2026年3月 3日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
昨日の続き。第4回オンライン本読みのレポートです。
「モモ」の夫「夕一」が登場すると、この夫婦の独特な関係、かなり歪んだ関係
が明らかになります。
まず、二人は肉体関係を持っていません。
劇冒頭から「モモ」が背負っていた赤ん坊は人形、つまりダミーです。
さらに、「モモ」が「夕一」と結婚しようと決めたのは、ただ単に「夕一」の名前
によって選択された、ということも分かってきます。
つまり、「朝顔」に去られてしまった「モモ」は、「朝顔」の相棒である
「夕ちゃん」と呼べる男性と結婚することで、いずれ「夕ちゃん」を探す
「朝顔」に対して釣り糸を垂れていた、ということなのです。
しかも、「夕一」は噛ませ犬、踏み台として扱われながら、彼自身はそれを
受け入れて、指一本触れずに夫婦関係を営んできた、ダミーの赤ん坊も
可愛がってきた、という事実が明かされます。
「モモ」の「朝顔」への迫り方は、なかなか恐ろしいですね。
「夕一」のマゾヒズムも、凄い。
しかし読者や観客にとっておもしろいのは、彼らの行動が徹底した
「献身」や「純愛」として受け取れることによります。
これは、ハッキリ言って唐十郎の魔法です。
客観的に見れば、かなり変態的な三角関係なのですが、それを、
胸もときめくピュアなものに感じさせる。演じ手や読み手として大切なのは、
その両方を行き来しながら味わうことです。
ハタから見れば変だよな、でも、「恋愛とは恥ずかしいもの」ですから、
変であるがゆえに、これはむしろ真っ当な恋愛である、とも言える。
この辺が実におもしろいのです。
ついでに言うなら、あといくつか、押さえて愉しみ尽くしていただきたい
ポイントがあります。
一つは、「夕一」は体調を崩して欠勤してきた「カミヤ・バー」の雇われ人
であることを思い出してください。だから彼は、登場した瞬間、お店に対して
所在なさげです。
二つ目は、「河合の連れ」の面白さです。ベッドに宙吊りにされていた芸人
の彼は、実は「夕一の叔父」だったのです。第二章の最後の電話のシーンに
そのヒントがありましたが、この場面で確定します。「連れ」はそれまで、
ベッドに吊られながらバーに入ってくるという奇矯さを見せていましたが
一転、ここで常識人になって、甥の「夕一」に「こんな夫婦関係でいいのか!?」
と世間を代表するような説教を始めます。このギャップがおもしろい。
最後、三つ目としては、「モモ」と「朝顔」の馴れ初めが、酔った「朝顔」を
介抱するために、「モモ」が「朝顔」の喉に指を突っ込んでいることです。
これは、唐さんなりに「腹話術」を意識してのことです。
本当は、「朝顔」の背中から手を突っ込んで介抱させたかったでしょうが、
生身の人間にそれはできませんから、口から指を突っ込ませています。
「朝顔」は「夕ちゃん」という人形を、「夕ちゃん」の体に手を突っ込んで扱う。
「モモ」は「朝顔」の体に、手を突っ込んで彼に働きかける。
という点が対になっています。
こういうところは、唐さんが実に上手いので、演技を組み立てる時に、
「モモ」が「朝顔」人形の腹話術師として吐かせているように、見せたい
ところです。
以上、第4回目のレポートでした。
↓「モモ」が酔った「朝顔」を介抱する姿勢を下記のように整えれば、腹話術
の姿勢とイメージを重ねられるように思います。
2026年3月 2日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
今日は『ビニールの城』オンライン本読みの第4回目でした。
ドラマはかなり動いています。前回に引き続き、ヒロインである「女」と「朝顔」
の対話が進んでいきます。やがて「女」の夫である「夕一」も登場し、
そのなかで、「女」が「モモ」という名前であることも明らかになりました。
大きな進展です。
おもしろかったのは、
「モモ」「朝顔」「夕一」の変わった、もっと言うなら少しく歪んだ、関係が強烈に
露わになってきたことです。
まず、「モモ」と「朝顔」がアパートの壁一枚隔てたお隣さん同士として出会った
時、「モモ」は常にサングラスをかけている女でした。変わっています。
が、これには理由があって、それは「モモ」がビニ本でヌードを晒している
女性だからです。ビニ本の実際の発行部数がどうだったかは書かれて
いませんが、彼女本人とすれば、素顔で歩いていてビニ本の読者にバレて
しまうことを恐れての行動でしょう。
加えて、「朝顔」の部屋には、そのビニ本があったことがおぼろげにわかって
きます。これはまだ、おぼろげに、という段階ですが、どうやらそのビニ本に
向かって「朝顔」が語りかけるのを壁越しに聞いていた「モモ」は、「朝顔」に
好意を持ったらしい。・・・なかなか変わっています。
さらに、自室で腹話術の練習をする「朝顔」を、「モモ」はてっきり、
「朝顔」と「夕ちゃん」という二人がいるものと勘違いした。
ある日、酔って吐きそうな「朝顔」の嘔吐を指つっこんでサポートした
「モモ」は、以来、「朝顔」が腹話術師であり、「夕ちゃん」が人形であること
を知り、対面する関係になっていきました。
その中で夜食を差し入れる関係にまでなったそうですが、ある日、
「朝顔」は去り、それは「朝顔」が「夕ちゃん」と距離をとった8ヶ月前と
符合する、という前段であることが二人の会話から見えてきます。
ここで、「夕一」という夫が登場してくるわけですが、続きは明日。
↓「モモ」と「朝顔」が隣り合わせたアパートの壁には穴が空いていて、「モモ」
はそこから夜食を差し入れたそうです。けっこう大きめの穴ですね。普通は
塞ぎますが、そのままにしていたところも、二人はなかなか奇妙です
2026年2月27日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
今日は、第三章における「朝顔」の名人芸についてお話しします。
あの、三人の腹話術師に絡みついて、それぞれの人形が「夕顔」なのでは
ないかと掛け合っていくところ。あれは、なかなかの名シーンです。
土台、腹話術師である「鳥丸」「水丸」「糸丸」とすれば、失礼な話なのです。
それぞれに抱えている腹話術師としての苦労、将来への不安に土足で
踏み込むようなことを言ったり、その人形が自分の相棒ではないかと
訴える「朝顔」は、みんなに嫌われて当然です。
が、その暴走ぶりに三人が呆れているなかで、それぞれの人形を
「朝顔」が片っ端から扱いながら対話していく名シーンにつながります。
人形を一体一体取り出しては芸で会話して、全員と折り合わないわけですが
この連続感が良いわけです。
そして最後には、堪忍袋の尾が切れた「鳥丸」「水丸」「糸丸」にボコボコに
される顛末も、リズム良く整っています。
そんな風にボロボロになって、「女」が、出会った頃のように介抱する
という流れにもつながっていく。唐さんの筆が冴えています。
ちなみに、ワークショップの皆さんには、腹話術のシーンは口が動いても
良いので裏声を出してくださるようにお願いしています。
ここから「人物」、ここから「人形」、という境目がわかりやすくなりますから。
お互い、zoom越しに裏声を出していると、けっこう面白いです。
ただし、やりすぎて声がかれ、日常に支障きたさないように頑張って
もらっています。
こうしたギミックやアクションがあって、「腹話術師」という職業の
ペーソスもある。第三章のおもしろさです。
↓わたしたちの『少女仮面』で活躍した人形2体は、いずれも唐組からお借り
したものです。左が「たかし」、右が「いと」。特に「たかし」というのは、
『ビニールの城』に由来しています
2026年2月25日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
先週の土曜日に行った『ビニールの城』本読みWS 第3回でしたが、
レポートが遅くなっていました。
第3回目の絶大な進展は、なんといっても、まともに「朝顔」と「女」が会話
しはじめたことです。これまで、「女」はずっとカミヤ・バーのなかをウロウロする
ばかりでした。その態度はどうにも思わせぶりで、「朝顔」に対して、どうにか
気づいて欲しいと言わんばかりのアピールぶりだったのですが、ついに
自ら口を割って、自分がかつて、アパートの隣の部屋で暮らしていた女だと
明かしたのです。
そうすると、「朝顔」もさすがに旧知の仲だと知ったわけですから、
自らの内向性や奥手ぶりを一旦は傍に置いて、会話し始める。
その中から、「朝顔」と人形「夕顔」と「女」の、奇妙な共同生活が見えて
くるというところに、たのしさがありました。
一応、恋愛関係ではないので、馴れ初めというには可笑しいですが、
ことの始まりとしては、酔っ払った「朝顔」を「女」が介抱したというのが、
声をかけたスタートだったらしい。それまでは、隣の部屋から「朝顔」と
「夕顔」の会話が漏れ聞こえてくるので、てっきり二人が暮らしていると
思っていた「女」の誤解も解け、そこからは、お食事を差し入れてもらう仲に
なったが、「夕顔」と別れた「朝顔」はふいに姿を消してしまった、という
経過だということも見えてきました。
特におもしろいと思うのは、全編を通じて、とにかく「朝顔」が
酔っ払って酩酊していることで、闇の浅草、霧の浅草で、しかも
カミヤ・バーの電気ブランに劇全体が浸かってしまっている、
そのなかで人形「夕顔」とのやりとりや、不思議な「女」とのやりとりが
モヤモヤと生じてくる、そういう「朝顔」の世界が浮き上がってきました。
物語が動きはじめた。そういう実感のする回でした。
「女」とのやりとりの前に、「夕顔」の居場所を訪ねて、うらぶれた腹話術師たち、
その人形たちとする「朝顔」の会話も面白いので、それは明日に触れます。
↓「酔っ払い海老」っていう料理がありますね。活け海老を紹興酒に漬けて
グッタリさせてから加熱する中華料理です。『ビニールの城』は、浅草の
電気ブラン漬け、という感じがします。対人&対世界恐怖症の「朝顔」が
ベロベロだからです
2026年2月18日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
↑和・洋・浅草、の混成による神谷バーのメニュー
一昨日の続きです。
一通りヒロイン「女」の顔見せが済むと、今度は「河合」とその「連れ」が登場
します。この二人はかなり風変わりで、要するに浅草芸人風の風体です。
何しろ、「連れ」の方はベッドごと入ってきて、しかも、そのベッドにL字の
金具で釣られて浮いている、という状態なのです。
「河合」は入っていくるや、矢継ぎ早に幾つものオーダーを「マスター」に
かけます。かなり、我がもの顔、と言って良い態度です。
「飲み物をつくれ」「電話をかけろ」「扉を閉めろ」という具合なのですが、
しかもそれらを同時にやれという傍若無人ぶりです。
面食らった「マスター」が突っぱねると、今度は「河合」自身が、三つの
アクションを同時にやってみせる、という芸当の持ち主でもあります。
「連れ」は「連れ」で、宙吊りにさせたまま飲み物を飲んだり、
ボソリとせりふを言うのがコミカルに描かれますが、彼らの、いかにも
浅草的なドタバタのなかで、ずっと電話の相手先が気になってくる。
やがて、その相手先こそが、「女」の旦那の「夕一」であると分かるのが
この第二章のクライマックスになっています。
ちなみに、この第二回の本読みでは、「電気ブラン」の値段が一杯いくら
だとか、神谷バーの会計システムが、話題になりました。
酒の飲めない私は疎遠ですが、参加の皆さんの方が実際の神谷バーに
行かれていて、意外と安い価格帯や、オーダーごとに会計するシステム
について教えてもらいました。
調べてみると、神谷バーは食べ物も豊富です。
洋食ベースではありますが、「煮込み」があったり、「豚たんナムル」など
和風おつまみメニューもあるところが土地柄を反映しています。
こう言う話になると、参加者の皆さんの方が先生化しておもしろくなります。
2026年2月16日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
昨晩のオンラインWSのレポートです。演目は『ビニールの城』。
だいたい、私たちの本読みは、1日に20ページずつ進むことを目標にして
います。何年も続けてきた結果、大雑把になりすぎてもつまらないし、
かといって、3行進むのに1時間かかった、というような、かつての
演劇界にあったスパルタ稽古では、全体が見えなくなってしまう。
ちょうど良い塩梅が、20ページ。
で、昨日はまた、唐十郎戯曲に珍しい「章立て」の第二章部分が、
ピタリと20ページにはまるということで、たいへんスッキリした回となりました。
場所は、カミヤ・バー。
浅草にある名物バーは「神谷バー」ですが、唐さんは屋号をカタカナで
書いています。ひょっとしたら、そのまま使うのは憚られたのかも知れません。
何しろ、唐さんがこの劇で描く浅草は暗く、閑散として、霧深い街です。
さらに舞台となるカミヤ・バーも、店の端っこは床が破れて、水が染み出して
しまっている。本家のオーナーさんが知ったら怒るかも知れない。
唐さんはそんなことも考えて、カタカナ表記にしたのかも知れません。
そういうところ、唐さんは周到なのです。
物語に目を向けると、このカミヤ・バーの酔客である「朝顔」の前に
劇のヒロインとなる「女」が現れ、店主である「バーテン(マスター)」と
問答する、というのが第二章の前半です。
どうやら、この「女」の亭主はバーの従業員で、しかも病弱につき
欠勤続きらしい。「朝顔」にとって気になるのは、この亭主もまた
「夕ちゃん」と呼ばれていることですが、それも、酔いとまどろみの
中に消えてゆく。
一方、「女」は、自分が亭主の代わりに働くと「マスター」に提案します。
そのために、水たまりに備えて長靴を履き、まつ毛パッチリ、
口紅は濃厚、なぜか腰には金魚鉢をぶら下げてメダカまで泳がせています。
が、そんな変ないでたちや、過去にこのバーで見せた「女」の奇行を
あげつらい、「マスター」は「女」の就労を断念させようとします。
そういう合い間に、「女」は常に「朝顔」を気にかけます。
チラチラと「朝顔」に絡もうとする場面がインサートされて、
何かこの二人には因縁がありそうだ、と観客に思わせるよう構成されています。
もっとも、「朝顔」はてんで奥手で、「女」との会話を避け、
正対しようともせず、まるで取り合わない、というのも大きなポイントです。
女性とまるで喋れない、そもそも関心を持てない、そういうキャラクターの
片鱗がすでに見え始めます。
そこへ「河合」とその「連れ」という風変わりな二人が入ってきますが、
続きは、また明日。
↓ご本家は「神」が旧字ですし、漢字です

2026年2月12日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
『ビニールの城』。いよいよ物語のなかに入っていきます。
冒頭を読むと、まず、他の唐十郎作品との違いに気付かされます。
「幕」だけでなく「章」立てになっている。
私の知る限り、他に『煉夢術』や『少女都市からの呼び声』がわずかに
この形式をとっているきりで、稀です。
それが、なんとも文学的かつ、各シーンのリード文となって読むものを
導いてくれます。例えば、こんな一文。
第一章 何故、彼はそれを探す気になったか
第二章 覚めた彼がそこに見たもの
という具合です。
先日は第一章を読みました。
「腹話術人形」専門の質屋というべき中古屋があって、
主人公「朝顔」は8ヶ月前に相棒の人形「夕顔」を預けたと言います。
ここの「管理人」は、捨てだんだろう、と言う。
「朝顔」は、二人の冷却期間、距離をとって、それから迎えにきた、と言う。
この問答は平行線ですし、商売としてドライに人形たちを扱う「管理人」は、
どれでも良いからさっさと選んでくれ、というスタンス。
けれど「朝顔」は、口の中からニョキっと夕顔の花を咲かせるのが得意な
「夕顔」を探し当てるまで、譲りません。
まず、この「夕顔探し」が物語の太い幹になります。
次に、「一人の腹話術師」がやってきます。
彼は、「朝顔」とは対照的に、人形たちをただの商売道具と見なし、
ぞんざいに扱います。「朝顔」をそれに憤りますが、現実的には、
「朝顔」の方が厄介者のそしりを受けます。
やがて、「朝顔」の前に、この中古屋に眠る何十という人形が立ちはだかり、
「朝顔」を叱責します。すると、いつしかそれは電気ブランを飲んで酔っ払った
末の夢魔と知れ、舞台は神谷バーへと移行します。
第一回目の本読みはここまで。
ちなみに、初演の会場である常磐座は舞台の天井高がかなりあったために、
冒頭の「朝顔」と「管理人」は、はるか上空から、建物の底の底とおぼしき
人形置き場に降り立ったそうです。ステキですね。
何やら、『オペラ座の怪人』を想起させます。
次回は第二章から!
↓腹話術師がコントロールしているんだけど、人形が好き勝手に生意気を言う。
これが腹話術の王道パターンです。本人だけど本人じゃない。本人じゃないけど
本人。人形が本音を喋ってくれる痛快さ。『少女仮面』を経て掴んだ感覚です
2026年2月10日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
『ビニールの城』に取り組む時、前段として押さえておくと理解しやすくなる
キーワードがあります。第1回の本読みでは、それらについてもお話ししました。
①浅草、常磐座、神谷バー、電気ブラン
②ビニ本
③J.デリダ『尖筆とエクリチュール』
①はすべて浅草関連です。
『ビニールの城』を初演した劇団第七病棟は、場所にこだわる劇団です。
そして、浅草、そのなかにある常磐座に照準を当てた。
面白いのは、当時の浅草が完全に賑わいを失っていたことです。
唐さんの幼少期、1950年代の浅草はすごかったわけです。
映画館と劇場が建ち並び、100メートル歩くのに30分かかった。
毎日がお祭りだった。
もちろん、現在の浅草もすごい。
スカイツリーの恩恵に一番預かっているのは、私の観る限り墨田区でなく
浅草を擁する台東区です。だって、スカイツリーがよく見える。
外国人観光客で溢れかえる浅草は、とっても隆盛しています。
が、浅草がこの間、ずっと賑わっていたわけではありません。
ビートたけしさんが描いた『浅草キッド』の頃(1960年代の終わり)には、
浅草の勢いは途絶えていました。私が大学に入った1990年代終わりの
浅草にも、「両さん」の世界は無かった記憶があります。
閑散とした浅草で、廃業寸前の、けれど、芸能の殿堂だった常磐座で
世間から取り残された腹話術師の物語を描く、というところに妙味が
あったわけです。「常磐座」がどんなだったか、渥美清さんが
ナレーションを務めるドキュメンタリーを、YouTubeで観ることができます。
「神谷バー」は今も大流行りの、浅草の名物バーです。
「電気ブラン」はそのスペシャリテ。ブランデーをもとに、他のお酒や
薬草が秘伝のレシピで調合されているそうです。飲むと「ビリビリ」
するブランデー・ベースのお酒。だから「電気ブラン」!
②ビニ本
「ビニ本」って、いまも新しく製造されているのでしょうか。
そう。『ビニールの城』のヒロインは、「ビニ本」の被写体モデルとして
働く女性です。
「ビニ本」について最近、知ることができるのは、Netflixのヒットドラマ
『全裸監督』です。村西とおる監督は、英語教材のセールスマンを
辞めた後、まずはエロ書籍の販売で頭角をあらわし、やがてアダルト
ビデオにたどり着きます。その書籍販売時代に扱った品物の一つが、
ビニ本でした。ビニールに包まれ、神秘のヴェールを帯びたエロ本、
すなわち「ビニ本」とは何か、その魅力をも、あのドラマは教えてくれます。
③J.デリダ『尖筆とエクリチュール』
唐さんが読んで、この『ビニールの城』を着想した本です。
「尖筆」とは「とがった、極めて先の細い筆」のこと。
フランスの哲学者、ポスト構図主義の大立者の一人であるジャック・デリダ
が、ニーチェの著作に出てくる女性の描写について分析した本です。
当然、読むと難しい。正直に言えば、私はドゥルーズは理解できている
つもりですが、デリダの掲げる主題には関心が持てず、難しく感じるばかりです。
が、デリダの精読や理解自体は、『ビニールの城』にとって究極的には
どうでも良いと思います。それよりこの本の表紙を見てください。
胸も露わな女の人が剣の切先を突きつけられています。
ここに唐さんは、ビニ本のビニールを破く時の感覚を見出した。
これで充分なのではないでしょうか。
ついでに、デリダが基礎とした学問は「現象学」です。
「現象学」とは文字通り、「現象」について考察するものであり、
「真理」を問題にしません。なぜなら、「真理」は不可知だから。
人間が言葉でものを考え、認知する以上、世界やモノ自体を捕まえる
ことはできません。もちろん、真理を捉えることもできない。
つまり、人間は例えるなら、言葉という「膜」「オブラート」「色眼鏡」を
通してしか、世界を体験できません。でも、「わたしは真理に到達した!」
「絶対の体験をした!」という勘違いは時々、起こります。
宗教的体験、スポーツにおけるゾーン、薬物体験、そして「恋愛」も
この一種です。たいへんに美しく、幸せな「誤解」、「勘違い」です。
でも、体験している本人にとっては、それは「誤解」や「勘違い」でなく、
「真理」なのです。
転じて唐さんは、ある奥手な男が、世界と自分を隔てる薄い膜=
ビニールを突き破って、そのなかにいる女性そのものに近づき、触れ、
一体化できるかどうか、を物語にしたわけです。
まあ、このへんは理屈抜きでしょう。
理屈抜きの直感だから、唐さんはエラいのです。
『尖筆とエクリチュール』を読んで大真面目に「ビニ本の女との恋愛」を
構想する。見事です。ちなみに、表紙の絵の画家はルーカス・クラナッハ。
といったことを押さえたら、いよいよ物語のなかに入っていきます。
続きは、明日。
2026年2月 9日 Posted in
中野WS『ビニールの城』
↑劇団第七病棟を語る際、この本が第一級の資料です
リブロポート『オルゴールの墓 劇団第七病棟1976-1992』
昨晩から始まりました。
オンラインWS、『ビニールの城』の台本読みです。
唐ゼミ☆では未上演、ずっとこのオンラインWSにご参加くださっている
皆様のリクエストを受けて、初めてこの劇に本気で取り組むことにしました。
ですから、自分もまた、この戯曲の理想的な上演を追究するところから
始めます。
昨日の初回は、主に三つのことを行いました。
①初演団体である「劇団第七病棟」とは
②影響を受けたもの、浅草・常磐座・腹話術師・J.デリダ
③実際に第一章を読んでみる
まずは、唐さんがこの戯曲を書くきっかけとなった劇団第七病棟について。
飯島岱さん(制作)、石橋蓮司さん(俳優)、市来邦比古さん(音響)、
増山真吾さん(舞台美術)、緑魔子さん(俳優)、吉本昇さん(照明)
の7人が1976年に結成した劇団です。
この時に結成のマニュフェストとして出された「浮上宣言」に、この7名の
お名前が載っています。「あいうえお」順で序列が無く、表方(俳優)も
裏方(スタッフ)も同列の演劇人として名を連ねているスタイルが、
端的にこの団体のスタンスや志しを語ってくれます。
一般に「石橋蓮司さんが代表」「石橋蓮司さんと緑魔子さんの劇団」
という風に思われがちですが、厳密には違う、ということです。
前史として。
蜷川幸雄さん、石橋蓮司さん、蟹江敬三さんが中心、清水邦夫さんが
座付き作家だった「現代人劇場」、それから「劇団櫻社」に至る流れ。
(唐さんとの出会いは、1973年5月に櫻社が上演した『盲導犬』)
蜷川さんが東宝の仕事を引き受けることによって起きた、櫻社の解散。
蓮司さんたちが新たにつくろうとして頓挫した「風屋敷」。
を経て、上記7人が「劇団第七病棟」を旗揚げするに至った経緯について
私が知っている限りをお話ししました。
『ビニールの城』は同劇団としては第五回公演です。
旗揚げ『ハーメルンの鼠』、第二回と第四回公演の『ふたりの女』は
唐十郎作品。第三回公演の台本として『おとことおんなの午后』を
山崎哲さんが書いています。そんな風にして、全てが唐作品という
わけではないない、という話もしました。
2000年の『雨の塔』を最後に公演がありませんが、解散したわけは
ない!ということも強調しました。ちなみに私は、この『雨の塔」だけは
生の舞台を観ることができました。1999年の大学入学でやっと東京の
演劇を観ることができるようになった私には、それ以前の上演に立ち
会うことは無理でしたが、僥倖としましょう。
あとは、この劇団が持つ特異な創作スタイル。
廃墟のなかに、自分たちの専用空間を見つけてそれを数ヶ月間借り切る。
演劇界一線のスタッフたちが数ヶ月間、他のすべての仕事をキャンセルして
空間づくりから没頭する。多くの人たちを魅了してやまないのは、
こうした圧倒的な一途さに由来するのだという話をしました。
明日は、『ビニールの城』を書くにあたり、唐さんがヒントにした
浅草・常磐座、神谷バー・腹話術師・J.デリダについて書きます。
現在位置は、
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中野WS『ビニールの城』
です。