7/15(月)『少女仮面』本読みWS 第5回(最終回)
2024年7月15日 Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ
↑現場は作業の追い込みです
昨晩は『少女仮面』本読みの最終回でした。
来週・再来週と公演にかかりきりになるので、
この作品を最後まで読み解き、ここで一区切りとするWSでした。
展開としてはこうです。
春日野八千代は自らもまた人間であることを貝に打ち明け、
老いの悩みを語ります。その上で貝は、春日野についていく
意思表示をします。しかし、勇気を振り絞って春日野がした告白を
貝は演技のレッスンとして捉えており、真に受けません。
このように、貝が春日野を絶対的スターと見る疑いの無さはこの後も
徹底して劇の終わりまで貫かれ、これが春日野を追い込んでいく
という構図になっていきます。
老婆の再登場とせりふにより、主任がした殺人があらわになります。
彼は地上の工事車両を火の海にしただけでなく、水道飲みの
サラリーマンを殺してしまいました。ここには、進退極まり、
追い詰められた男の姿があります。それほどまでに、
彼はこの小さな喫茶〈肉体〉春日野とに賭けてきたことが伺えます。
取り返しがつかないところまで二人の人生はきてしまっているのです。
ところが、春日野は自棄になります。
ここまで来れば、この女はスター・春日野八千代でなく
春日野の名を騙るただのニセモノ、売れなかった女優志望のなれの果て
という姿が立ち現れます。主任は、彼女の夫であり、自称・演出家を
名乗る冴えない男、という構図です。
女はこれ以上耐えきれず、この活動を降りると言い出す。
ここから繰り出される、看護婦、甘粕大尉、ファンの女の子たちの
登場と春日野に対する励ましは、ですから、なんとか女を女優の世界に
繋ぎ止めようとした主任の足掻きであるということです。
身近な人々を次々に化けさせて、女に女優を、
春日野八千代をつづけさせようと躍起になる主任。
しかし、甘粕に扮したボーイ②の愚かさと、ボーイ①の造反に
よって主任は退場させられ、残された防空頭巾の女たちの応援も、
あまりにショボ過ぎてか女をその気にさせるに至りません。
まして、貝の純真な期待は、かえって女を追い込むばかり。
女がどれだけ真実を打ち明けようとしても絶対にそれを受け合わない
貝は、悪意を持つ者以上に残酷です。そして、これほどの残酷に
晒されながら終幕において女が何を選択するのかというところに、
この『少女仮面』の肝はあります。
無惨な終わり方です。
唐さんはこの終幕を、ほんとうにはどうしようと思ったのか。
こんな風に無慈悲で残酷なエンディングで良いのか、
その後の唐さんの考え方もヒントにしながら、
唐ゼミ☆版をつくっています。
ここから先は実上演で。あとは公演本番で結論を出します!
7/8(月)『少女仮面』本読みWS 第4回
2024年7月 8日 Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ
↑水道飲みの男の出番の最後、昨日はぐっと進めてここまでいきました
読んだ箇所は2場終盤から3場半ば。
2場は「開眼」というタイトルですが、
その意味があらわになるシーンがやってきます。
当初、人形を操っていると思われていた腹話術師が人形に出し抜かれ、
別れたマリムラの子どもの父親が当の人形だったと知れます。
要は操っていた側が操られ、操られていた側が実は相手を操っていた
という関係が露見する残酷ショーが展開します。
そしてこれが、3場の構造につながる。
スターがファンに君臨しているように見えながら、
ファンがスターを食い物にすることで芸能は成り立っている。
宝塚に限らず、芸能というものはそういうものだと炙り出すのに、
2場が一役買うわけです。
こうして、1・2・3番は、初演者である鈴木忠志さんが
影響を受けた「能」の物語構造である「序破急」にもつながる。
そして3場に入ります。
ここでは、1場の終わりに見初めた少女・貝に、
春日野八千代が熱心に稽古をつけるシーンが展開します。
春日野は貝の出自にちなむ俗っぽさ、老婆との関係を清算して
芸能一途に染まるよう諭すわけですが、これが上手くいかない。
このくだりは、なかなかコミカルでもあります。
一方、稽古のさなかに、この喫茶「肉体」の周囲の状況が
浮かんできます。地上ではどんどん都市開発が進み、防空壕跡に
つくられたこの喫茶店はいま、風前の灯になっているという事実です。
春日野とボーイ主任の思い詰めた様子。
さらに場面が進むと、春日野は貝に自らを打ち明け始めます。
非の打ちどころのないかに見えた春日野もまた、
自身が人間であることを語り始めます。
老いを告白し、舞台に捧げた人生がファンに振り回された
空虚なものであったと貝に話し始める。
この時キーワードとなるのが、1場冒頭から繰り返されてきた
「愛の幽霊」「肉体の乞食」というフレーズです。
要するに、「愛の幽霊」というのは『嵐が丘』のモチーフである
ロマンチックな存在です。死して尚、好きな相手の魂を求める愛の幽霊。
が、人間が生きる、あるいは、人間の欲というものは
そんなキレイ事でありません。やはり、肉体を求める。
失われた自分の体、若さを求める心も「肉体の乞食」。
相手のフィジカルな肉体を愛でたいという欲望も「肉体の乞食」。
すなわち自分は「肉体の乞食」なのだと、
自分もまた3場冒頭で否定した「俗っぽい」存在だと春日野は告白します。
そして、こうした告白を経てなお、幻滅せずに相手役でいてくれる
貝のような存在を求めていたと。いわばスター春日野の人間宣言。
さらに、昨日やった箇所では、
都市開発の重機に放火したボーイ主任に連れられ、水道飲みの男が
再登場します。水道飲みの男は戦後の焼け跡を語って戦後の虚飾を
暴き、また勢いづいて春日野や主任がこの喫茶店内部で繰り広げる
虚飾をも暴いていきます。
スター・春日野に見えた男は、単なる初老の女に過ぎず、
ボーイ主任と春日野は個人的な関係であると喝破していく。
これらがきっかけとなり、春日野の告白が2段階目に入るという
流れです。続きは来週、いよいよ最終回です。
7/1(月)『少女仮面』本読みWS 第3回
2024年7月 1日 Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ
↑主任は明らかにゲーテを読んだことがない設定です。
が、唐さんはゲーテを読んでいる。ファウストを読んでいなければ
書けないせりふがありますし、今では唐組の主演女優となった
美仁音さんの名前はこの本に由来します
私が稽古に取り組んでいるのでどうしても細かくなりがちですが、
全5回で完結させたいのでグッとペースを上げました。
ボーイ主任による少女・貝への高圧的態度。
水道の水を求めて止まない不思議なサラリーマンと主任の攻防。
ボーイ2の挙動に見る主任からの絶え間ない抑圧。
を次々と読み解きながら、一方で、主任の弱さもまた露呈し始めるのが
昨晩に取り組んだ1場半ばすぎの面白いところでした。
例えば、主任が明らかにゲーテを未読である箇所。
少女・貝が話題にゲーテを持ち出したことで主任は狼狽しますが、
演劇用語を並べ立てて再び主導権を握ります。
これらは実は、丹念に読むとつじつまの合わない内容なのですが、
とにかく難しげなことを言って貝を威嚇するところに、
主任の小ささがよく出て、観る者、読む者を愉しませます。
また、ずっとこの小さな喫茶店空間に閉じこもったままで、
世間の急激な変化に不安を覚えたからこそ、貝に激しい言葉で
当たり散らすところなど、小心さがさらに露呈していきます。
帝王のように振る舞う主任に?マークがついたところで、
いよいよ春日野が登場。周囲が緊張するなかで『嵐が丘』のせりふを
そらんじ、衣裳のまま入浴しようとします。
とここで、春日野が貝を見初め、1場は終了。2場へ。
2場では、1場のはじめに登場して喫茶店に人形を持ち込んで
息がり、主任にボコボコにされた腹話術師の舞台が始まります。
それがまたヘンテコな芸で、腹話術師の別れた女房を、
実は人形が寝取っていた、というネタなのですが
昨晩はその半ばまで進みました。
どのようにして腹話術師と元女房のマリムラがすれ違っていったか。
妊娠が発覚し、その子の父親が誰かも分からず堕胎し、
決して相手の名を明かさないマリムラがおかしくなってゆく
ところまで。
来週はこの続き、マリムラの妊娠の相手が露見し、
腹話術師が人形に取って代わられるシーンからスタートします。
この逆転現象、2場が「開眼」とタイトルされている意味にも
ふれながら、3場に突き進んでゆきます。
6/24(月)『少女仮面』本読みWS 第2回
2024年6月24日 Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ
↑昨日はWSの予習として家族で銭湯に行きました。スーパー銭湯では
ダメで、富士山のタイル画のある日常用の銭湯を探してきましたが、
いつも通っている床屋さんが教えてくれたここが、"当たり"でした
喫茶肉体に入ったところからを丁寧に読み。
腹話術師の若き芸術家としての気負いと自己顕示欲。
それにあてられて苛立ち、喫茶店のお客であるにも関わらず
腹話術師につらく当たるに至ったボーイ主任とのやりとりを読みました。
若い芸術家は、まだ何者でもないという気負いから奇矯な行動に出ます。
喫茶店にわざわざ人形を持ち込んで腹話術を披露し、コーヒーを二つ
頼むやり方はまさに自己承認欲求のかたまりです。
主任はそれが気に入らず、暴力的な振る舞いに出る、という進行です。
面白いのは、ここに水道水のタダ飲み男が現れることで、
彼は奇矯な行動において"天然"なわけです。だから、腹話術師は
この男を挫折と羨望を持って眺めたはずです。
世の中には自然体で天才をやりこなす人がいる。
芸術家志望が生活者に打ち砕かれる瞬間を、唐さんは熟知しています。
水道水飲み男はまずは小手調べ。
明らかに『ジョン・シルバー』の小男の影響下にあるこの役は
唐さんが得意の偏執狂であり、後に"戦争"を背負った存在だと知れます。
この男にまんまと水道水をタダ飲みされた苛立ちを、
ボーイ主任は腹話術師にぶつけます。この辺りの心理的な流れを
面白く捉え、人形に対する横暴に結びつけるとグッとウェルメイドに
なります。さらに、腹話術師の気弱さが引き立って、いかにも
駆け出しの表現者の足掻き、というモノローグが始まります。
唐さんの得意な"内向性"の世界。
次にボーイたちを連れてきて、いきなり踊りや歌を披露させ、
そこに苛烈なまでの演出、ダメ出し、追い込みを見せるのも、
これは、主任による腹話術師への見せつけとも取れます。
結果的に、すでに腹話術師はうなだれて店を去っており、
注文のコーヒー2杯分を無銭飲食しているのがご愛嬌です。
結局この店は、一度としてまともに喫茶店業務を果たしていない!
と、ここに貝と老婆が訪ねて来ます。
ボーイ主任は一瞬で、このふたりには単なるお客でなく、
喫茶店オーナーである春日野八千代に対する何らかの意志があるのを
見てとります。二人は希望に燃えてウキウキしていますが、
それが主任にとってはうっとおしい。
お気楽な貝と老婆を、まるで圧迫面接のように追い込むため、
ますます主任がボーイたちにつらく当たる・・・
というところで昨日はタイムアップでした。
どうも、目下とりくんでいる劇だと細かくなりすぎる傾向にあり、
反省しています。次回からもっとスピードアップします!
6/18(火)『少女仮面』本読みWS 第1回 その②
2024年6月18日 Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ
↑現在のAmazonで買える人体模型。三万円弱。
唐さんは20代前半の無名の頃、人体模型を伴って新宿の喫茶店に
行っていたらしい。果たしてどこで手に入れたのか。
そういう経験が、『少女仮面』の腹話術師に生きているはず!
執筆背景の説明を終えて内容に入ると、冒頭から8ページを読みました。
①少女・貝と老婆の会話。
②老婆の歌『時はゆくゆく』。
③喫茶《肉体》における、腹話術師と人形のやり取り。
④継いで、腹話術師とボーイ主任のやり取り。
を読みました。
「すてたパンツに聞いてごらん」というせりふが有名な①の場面。
ここは、少女・貝がこれから、宝塚スター・春日野八千代の経営する
喫茶店に押しかけて売り込みをかけようとしている前段と考えれば、
会話の意味が見えてきます。
貝と老婆のおめかし。貝の高揚感が彼女の冗談口を呼び、
宝塚の裏側やタブーについて言及させます。
老婆も乙女チックな女性ですが、そこは年の功。
人間や芸能界の裏側を知っているわけですから、忠告をしたくなる。
でも、これからという少女の夢を壊すわけにはいかない。
それでああいう会話になります。
恋愛禁止の宝塚スターだって人肌恋しくなる時がある。
彼らが演じる『嵐が丘』の世界では主人公ふたりが亡霊となっても
お互いのからだを求めて荒野をさまよっている。
老婆となった自分が求めるものは、若き日の「肉体」。
ということで劇中歌『時はゆくゆく』。
ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』やメルロ=ポンティの
視覚論を識っていることも大事ですが、それ以上に必要なのは、
この歌の中間部に、戦中・戦後の雰囲気を嗅ぎ当てることです。
数多くいた子ども。垢だらけで一人だけ帰ってきたそのうちの一人。
そういったフレーズのうちに、この劇に欠落している老婆と貝の
中間世代を感じることができます。
その中で老婆の、自ら宝塚に打って出たかった、今も打って出たい
心情、貝にその願いを託す心持ちが描かれます。
それが終わると、喫茶《肉態》。
火山が噴火した絵画。飛び交うトンボ。
後にこれらが、空襲を想起させるに役立つことに触れつつ、
メリー・ホプキンや、シャンソン歌手ダミアについて説明しながら
腹話術師の世界に入っていきます。
喫茶店に人形を持ち込み、
「コーヒー2つ」と頼んでみせる腹話術師のナルシズムが
ボーイ主任の癇に障る様子を追います。彼らはともに浮かばれない
芸能関係者、現代風に言えばパフォーマーであるからこそ、
ボーイ主任は近親憎悪ともいえる悪感情を腹話術師に向けるわけです。
その精神構造を理解するとき、ボーイ主任がかくも高圧的になった
ことの原因は、腹話術師にあるといえます。
昨晩はタイムアップになってしまったので、このあたりから、
来週は話を起こしていきます。あと4回で終わるつもりです!
6/17(月)『少女仮面』本読みWS 第1回 その①
2024年6月17日 Posted in 中野WS『少女仮面』Ⅱ
↑モチーフとなった春日野八千代さん(1915-2012)
かくしゃくと新舞踊を踊る姿がYouTubeにあります
やはり唐さんの代表作だからか、新しく参加してくださった方が二人いて
彼らはいずれも唐十郎作品を研究していこうとされている青年です。
唐十郎と同時代を生きた人でなくともその作品を愉しみ、
引き継いでゆく方法を探っていくのも唐ゼミ☆とこのWSの目標ですから
一人一人に愉しんでもらおうと思ってやっています。
初回でしたので、
唐さんが『少女仮面』を執筆するに至った背景からお話ししました。
さまざま資料をあたっていくと、
早稲田小劇場から執筆依頼があったのが1969年4-6月です。
この頃、『劇的なるものをめぐってⅠ』の公演中に告知されていた
別の作家による新作が行き詰まったために、唐さんに白羽の矢が
立ったそうです。
唐さんはその後、7月には紅テントの南下興行に出ていますので、
出発前にこの『少女仮面』を書いて鈴木忠志さんに渡していった
ものと思われます。名古屋から電話をかけて、その感触を確認し合う
電話をしたと、記録に残っています。ちなみに、状況劇場が名古屋
での公演をしたのは7/26-30。
上記を総合すると、依頼を受けてから脱稿するまでに4〜1ヶ月しか
かかっていません。唐さんが『少女仮面』を書くのにかかった時間は
2日半と方々で書いていますから、1969年4-7月のうちの2日半で
これをものにしたことになります。恐るべきスピードです。
執筆中、ずっとメリー・ホプキンの『悲しき天使(Those were the days)』
をかけていたそうです。当時はレコードにリピート機能はありませんから、
約3分で終わるこのレコードの針を移動し続けた劇団員がいて、
それは十貫寺梅軒さんであると聞いたことがあります。
居眠りしていると、別間で執筆している唐さんから「止まっているぞ」
と声が飛んでくる。なかなかハードな環境を想像します。
といったお話しまでが執筆背景。
長くなったので、読んだ序盤の内容は明日にします。