4/25(月)『下谷万年町物語』本読みWS最終回レポート(中野)

2022年4月25日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
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2010年秋、唐ゼミ☆『下谷万年町物語』のカーテンコール(撮影:伏見行介)

昨日は『下谷万年町物語』WSの最終回でした。
2月以来、三ヶ月間をかけて行ってきた第12回目の本読みです。

前回、サフラン座のデビューである軽喜座との合同講演
『娼婦の森 改訂版』初日を待たずに、洋一とお瓢の心は離れてしまった。
これですべては終わりという決定的な離反だったにも関わらず、
文ちゃんのとりなしが、お瓢に最後の希望を与えます。

文ちゃんは、まるで両親のケンカに心を痛める子どものように、
洋一が別れて向かった瓢箪池で、いかにお瓢を思う行動を取ったかを話す。
そして、サフラン座の初回公演が上手く予想や、さらに、
第二回目公演の構想までも、語って聴かせます。

お瓢はこれに勇気づけられ、感心します。
これまで、主演女優のお瓢、演出家の洋一を前に、
二人の応援団にとどまっていた文ちゃんは、ここにきて、
劇作家の才能の片鱗を見せ始めます。主演・演出・作。
こうしてサフラン座の3人の役割が決定。

この部分の会話は飛躍が多くて少しわかりにくいのですが、
『下谷万年町物語』全体の肝となる部分です。
作者である唐さんは、明らかに文ちゃんというキャラクターに自分を
投影しています。文ちゃんにかけるお瓢の言葉を通して、
劇作家というものの大変さや、その大変さに立ち向かう矜持を示します。
重要な場面ですので、かなりの時間を費やし、はっきりと意味が
汲み取れるまで繰り返し読みました。

なけなしの希望を得たお瓢が、二人羽織をして、文ちゃんの元六本指の
手を利用し、再び洋一を演じようとするところは、面白さと無理すじの
哀しさが入り混じる。と、そこへ、オカマ軍団が帰ってきます。
お瓢と文ちゃんの二人羽織、お市の対決がいよいよ昂まったところに、
座長が飛び込んできて、洋一が瓢箪池で殺されたことを告げます。

そして、すべてが終わる。

現場の事情としては、ここから池へのセットチェンジこそ
この演目に取り組む座組みにとっての試練ともいうべき場面転換です。

あとは洋一の死を前にしたお瓢の錯乱、警官によるお瓢の連行が
矢継ぎ早に進み、取り残された文ちゃんのモノローグによって、
この物語は閉じられます。唐さんですから、最後には希望がある。

それがどれほどの希望かというのは、これはもう、上演でやるしかない。

30代前半の疾風怒濤期を経た唐さんが、後半の試行錯誤を経て
40歳に突入した時に書いたこの作は、新たな境地を切り開くための
一里塚でした。ここから『秘密の花園』『ジャガーの眼』
『ビニールの城』へと唐さんは進んでいきます。

2009年と2010年、唐ゼミ☆は二ヵ年にわたってこの演目に取り組みました。
当然ですが、現在ならばさらに上手くはずだし、試すべきアイディアもある。
けれど、これは相当に上演が大変な劇でもあります。

今は、実際に6月にある新宿梁山泊の上演をたのしみにしましょう。
http://s-ryozanpaku.com/

次週以降、取り上げる演目は『蛇姫様 わが心の奈蛇』です。
実はこの演目は、『下谷万年町物語』より長い。
よって次の三か月コースです。終わる頃には7月末。夏です。

4/18(月)『下谷万年町物語』本読みWS第11回レポート(中野)

2022年4月19日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』

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↑お瓢のかき口説きはことごとく裏目に。別れ話のリアル。

唐ゼミ☆2010年秋公演『下谷万年町物語』(撮影:伏見行介)


2月以来つづけてきた『下谷万年町物語』WSの第11回です。


最後から2回目に当たるこの回は、

お市率いるオカマ軍団との対決をしのいだお瓢と洋一の間に、

哀しい亀裂が入るところを読みました。


まずは佳境に入ったお瓢との対決のさなか、

お市の脳裏には映画『大列車作戦』が去来します。

フランスの民衆を苦しめたナチスの将校と、

警視総監の帽子を戴くお瓢が重なり合うからです。


このあたり、一見すると悪役めいたお市たちオカマ軍団の

苦しみや侘しさ、将来に募る不安がかいま見えて、

この物語が正義と悪の二項対立でなく、結局は食い詰めた

者同士の哀しい小競り合いという構造が見えてきます。


また、オカマたちが今日のLGBT的存在とは違い、

仕事にあぶれてやむをえず春をひさぐ元軍人たちであることも、

彼らの様子からよくわかってくる。


洋一への拷問が始まり、六本指だった彼の手は血に染まります。

が、オカマたちを前に機転を効かせたお瓢は、敵方の弱点である

お不動様の少年から移動証明を奪い取り、洋一を伴って脱走、

サフラン座は危機を脱したかに見えます。


しかし、この時のお瓢の行き過ぎた挑発と注射器への固執は、

かえってお瓢から洋一の心を離れさせます。

オカマ軍団と親しく暮らした過去や、血気に流行るお瓢の反感、

元恋人であるSKDの田口洋一への嫉妬が、現在の洋一を苛む。

心を痛める文ちゃんの前で二人はすれ違い、洋一はその場を後に。


立ち上げ公演となるはずだった軽喜座との合同公演

『娼婦の森 改訂版』初日にたどり着くことなく、

サフラン座は分裂の危機を迎えます。


さらに悪いことに、

そこへやってきた白井にお瓢がすげなくしたことで、

白井の中に洋一への逆恨みが芽生えます。

お瓢、洋一、白井。文ちゃんの前でお互いに大切に思っている

者同士が決定的にすれ違う不幸が連続する今回のWSでした。


洋一への拷問や、主人公たちの信頼が瓦解する内容ですから、

どの参加者も真剣に本読みに没頭しましたが、

それだけに終わった後はどんよりとした空気が流れました。


ところどころギャグやコミカルなせりふもあって、

それらも存分に活かしましたが、やはり重くあるべき場面です。

これが報われるのは来週。


準備は整いました。次週、大団円です。

4/11(月)『下谷万年町物語』本読みWS第10回レポート(中野)

2022年4月11日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
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↑偉い人、恐ろしい人が現れると皆がどう振る舞うのか。
台本を汲み取ったら、自分の経験を総動員して舞台を思い描きます。
(唐ゼミ☆2010年秋公演『下谷万年町物語』 撮影:伏見行介)

ついにお市が登場したところからWSをスタート。
三幕も半ばを過ぎたところで、万年町オカマ軍団の大ボスが現れる。
まずせりふが劇場内に響き、長屋のセットの2階から御輿に乗って
ステージに降り立つ。完全に歌舞伎の世界です。

ここからは、実にヤクザ者の脅しやなだめすかしの世界で、
表向き自制を効かせているお市の中に煮えだぎる怒りを軸に、
オカマ軍団もまた恐々としながら、軽喜座を追い込んでいきます。

以前のNo.2でありながら、お市にいびり倒されるお春。
お春にとって変わったばかりの蘭子は、常にお市の顔色を伺いながら
忖度を働かせ、周囲に辛くあたります。
小野村というオカマは、ちょっと楽屋落ち的な存在で楽しませてくれる。

初演でお市を演じて満座を湧かせた塩島昭彦にまつわるエピソードや
美術家の朝倉摂さんと桑沢デザイン研究所の関わりに至るまで、
丁寧に説明しながら、囚われの洋一が現れ、そこにお瓢が文ちゃんを
連れて乗り込んでくるところまでをやりました。

権力者が君臨するときの集団はどう動くのか、
これは作品読解というより、それに取り組む人の人間感や世界観を
問われるところですが、まずは自分のアイディアを例として示し、
あとは皆さんに考えてもらえたらと思います。

お瓢がわざわざ破れ鏡から登場する意味や、
手前で展開した金杉病院のシーンとの時間軸的な整理も行い、
お市に挑むお瓢が軌道にのったとこで第10回はおしまい。

あと2回で『下谷万年町物語』を終える前段を整えました。
4月いっぱいでこれを終えたら、5月から『蛇姫様 わが心の奈蛇』に
入ります。目下研究中の『黒いチューリップ』もいずれやってみたい。

『下谷万年町物語』を理解すれば、『黒いチューリップ』も必ず
面白くなるはずです。やるとすれば秋以降。
また考えて発表します!

4/4(月)『下谷万年町物語』本読みWS第9回レポート(中野)

2022年4月 4日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
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2009年秋『下谷万年町物語』上演時の三幕冒頭 金杉病院の場面

幕間から三幕本編へ。これが第9回の主眼でした。

唐さんの三幕ものは二幕が盛り上がる。
一転、最終幕の序盤はアイドリング気味になるのが常です。
一旦クールダウンし、その後の顛末を語り、
ここから最後の盛り上がりに向けて徐々に加速していく。
今回はその入り口に立ちました。

幕間の終わりは、
キティが文ちゃんの励ましを受けて復活する姿を描きます。
洋一がお市たちに囚われたことを受けてサフラン座の危機を察し、
再び浅草に向かいます。ここで、わざわざ破れ鏡を抜けるのがポイント。

まるでどこでもドアのような不思議で、
ともすればちょっとバカバカしい仕掛けではあるのですが、
だからこそ、唐さんがこの作品に込めた構造と思いが端的に現れます。
孤独な人は鏡越しの自分と対話する世界に沈んでいます。
そして、大切な"誰か"はいつもその鏡を突き破って登場するのです。
だから、破れ鏡を抜ける。

さらに、この場のラストには、
乞食のパン助と医者の哀しい遊戯が描かれて、
文ちゃんのせりふが際立ちます。慈しみにあふれた一瞬がふいに訪れる。
唐作品の面白さが詰まっています。

一転、大騒ぎとなる本舞台。
総監の帽子を取り戻すべく、オカマ軍団が軽喜座に殴り込みを
かけている光景。万年町のセットについて、劇本編と劇中劇とで
違いを明示する、舞台装置家の腕の見せどころです。

いよいよ大ボス・お市が登場する寸前のオカマ軍団の描写も面白く。
かつてNo.2であったお春がすっかり凋落し、かわりに上り詰めた蘭子が
権勢をふるいます。そして登場するお市。

いつまで経っても帽子を取り返せないお春への
蘭子やお市の処し方は、組織や権力の本質をあぶり出して楽しい。
そういう話も熱を入れてしました。

唐さんが細部にほどこしたおもしろさを存分に味わって欲しい。
乞食のパン助や軍医、蘭子というキャラクターにこも、
唐十郎が世界に向ける洞察や眼差しが込められています。

3/28(月)『下谷万年町物語』本読みWS第8回レポート(中野)

2022年3月28日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
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2010年秋公演『下谷万年町物語』二幕より金杉病院でのキティ瓢田
(写真:伏見行介)

いよいよ物語の佳境となる第8回。
二幕終盤、ピロポン中毒の脇役だった国際劇場時代の
キティの姿が明らかになりました。

火事場に飛び込んでしまうほどの錯乱に
過度の中毒症状を見てとったかつての恋人・洋一がキティを
金杉病院に入院させるくだりには、実際に起こったことと、
洋一がキティをなだめるためについた「これも俳優修行」という
嘘と願いが入り混じります。

皆さんには、ひとつの言葉が複数の意味と感情をはらむ難しいシーンに
挑戦してもらいました。

キティは『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルに扮して
牢獄に囚われたシーンに挑んでいたのだと嬉しげに語りますが、
彼女が前向きであればあるほど、薬物中毒の辛さが際立ちます。
偽りの俳優修行を見守りながら国際劇場の洋一が涙する場面も良い。

文ちゃんに白井から受け取った思い出の注射器は
このように様々な波紋を呼びますが、同時に、六本指の現在の洋一を
演じるための小道具、キティの六本目の指ともなるところが
唐さんの卓抜なところです。

俳優に必要な資質はマゾヒズムだと、唐さんから教わったことがあります。
辛酸を嬉々として味わうところに役者の才能と妙味がある。
今回の場面はそれを地でいっています。

そして、軽喜座との合同はキティの過去が露見して破断になる。
軽喜座員たちが鏡を持ってキティに迫る場面は、
明らかにミュージカル『ラ・マンチャの男』の「鏡の騎士」のシーンの
影響を受けています。当時の蜷川さんと縁の深かった松本白鸚さん
(当時は市川染五郎さん)のライフワークです。

このシーンがヒントになって、二幕終幕、
元六本指の文ちゃんと、キティ+注射器=劇中劇の中の六本指の洋一
という鏡合わせが成立します。

『下谷万年町物語』全編を通じて、もっとも読み解くのが難しく
しかし、その難解さを乗り越えれば他にはない感動を味わえる場面です。

今回は欲張って三幕にも侵入し、
キティが金杉病院を訪ねる場面も読み合わせしました。

この企画が持つ""女優は一人""キティのみ紅一点"という原則の例外として
つくられた「乞食のパンスケ」という役柄がいかに大切か。
物言わぬ彼女に多くを語らせることはこの芝居の成功の秘訣であり、
ここにも、キティを映す鏡が表現されています。

次週は三幕本編に突入。大ボス「お市」の登場が迫っています。

3/21(月)『下谷万年町物語』本読みWS第7回レポート(中野)

2022年3月21日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』

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↑劇中劇『娼夫の森』開演まで32秒。文ちゃんは瓢箪池まで走り、

帽子を奪われないための儀式を実践する。(写真:伏見行介


いよいよ面白くなってきました。

唐十郎作品には多くの三幕ものがあります。

それらは主に、唐さんが自らの作劇方を確立した1970から90年に

かけて書かれました。共通するのは、いずれも二幕終盤が面白いことです。


一幕は状況説明や人物紹介に大部が割かれる。

三幕は物語に終止符を打つため、伏線の回収にエネルギーが使われます。

その点、真ん中の2幕は奔放です。

物語を拡げるだけ拡げて、終盤の大きな破局になだれ込む。

その勢い、畳み掛け、カタストロフに向けた破竹のスピード。

序破急という言葉がありますが、「破」は観る人を強引に巻き込みます。


今日やったパートは、

サフラン座による軽喜座への合同の申し入れが成功するところから。

洋一が持っていた警視総監の帽子、軽喜座の座長がたまたま国際劇場に

出ていたキティ瓢田を印象深く記憶していたことから、

両者の協力関係がとんとん拍子に成立。

さっそく、劇中劇『娼夫の森』の上演へと物語が進みます。


開演ブザーが鳴る直前、

劇中劇の段取り上、大切な帽子が一旦は軽喜座のメンバーの手に渡るのを

猜疑心の塊となってキティが心配するくだりは、唐さん自身の用心深さが

劇に現れた好例です。


瓢箪池の水につけて帽子が盗まれないようおまじないをかけるべく、

文ちゃんは駆け出します。すると、開演ベルが鳴る。


劇中劇は猪股公章作曲『蛍の列車』で幕を開けます。

これは、CD「状況劇場劇中歌集』に収められていますのでぜひ聴いてください。

蜷川さんの『近松心中物語』に曲を書いていた猪股さんと唐さんの出会いは、

後の状況劇場に更なる名劇中歌を生み出します。


調子良くキティ主演の『娼婦の森』がスタート。

が、この芝居は闖入者によって中断されてしまいます。

本物のお春が乗り込んできたのです。


腕っぷしの強いお春の登場にキティはたじろぎますが、

こと洋一のこととなるとかよわき乙女に変貌するお春をキティは

ここぞとばかりになじります。この二人のやりとりがすごく喜劇的。

相手の弱点を攻め抜くキティのせりふ、それを受けるお春のリアクション、

存分に楽しませてくれます。


と、そこへ帽子を持った文ちゃんが帰ってくる。

聞けば、文ちゃんは白井に会ったといいます。

そして、なぜにキティを「姉さん」と呼んで追いかけていたのか、

ことの真相が語られます。曰く、白井は国際劇場にいた洋一、

キティの同志であり恋人だった"もう一人の洋一"の弟で、

空襲で脚を失くし、一年前に亡くなった兄の代わりに、

ずっとキティを探していたのです。


探し続けてきた恋人・洋一が最近に死んだことを知り、錯乱するキティ。

さらに文ちゃんは、白井に託された二人の思い出の品をさし出します。

それは、キティと洋一が愛用していた注射器。

自らもヒロポン中毒であるお春は、すかさずキティの腕の注射跡を暴き・・・


と、ここまでで昨日はおしまい。

キティの凄惨な過去が明らかになる二幕クライマックスはまた来週!

3/14(月)ワークショップレポート

2022年3月14日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
こんにちは。今日は非常に暖かい日でしたね。
本日はワークショップレポートです。

今週は引き続き『下谷万年町物語』です。
ヒロインお瓢と、万年町に住む洋一と文ちゃんは謎の男白井から逃げるため、
畳に姿を消します。
そして畳の陥没した穴から、サフランの花が咲きます。
これがサフラン座の狼煙が上がる瞬間!

そして二幕二場へ。
舞台は浅草軽喜座の舞台稽古の万年町。
洋一は、サフラン座と軽喜座の合同を申し込みます。
急に違う座組にいると言われ驚く軽喜座の座長。
誰と組んでいると言われ、キティ瓢田を見た瞬間...
まさかの座長は彼女が国際劇場に出ていた事を知っていました!
そしてキティ瓢田の過去が語られます。
過去にブロマイド屋が火事になった時、数々のスターのブロマイドが焼ける中
鏡に映った自分だけが燃えずに対話をしたことがあると。
しかし、お瓢のかぶっていた帽子は本物の警察の帽子で、
座長は怖がります。
しかし洋一はお上が恐ければ違う権力をと亀を差し出します。
その後どうなってしまうのでしょうか。また来週もよろしくお願いします!

3/6(日)『下谷万年町物語』本読みWS 第5回(中野)

2022年3月 6日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』

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↑劇団唐ゼミ☆『下谷万年町物語』(2010.11)より 撮影:伏見行介


『下谷万年町物語』第5回目のワークショップは2幕1場の後半を稽古。

ここは実にステキな場面で、主人公たち3人がお互いに励まし合い、

サフラン座として世の中に出ていこうとする場面です。


その先頭を走るのはお瓢。2幕序盤では落ち込んでいた彼女でしたが、

洋一・文ちゃんの励ましやオカマたちとの渡り合いの中ですっかり元気を

取り戻し、持ち前の押し出しの強さを発揮します。

そこに、洋一が隠し持っていたこの劇のキーアイテム

「警視総監の帽子」が加わり、さらに勢いづく。


洋一はこの帽子を武器に軽喜座と渡り合い、

この劇団が稽古中の『娼婦の森』を改定させることを思いつきます。

最近に起こった警視総監暴行事件をスキャンダラスに描くこの舞台に

本モノの帽子が加われば客が押し寄せるのは必定。


お瓢を主演女優、洋一を演出家(文ちゃんはまだ役割が決まらず)、

にした3人だけの新進劇団サフラン座がこうして軽喜座と渡り合おう、と。

しかし、言い出しっぺの洋一は生来の弱気を発揮してひよってしまう。


それをお瓢がいかに励まし、洋一が勇気を振り絞るのかというのが

今回のメインテーマでした。そして子どもながら文ちゃんも、

そこに自立した劇団員として並び立とうとしていきます。


白井の横やりをきっかけに押し寄せるオカマ軍団を間一髪でかわし、

高らかに劇団旗を掲げて万年町から飛び出してゆくサフラン座。

2幕2場。軽喜座への合同申し入れへと劇は進みます。


今回は、情けなさを吐露する洋一をお瓢が励ますプロセスを

しっかりと描き切るために、参加の皆さんに細かい要求を

しつこく出して応えてもらいました。完全に稽古です。

2/28(月)ワークショップレポート(佐々木)

2022年2月28日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
 皆さんこんにちは。
今週のWSは2幕から。
万年町のオカマ達はヒロポンを打ち込んでぼんやりしている中、文ちゃんと洋一はヒロインのキティ瓢田を連れて長屋に帰ってきました。

なんか、すっぱい匂いがします
夜中に吐いたものかしら
それとも
錆びた体の匂いか
抱いてくれてもごまかせぬ
やさしくされても、笑ってやれぬ
枕にしみた
おまけの匂い

自らを終わった女と歌います。
3人で話をしていると、どうやらお瓢は国際劇場の女優さんで、閉鎖されてから、演出部の田口さんと共に『サフラン座』という劇団を作ろうとしていたらしい。しかし戦争に巻き込まれそれは叶わなかったと。
長屋を使ってお家芸を披露するお瓢。
そこへ白井という男がやって来ます。
彼はお瓢の事をお姉さんと呼びますが、彼は一体何者なのかわからないまま。
興奮して物干し竿を投げると、オカマのお市の障子を突き破ってしまいます。
喧嘩になるかと思いきや、お瓢は長屋でお家芸!

山の手は狸穴
下谷は万年町
一度おいで万年町
穴から谷を転がって
オカマの町は花ざかり
春らんまんの尻の穴

今週はすごく歌が多い回でしたね。
また来週も楽しみです!
よろしくお願い致します!

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(ちなみによく出てくるサフランの花とはこれ!)

2/23(水)ワークショップレポート(佐々木)

2022年2月24日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
皆様こんにちは。本日はワークショップレポートです。
本日は『下谷万年町物語』三回目!
今回は蜷川さんのストーリーを交えつつのワークショップでした!

今回のスタートは主人公の一人、青年・洋一が所属する軽喜座が登場。
軽喜座は下谷万年町で起こった警視総監暴行事件のパロディの稽古中です。
(まるでドリフターズの様!)

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(唐ゼミ上演時の軽喜座)


一方洋一は少年・文ちゃんと池にサフランの花びらを浮かべます。

『この池の底でブザーが鳴る時、なかった筈の劇場の幕開けで、
そこから、一人の、ならなかった筈の踊子がとびでてく。
その時、水面に浮く花の中で、一番、きれいな一輪を、
あら、きれいと、ひったくって髪にそえる』
本当かなあと疑う文ちゃん。
じっと二人は水面を覗いているとそこへ軽喜座乱入。
またまた稽古をしています。
座長のお春らしいやつがなんだか蜷川さんの様。
池に小道具を浮かべている事に怒りますが、
2人が万年町にいた事を知ると、万年町の事を聞き始めます。
万年町の話をしていると、本物のお春が登場!
お春と二人が喧嘩をしていると
いつしかサフランの花がひとつ池の下に沈みます。
池に手を入れる洋一。
池の中から女が現れます!
そして彼女は言います。
『所属は・・・・・・以下の底のサフラン座。姓は、キティ台風のキティ。名は・・・・・・瓢箪池の・・・・・・お・・・・・・お瓢です!』
続きは来週。またよろしくお願いします!

2/14(月)『下谷万年町物語』WS 第2回レポート(中野)

2022年2月14日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
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↑わずか8歳の少年にも容赦なしの白井。自己嫌悪ゆえの八つ当たりか?
2010年 劇団唐ゼミ☆秋公演より 撮影:伏見行介

昨夜のワークショップのレポートです。

第1回目は、初演時の執筆経緯、唐さんと蜷川さんの来し方、
唐さんに影響を与えたエピソードについて時間を割きました。
皆さんの本読みは駆け足にならざるを得ず。

そこで、昨日の第2回では、もっと稽古らしくしようと注力しました。
登場人物同士の駆け引きに注目しながら、細かく止めて、
内容を詳しく伝え、皆さんがアドバイスをどう受け止め、
表現するかを愉しみました。

主人公の一人である青年・洋一が登場するところからスタート。

彼は今、とにかく上手くいっていない。
元来が演出家志望の彼は、浅草で力を持つ劇団軽喜座の
小道具係に甘んじています。不器用で、チリ紙を使ったサフラン製作の
手もおぼつかない。それに、洋一はいま万年町から逃亡している。

警視総監暴行事件の後、
お春とともに帽子を持って下谷警察に詫びを入れにいったはずが、
自分だけ帽子を持って取り残され、トカゲの尻尾切りにされかけた。
(後に誤解だったと知れる)
だから、反射的に彼は逃げ、帽子は今も手の内にある。

ヘボ小道具係としてうなだれ、瓢箪池に映る自分と対話していると
少年・文ちゃんに声をかけられた。彼らは、最初はぎこちないものの、
経緯を説明し合うと従来の友情を取り戻す。
元6本指があったもの同士の絆。

と、そこへ、チンピラ・白井が二人の部下を引き連れて現れる。
万年町オカマ軍団の頭目・お市にヒロポン(当時は合法)を流す
売人こそ、この白井。彼は、後に登場するヒロイン・キティ瓢田の
亡くなった恋人(彼の名前も""洋一)の弟でもある。

お市の味方として、洋一・文ちゃんを遠回しに脅かす白井の手口は
さすが恫喝の本職。初演時にこの役を演じたコメディアン・内藤陳さんの
読書家ぶり・博識がこの役に生きている。

それでいて、彼は本来的にはナイーブな男。
水面に映った自分と「こんな大人になるはずではなかった」と語らいつつ
またチンピラ得意の脅しを繰り広げ、注射器をかざして文ちゃんにも
容赦ない。情けない洋一は、言葉で反抗するのがやっと。

と、ここへ、水の中をアユのように通り過ぎる人影。
(膝までの深さしかないこの池にして、明らかにおかしな現象だが)
先ほど、洋一と文ちゃんの会話中に何かがドボンと飛び込んだ音も
これだったようだ。
"姉さん!"そう呼びかけながら去る白井とともに、今回は終了。

次回は、洋一の所属する軽喜座の面々が登場するところから再開します!

今回やった洋一の登場シーンには、唐さんの劇団青年芸術劇場時代の
不遇が大きく影響しているように思われます。

ロンドンにいる私に、思うぞんぶん日本語をしゃべらせてくれる
参加者の皆さん。中にはご自身の経験から、外国での暮らし向き
についてアドバイスをくれる方もいます。感謝!

2/7(月)『下谷万年物語』WS 第1回レポート(中野)

2022年2月 7日 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』 Posted in 中野WS『下谷万年町物語』
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↑唐ゼミ☆2010年秋公演『下谷万年町物語』冒頭。伏見行介さん撮影。

昨日から『下谷万年町物語』のワークショップを始めました。
手もとの台本では242ページあるこの物語を、4月末の日曜日まで
全12回かけて読みときます。

初回は、まず作品が書かれた経緯の説明から入りました。
1981年の初演は紅テントでなくPARCO劇場、蜷川幸雄さんの演出により
この台本は上演されました。

そこで、1969-1984年までの唐さんと蜷川さんの経歴、
二人の関わり合いを追いかけるところからスタート。

すでに状況劇場で紅テント興行に着手していた唐さんと、
劇団青俳を飛び出して現代人劇場をつくり演出家デビューした蜷川さん、
二人の共同作業は、1973年『盲導犬』により始まり、
1975年『唐版 滝の白糸』を経て、1981年に至ります。

『唐版 滝の白糸』に登場する「六本指」のモチーフ、
デビュー以来、蜷川さんの得意とする多くの人物を登場させる演出、
『近松心中物語(79)』で活用した舞台前面の大きな池が、
『下谷万年町物語』に活きています。
『近松〜』では舞台のそこかしこに彼岸花が咲いていましたが、
『下谷〜』だと、それがサフランに変わる。

また、1970年初頭から続く唐さんの傑作期が一つの頂点を極めた後、
70年代中盤から試行錯誤に入り、かつ大久保鷹さんや根津甚八さん、
小林薫さんといった主軸が退団する中で、唐さんは80年代初頭に
自分の出自を振り返る作品群を残しました。
『お化け煙突物語』『黄金バット 幻想教師あらわる』『秘密の花園』......
自身の生まれ育った上野〜浅草を舞台にした『下谷万年町物語』は、
一連の端緒となった作品だということも説明しました。

そして、本編へ。

物語は、現在は台東区をあとにした男が、万年町跡地とおぼしき場所を
訪ね、町を回想するシーンから始まります。
そこに、自らの少年時代の分身が現れ、昭和23年に還ろうと言い出す。
タイムスリップの方法が振るっていて、注射器で空気を抜けば、
流れてきた時間もまた空気とともに抜き出され、往時に戻るという。

少年の名は文(ふみ)ちゃん。
果たして、文ちゃんによる注射、空気の吸引によって、
舞台は昭和23年の浅草瓢箪池のほとりに変わり、男は少年に転じます。

つと見ると、池から飛び出た尻3つ。
その穴からはサフランの花が開き、それらは食いつめた3人のオカマ
の哀れな姿と知れます。戦後、万年町に跋扈していたオカマ軍団の
No.2である「お春」は、少年に念を押すかたちで、物語の発端を語ります。

①男娼はびこる戦後の上野の森を警視総監一行が視察に訪れた
②オカマの頭目・お市とお春は彼らに暴行し、総監の帽子を奪った
③帽子を奪われ、権威を失った警察は、オカマたちへの食料配給を止めた
④帽子を返却したくとも、お春のイロの青年・洋一が帽子も持って行方知れず
⑤洋一は、浅草にある劇団「軽喜座」の小道具係で、演出家志望。
⑥文ちゃんと洋一は友人であり、ともに生来の「六本指」を切除した経験を持つ

と、このようにやり取りがなされたところで、
少年・文ちゃんが気がつくと、そこにオカマたちの姿は消え、
浅草瓢箪池に咲くサフランの花が風に揺れるのみ。

以上、主要登場人物や物語の前段が話されたところで、今回を終了。
次回は、洋一が登場して文ちゃんと会話するところから始めます。
2/13(日)18:00-20:00。では、また!