2)満州行軍のシーン〜フランケ・連隊長の対話
(3)雪子を取り返しにきた田口、対する雪子・フランケ
(4)老人Bと老人Aの再会
特に重要なのは(2)(3)です。
ここで重要なのは、フランケの過去と、フランケが雪子をガラス化
するに至った経緯やモチベーションがはっきりするからです。
戦時下の満州雪原にて、敬愛する連隊長と同僚たちの列から、
フランケは一人離れて日本に帰ることを命じられました。
フランケとしてはともにオテナの塔を目指し、死にたかった。
しかし、彼は病弱ゆえに同行を許されず、厳しい雪原のなかで
障害を負って帰国します。
別れる際、「おまえのオテナを探せ」と連隊長に言われたことが
きっかけとなり、雪子をガラス化し、彼女こそ自分のオテナの塔と
見定めます。他面、このカップルは、生まれてこられなかった
田口の双子の妹・雪子とフランケの結びつきです。
お互いに陽の当たらない存在が強く結びつき、二人はガラス化に
強烈な希望を見出している事がわかります。
(3)雪子を取り返しにきた田口、対する雪子・フランケ
田口が妹・雪子を取り返しにやってきます。
しかし、自信満々なフランケ。フランケにとってみれば、
雪子は望んでフランケを結婚相手に選び、ガラス化を選んだのです。
が、実は雪子のなかにはガラス化への恐怖と迷いがありました。
雪子の心が揺れるたびにフランケは狼狽しますが、そんな彼を
よそに雪子は兄の誘いに応じます。が、すでに途中までガラス化
が進行した雪子の体はかなり繊細で、簡単に兄の手がふれることを
許しませんでした。辛うじてフランケが雪子を手中に収めるなかで
この場を閉じます。しかし、一旦噴き出した雪子の迷いが、これから
行う場面につながっていきます。
今回、読んだなかでは、(3)が特に難所であり、工夫をしなければ
ならないところでした。フランケが悪人として雪子を騙し、無理やり
手術しているように見える。あるいは、雪子を助けに来た兄の田口が
単純な正義の味方に見える。こうなってしまってはこの劇は台無しです。
雪子はあくまで、彼女の意志でフランケを選び、ガラス化を選んで
きたのです。ただ、恐怖も抱いていた。兄の出現により、その恐怖に
よって引き返すことを選んだ。こういう成り行きを押さえる事が肝です。
皆さんと読んで、この三角関係が改めてよく分かりました。
次回は11/10(日)です!
2024年10月30日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑結晶体でモンスターを強化するらしいです
昨日は劇団員で集まり、今後の予定を話し合いながら具体的に
書類作りなどを始めました。頭を突き合わせて作業していると進みが良く、
その間に雑談もします。
『少女都市』や『少女都市からの呼び声』を研究しているから、
J.G.バラードの『結晶世界』というSF小説を読んでいる話をしながら、
そういえばよく室井先生が講義の際にこの小説に触れていたという
話になりました。
昔、『少女都市からの呼び声』に取り組んだ時、
いつも重要になるのは、ガラス化してゆく雪子の顔の装飾を
どのように造形するかということでした。
ちゃちではいけないし、女優が体を動かしても
顔にちゃんとくっついていなければなりません。
どうしてもグロテスクになりがちなのですが、それだと、
雪子自身が自ら望んで手術を受けている実感が湧いてきません。
フランケにだまされている感じになってしまっては失敗だと
思います。彼女は、それこそ整形手術をするように、自ら希望して
ガラスの雪子になろうとするのです。
そのヒントが、小説『結晶世界』の描写にはあるように思います。
小説ですからビジュアルは伴わないし、だからこそバラードの
描く世界が読者の想像力の中で開花するわけですが、ヒントになる。
一方で、息子がやっているゲームをひょいと覗くと、
こちらも味方をクリスタルで覆って力を手に入れていました。
テラスタル、というのだそうです。
こんな感じかなあ、と作業の合い間に話し合ったりします。
こういう時間が、後々の作業に役に立つように思います。
2024年10月28日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑2005.3に上演した唐ゼミ☆『少女都市からの呼び声』の老人AB
オテナの塔を発見して感激しています
昨晩は『少女都市からの呼び声』本読みの2回目。
読んだ箇所としては、
①兄の田口が雪子の部屋を訪ねて、雪子にフィアンセができ、自分の体を
ガラス化しようとしている現在が明らかになる
②フランケ醜態と田口の初対面を通じて、田口はフランケに不信感を持つ
③オテナの塔を目指す老人ABの会話を通じて、憧れのオテナの塔の
イメージがつくられる
④フランケの研究室で行われる雪子のガラス化手術と割れたビー玉
という4場面でした。
要するにここはオリジナルの『少女都市』と変わらない場面です。
ですから、より理解を深め、より細部を愉しむ読み方をしました。
①雪子と田口の邂逅
ポイントは田口のダメ兄ぶりです。他人の保険証を使うわ。
会社の金を横領してクビになるわ。妹を探してきたのはお金を
無心するためというのも露骨。一方で、しっかり者で健気な妹。
雪子は働き者です。一方で、身体に不具合があることが前提となって
おり、特にこの『少女都市からの呼び声』においては、生まれて
来られなかった存在、だということが重要です。それにしても、
そんな妹に無心しにくる兄のダメさよ・・・
②フランケと田口の初対面
工場の主任と紹介されたフランケは、敏腕上司であるよりも
怪しさが際立ち、田口に警戒心を抱かせます。
ここがコミカルになるのは仕方ないし、望むところ。
ただし、満州行軍のシーンで一気にフランケの内面を炙り出し、
そのコンプレックスやシリアスさをギャップとして表すための
前段と捉えましょう。
③老人ABとオテナの塔
唐さんが処女作から執拗に愛してきたキャラクターと場面です。
下町に暮らす人々のいじらしさ、唐さんの愛着がよく出ています。
それでいて、若く野心に溢れた唐十郎青年は、ああはなるまいとも
思っていたはずで、アンビバレントな感情が噴き出している面白さです。
この二人を通じて「オテナの塔」をしっかりと描きましょう。
④フランケ、雪子をガラスに改造中
フランケによる雪子の改造手術は、ケレン味に溢れています。
本当はもっと繊細な作業だと思いますが、ビー玉が原料となる
ガラス化手術です。その中で繰り広げられる女1・2・3との
やり取りは、フランケがいかに生活感を憎んでいるかの証左です。
昨日は、割れたビー玉にフランケが語るモノローグの途中まで
やってタイムアップだったので、来週は少し戻って、
雪子のガラス化手術シーンから再開します。
次回は11/3(日)19:30から!
2024年10月23日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑『下谷万年町物語』小説版の表紙です
中央公論社から、単行本と文庫本で出ている『下谷万年町物語』の
表紙には、いずれも上の絵が使われています。
これは、1964年に『煉夢術』が初演された時にチラシのビジュアル
として使われた絵で、『ゴドーを待ちながら』を意識してか、
山高帽をかぶった青年がギターを持ち、時計のついた塔を眺めている
という絵柄です。
大切なのは、なぜこの絵を『下谷万年町物語』というお話の表紙に
使ったのか、ということです。それは、塔のある町と万年町が
唐さんの中では一直線につながっているからです。
路地に寝転がって長屋を見れば塔に見える、というわけで
唐さんは『煉夢術』を着想したので、生まれ育った万年町を描くのに
この絵柄を使ったのは自然なことです。さらに塔=「オテナの塔」
を描く『少女都市』『少女都市からの呼び声』における
雪子の部屋の様子が、明らかに長屋の一室であることも、
この唐さんの頭の中のつながりに思いを馳せれば、自然なことと
感じます。
先ごろ調べがついたように、『新諸国物語』の中で「オテナ」とは
アイヌ語で「酋長」のことですが、『新諸国物語』の中でも
「オテナの塔」は北海道ではなく佐渡にあり、この時点で混乱
していますが、まあ、自由だということです。
唐さんのイメージする「オテナの塔」がどんなものか理解する際に、
上の絵はそんなことを教えてくれます。
2024年10月22日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑2005.3に近畿大学で行った唐ゼミ☆『少女都市からの呼び声』
手術シーンから始まる。ドクター・フランケの手術と対称になる
現実世界のオペ
一昨日の振り返りレポート。
『少女都市からの呼び声』は病院のシーンから始まります。
『少女都市』でただ「兄」とされていた雪子の兄には「田口」という
唐さんが最もよく主人公に名付ける固有名詞が付いています。
ちなみに、唐さんがこの苗字を愛するのは、母方の姓だから。
田口が手術を受けています。
看護婦から田口の友人・有沢と、有沢の婚約者・ビンコが説明を
受けます。看護婦曰く、盲腸とされた田口の腹部を切開してみると
お腹の中から妙な髪の毛が出てきた。それを摘出しても良いかどうか。
天涯孤独の田口について判断できるのは親友の有沢だと、病院側は
目をつけたわけです。
有沢の思い当たるところによれば、田口はこう、フッと別の人格が
よぎることがあった。親友同士かつホモセクシャルでもないのに、
ふっと男女の恋愛感情のようなものがよぎる瞬間があったと言います。
つまり、田口のお腹の中から発見された長い髪の毛は、
生まれて来られなかった双子の妹・雪子であり、時々は少女の
人格が顔を出す、という仕掛けであったわけです。
有沢が呼ぶ声を聞きながら、田口はひとり幽体離脱して
雪子の住む世界を目指します。つまりそれが「少女都市」という
わけです。
田口が雪子を探して歩むと傷痍軍人らしき老人たちに遭遇、
妹を探していることを告げると、「オテナの塔」を目指すべしと
アドバイスを受けます。いう通りにすると、田口は雪子の暮らす
部屋にやってくる、という流れです。
老人たちとの会話、雪子との邂逅シーンは『少女都市』と同じです。
しかし、冒頭に病院の場面があり、そこに有沢・ビンコ・看護婦が
現れるのは、この『少女都市からの呼び声』ならではの展開です。
『少女都市』と『少女都市からの呼び声』の違いとしては、
この病院の存在が大きい。つまり、冒頭と末尾に病院の設定を加えた
ことで、彼岸と此岸がわかりやすくなり、スッキリするわけです。
次回は10/27(日)。お馴染み、フランケ醜態博士も登場します。
2024年10月21日 Posted in
中野WS『少女都市からの呼び声』
↑右文書院さんのおかげで、長らく活字で読むことが難しかった
『少女都市からの呼び声』に、2008年からは気軽にアプローチ
できるようになりました
昨晩は本読みワークショップ。
『少女都市』に続く『少女都市からの呼び声』の第1回でした。
恒例の年表紹介からスタートして、唐さんが執筆に至った経緯から
皆さんに説明していきます
「オテナの塔」もの、という観点から見ると、次の事柄を年代順に
押さえておくと経緯がよくわかり、作品の内容もよく理解できます。
1965年2月『煉夢術』@六本木・俳優座劇場
1969年12月『少女都市』初演@渋谷 金王八幡宮
1984年?月『少女都市からの呼び声』@状況劇場稽古場公演
1985年11月『少女都市からの呼び声』@新宿スペース・デン
いずれも、戦後に人気を博したNHKラジオ「新諸国物語」
の一編『オテナの塔』をもとに唐さんがイメージを膨らませ、
主人公が夢の世界で行き着く塔のそびえ立つ街を舞台にした
作品群です。唐さんの中で塔とは下町の長屋を横から見たもの
であり、水平に世帯が連なる長屋を垂直に立たせると塔になる
わけです。塔にあるはずの雪子の住む部屋が、敷布団・四畳半・
障子・ちゃぶ台で構成されているのは、そのような理由があるからです。
唐十郎史的に重要なのが、1972年春公演『二都物語』から始まった
根津甚八さん・小林薫さんを中心とした劇づくりが1980年春の
『女シラノ』を以って終わり、次なるフェーズに状況劇場が入る中で
1980年台半ばに唐さんがものにした傑作に『少女都市からの呼び声』
が位置づけられることです。すなわち、金守珍さん、六平直政さん、
黒沼弘巳さん、佐野史郎さんらの台頭による成果。
これが、1985年の状況劇場『ジャガーの眼』、劇団第七病棟
『ビニールの城』にもつながっていくわけです。
と同時に、特に『少女都市からの呼び声』と『ジャガーの眼』に
状況劇場のプリマであった李礼仙さんが出演していないことも
注目に値します。唐さんをはじめとした劇団としては、李さんの
不在は苦境であったと思われますが、結果的にこれが、
田中容子さんのヒロイン・デビューのきっかけになります。
田中容子さんの活躍は『ジャガーの眼』初演映像がYouTubeでも
見られますので、そこから前年に演じた雪子を想像することが
できます。
活字化されたテキストとしては、
文芸誌『海燕1985年2月号(福武書店)』1985.2.1刊行
『唐十郎コレクション3(右文書院)』2008.11.1刊行
『唐十郎Ⅰ 少女仮面/唐版 風の又三郎/少女都市からの呼び声
(ハヤカワ演劇文庫)』2019.2.15刊行
の3種で読むことができます。
後半2種は新品で手に入りますので、気軽に読むことができます。
現在位置は、
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ワークショップ >
中野WS『少女都市からの呼び声』
です。