6/26(月)『二都物語』本読みWS 最終回レポート

2023年6月26日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑不忍池は1972年当時も今も泥水に違いなく、大久保鷹さんの
フィジカルの強さを思わずにはいられない


『二都物語』本読み、昨晩が最終回でした。

終幕では、
光子とリーラン、それぞれに去っていく女性ふたりが描かれます。
やがて舞台に、日本にやってきた朝鮮半島の残留孤児たちが並ぶ。
現在の日本に育った青年=内田はただ佇むのみ。

という具合に、
哀切で、苦くて、やりきれなくて、
でも、大人数の合唱が迫ってくる物語でした。


順を追って振り返りましょう。
ラスト20ページは別れの連続です。

まずは、包帯をとり、美しい顔立ちの光子が木馬に乗って現れます。
顔に大火傷を負ったはずの彼女が元通りの表情で現れるのは何故か。
彼女がすでに死んでいるからです。
電柱のたもとで死んだ自分を語りつつ、光子は木馬に乗って去ります。

兄・内田一徹は激しく動揺し、光子への思いが溢れる。
結果、彼の亡き妹に傾き、リーランを拒絶します。
食い下がるリーランでしたが、内田が脈なしと見るや、
最後の手段として内田にナイフを振りかざします。

しかし、結局はそのナイフを自らを刺し、木馬に乗って去ります。
(後向きに乗るのが重要!)

その間、リーランが内田に激しく拒絶され、
この劇の中で三たび痰壺に百円を求めるところは壮絶な哀しさに
満ちています。

リーランはかつての日本人の恋人を兄と騙ってかくまいましたが、
その男は日本人たちによって殺された。
以来、彼女は日本に渡って何人もの日本人男性に恋人を
投影してきましたが、男たちをみんな自分を拒絶します。
(当然と言えば当然ですが)

やがてたどり着いた内田一徹ものまた、彼女を振る。
だから、彼女は寂しさのあまり、痰壺に100円入れてとせがむ。
そこから始まるのが例え悪夢であっても、過去の男が目の前に
甦えってくれるわけです。だから、リーランが何度でも
恋人会いたさに悪夢に還るわけです。

この展開、ひたすら唐さんを見事と思いました。
死んだ恋人会いたさに、当の恋人が殺される過去に何度でも
帰らざるを得ないという皮肉と情熱。

こういった悲劇的シーンの合間に、
噂の職安員たち(実は朝鮮半島の残留孤児たち)が繰り広げる
コミカルなやり取りも秀逸です。コミカルだけれども、
最後は彼らの合唱で終わるという仕掛け。

朝鮮の人にも、日本の人にも、
戦争が生んだ影響が今なお切実に刻まれている様子を体現して
この芝居は幕を閉じます。ヒーローやヒロインがヒロイックに
テントの向こうに現れるのではないエンディングの痛みが
傑出していました。

皆さんとの本読みの向こうにそういう光景が
はっきりと見えるワークショップでした。

・・・・・。
この劇は、私としては未上演で、
けれどもどんな舞台作品になるのが理想的か探りたいと思って
本読みWSシリーズの題材にしました。
自分自身も参加者の皆さんのおかげで見えてきた景色が
いくつもあり、たいへん大きな学びになりました。

かつて一度だけ、私が唐さんに『二都物語』の上演を
申し出たことがありました。あれは確か、2004年のお正月のことです。
けれども唐さんは、それを柔らかく却下しました。
「あれは李(麗仙さん)のものだから」というのがその理由でした。

今回読んでみて、その理由に改めて納得させられました。
唐さんはこの台本を周到に書きました。
一見、朝鮮半島から日本にやってきた人々を描く台本に見えて、
その実、朝鮮の血を本当に持つキャラクターは
リーラン(李蘭)だけなのです。他は全員、日本人なのです。

この芝居の上演には、配役にそういう実際の反映を叶えることが
必要条件だと痛感しました。上演には準備が必要!
だからもっと未来に!
それを一緒になって考えてくださった参加者の皆さんに感謝します!

次回からは『夜叉綺想』をやります。
『唐版 風の又三郎』の後に書かれた、想像力が圧倒的暴走を
見せる闇の作品です。

6/19(月)『二都物語』本読みWS 第7回レポート

2023年6月19日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑ケチャップの中に血に見る
バーの一角で現在と過去を行き来するリーラン


昨日の本読みWSのレポートです。
『二都物語』もあと2回、かなり佳境です。

まずは前週の悪夢さめやらぬリーランと内田の会話。
リーランはここが現代のバーであることを自覚しますが、
内田のトマトケチャップに、欠けたグラスの鋭利さに
つい過去の悪夢がよぎります。

どうしても、太平洋戦争末期に恋人を殺された景色が
よみがえってしまう。リーランの内面を知るよしもない
バーテンは、欠けているだけのグラスを叩き割る彼女の
過剰反応に激昂します。

他方、バー酒と薔薇の日々に
光子と暮らす少女5人が一気に押し寄せます。
聞けば、電柱に貼られた求人広告を見てやってきた彼女ら。

一気に包帯少女5人が面接にやってきた勢いに
バーテンはタジタジですが、ここがコミカルで面白いところです。
が、マスターが彼女らに対応すると、バーはあっという間に
万年筆工場に様変わりします。

リーランが訪れれば悪夢の朝鮮半島の村になり、
少女たちがやってくれば火事の惨劇を生んだ万年筆工場になる。
その意味で、ここは訪れる者を常に「暗い夢」に誘う酒場です。
リーランがカクテル「暗い夢」を飲んで、それが万年筆のインクで
できているというシーンは暗示的です。

こういった場面の変遷の中で、
リーランは全編を通して極めて重要なせりふを口にします。
曰く、かつての恋人を殺した憲兵たちを殺した、と。
その子どもたちは孤児となり、日本の戸籍を失って
韓国で成長し、今ではタクシー運転手をしている。
そういうせりふです。

ここには、噂の職安員たち、
すなわち、課長、田口、佐々木、津の正体が端的に表されています。
幽霊民族とは、日本人でありながら朝鮮半島より引き上げるチャンスを
失い、日本の戸籍を失った人々が故郷を求めて数十年ぶりに来日した
姿だったのです。彼らは血縁としては日本人でありながらも戸籍が
無いために、路上の万年筆売りというインチキ商売でしか
生活できません。このあたりの設定は、
必ず厳格に押さえておかなければなりません。

その上で、課長ら4人は内田一徹一家の偽者に扮して
内田家を乗っ取ろうとします。そうやって戸籍を手にいれることを
目論む。光子に変わり内田の妹たろうとするリーランの恋愛感情。
内田一家を装うことで故郷の戸籍を手に入れようとする
噂の職安員たち。目的は違えど、行動は酷似しています。

内田一徹の本物と偽物が対決し、
光子とリーランが対決する果てに『二都物語』がどう終結するのか。
次週が最終回です。

6/12(月)『二都物語』本読みWS 第6回レポート

2023年6月12日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑必要なキーアイテムの一つは、やはりトレンチコート 女性用!


『二都物語』二幕。
登場人物や場面の説明など、序盤の設定が出揃い、
いよいよ話が動き始めました。

一幕の最後で、リーランと光子の選択を迫られ、
一度は光子を選んだ内田一徹が、リーランのもとを訪ねて来ます。
しかもリーランの思い出語りの中で重要だったアイテム、
コートまできちんと携えて。

初めは一幕終盤の成り行きを恨みに思っていたリーランの心も
次第に解けてゆきます。

※この時、なぜ内田一徹が心変わりをしてリーランのもとに
やってきたかは、皆さんで議論してもらいました。
リーランがジャスミンを名乗ってかつての恋人の姿に
内田を重ねるのは、言わば言いがかりです。
論理的に内田がリーランに構わなければならない理由はありません
けれども、内田はやってきた。リーランに絆されたのか。
光子が引き入れた包帯少女軍団との生活に疲れたのか。
このへんは、皆さんで推理することを愉しみました。

いずれにせよ、リーランを待ち受けるのは過酷な運命です。
一幕では自分が恋人を守るためにレイプされた記憶が舞台に
再現されましたが、今度はその恋人が憲兵たちによって殺される
悪夢が出来します。

この場面はすごくよく出来ていて、
時と場がリーラン主観だと戦後すぐの朝鮮半島の村になり、
噂の職安の課長たちにとっては単にバーにやってきてお客に
お金をせびっているという二つの時空の出来事が衝突する場面です。
ここには思わず唸りました。

そして、殺された恋人=内田一徹はケチャップまみれの
バーのお客として、現実の位相に引き戻されます。

ここから先は一転、喜劇的なシーンになり、
噂の職安員たち、バーの店員、酔客、猫とりが入り乱れて
哄笑の場面がやってきます。そして、これが落ち着くと、
また主人公ふたりのシーンがやってきます。

月末に迎える大団円を前に、布石は打たれました。
リーランと内田、光子の三角関係はどうなってしまうのか?
あと2回、熱を入れて読みます。

6/5(月)『二都物語』本読みWS 第5回レポート

2023年6月 5日 Posted in 中野WS『二都物語』
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"The Days of Wine and Roses"というフレーズを生んだ英国詩人
アーネスト・ダウスンのお墓(2022.12.25に撮影)


昨晩は『二都物語』の本読みを参加者の皆さんとしました。
場所は幕間の後半から2幕の冒頭。
物語の進行にとっては、内田一徹をめぐってリーランと光子が対立した
1幕の終わりが、物語の後半に向けて盛り上がる下地を整えるような
箇所です。

まず、幕間。
幕間は全体を通じて、光子のその後を追うものです。
一徹と光子が暮らすアパートは、今では光子と同じく工場を焼け出され
家族をも失った包帯の少女たちの溜まり場になっています。

造花の内職に励む彼女らは、体を売って生きるしかないのではないか。
そういう不安に慄いている。光子も熱病に罹っています。

そこへ、1幕で犬殺しから転職した猫とりがやってきてコミカルな
掛け合いをしますが、その中で、包帯少女たちが化け猫のように
なってしまうのが面白いところです。

リーランが戦中以来、何年生きているのか知れない朝鮮の少女なら、
光子たちもまた、処女のお化けめいている。
一徹、どちらも災難、そんな感じもします。

変わって2幕。
「酒とバラの日々」というネーミングについて私は熱弁を振いました。
これは唐さんが1962年に封切られたハリウッド映画のタイトルを
転用したものですが、そのおおもとは、私の好む英国のマイナー詩人、
アーネスト・ダウスンの一節によるからです。

去年、ダウスンのお墓参りに二度行った。そんな話も披露し。

『二都物語』の二幕は、明確に『吸血姫』3幕を思わせます。
あっちはバー「お世話好き」で繰り広げられるやり取りでしたが、
こちらもなかなか珍妙。偽の役人や刑事がマスターやバーテンを担い、
猫とりがくだを巻いている。面白いのは、オンザロックの氷の輝きを
1幕に少しだけ登場した陽向ボッコの群れが注視していることです。

彼らの異様なまでののどかさは、この劇において場違いであり、
だからこそ笑いを呼びます。東北に伝わる太陽の光を求めて彷徨う
座敷童子が陽向ボッコたちの原型ですが、日本の田舎が誇る
純国産という感じがする。

彼らがなぜ重要なのかといえば、
この劇のベースには、朝鮮半島から渡ってきた朝鮮の人々、
戦前戦中に日本から半島に渡り、日本国籍を失って向こうで年月を
過ごした後、失った国籍や故郷を偲んで帰ってくる元日本人が
登場するからです。そこへ唐さんは、日本の田舎が誇る
純日本人を持ち出した。突飛なのですが、そういう構造になっている。

ともあれ、場末にくすぶるバーにリーランが登場し、
あとは一徹が登場すれば物語はクライマックスに向かって動き始めます。

猫とりが自らに染みついた体臭を嫌って香水を丸ごとかぶる、
しかもその香水の名前が、リーランがかつての恋人と交わした名
「ジャスミン」であることが、唐さんの巧みさです。

道具立てが整いました。
あと3回。6月を通して『二都物語』を完結させます。

5/31(水)『二都物語』本読みWS 第4回レポート 〜幕間について〜

2023年5月31日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑コメディアン・清水金一(シミキン)の写真
他に唐さんが影響を受けたミトキンの写真は無い


昨日は読売新聞新聞の掲載に興奮してしまったので、
一昨日の『二都物語』本読みの続きです。

1幕終わりはリーランの悲運を描いていかにも可哀想でしたが、
幕間になると一転、舞台はコミカルになります。
こういう転換、気分を真逆に振っていくところが唐さんの巧みかつ
おもしろいところです。

この幕間には「猫とり御殿」という楽しい名がついています。

舞台は光子の住む長屋。
しかし、今はそこに包帯を巻いた少女たちが押し寄せて
造花の内職工場と化しています。

また、この長屋には三味線教室がたくさんあるらしく、
三味線の音と、お師匠さんたちの「あんたはカンが悪いねえ」の
叱責がひっきりなしに聞こえます。多分にコント的です。

そして、そのコントに乗っかって、
障子の後ろに隠れたクリーニング屋がやってくる。
障子に隠れて影しか見えないこの男こそ、1幕序盤で
犬殺し→猫殺しに転職した男です。

猫殺しがハントする猫の革→三味線という連想により成立している
全体の設定ですが、彼は我が身に染み付いた獣の匂いを気にして
クリーニング屋になったというわけです。

・・・という幕間の下地が敷かれたところまで、
一昨日はやりました。その上にどんなやり取りが展開するのか。
それはまた今度の日曜日に進めます。

学生時代、浅草軽演劇に通った唐さんのセンスが光る幕間です。

5/29(月)『二都物語』本読みWS 第4回レポート

2023年5月29日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『二都物語』
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↑ジャスミンの写真。思えば小さく可憐な花ではありませんか!

昨晩の本読みWSのレポート、今回は第4回目です。
箇所としては、1幕終わりから幕間の前半を当たりました。
特に重要なのはリーラン=ジャスミンの過去が明らかになり、
彼女の苦境が描かれる1幕の終盤です。

太平洋戦争末期、
日本人の青年と恋仲になった朝鮮人の少女リーランは、
敗戦後の排日運動の中で彼を守ろうとします。
そして同じ朝鮮人の男たちに輪姦される。

この場面で、日本人の青年もまた男たちに暴行を受けながら
リーランを「ジャスミン」と呼びます。
「ジャスミン」というのが、彼らが国境や植民・非植民国の立場を
越えて愛し合うために付けたリーランだと、この場面から判明します。
好きな男のために身を挺して乱暴されるリーラン=ジャスミンの
悲痛なシーンが展開します。

・・・と悪夢のシーンが終わり、
時間と場所が現代の東京に戻ると、リーランはかつての恋人の姿に
目の前の内田一徹を重ねます。しかし、内田は妹の光子を思うばかりで
リーランのことなど目に入らない。まして「私はジャスミンよ」と
迫られても、反応のしようがない。内田にとっては理不尽な
アプローチを受けているのに過ぎないとも言えますが、
この行き違いは、リーラン=ジャスミンにとって悲劇です。

彼女は内田に、自分がいかに彼を守ったのかを証明しようとして、
何度でも自分が輪姦されたシーンを繰り返しリフレイしようと、
100円をねだる。悪夢のような過去が同時に恋人への無償の愛に
つながり、本来は他人である内田が反応のしようもないことが、
リーランの哀切を生む。

そして、木馬によって遠ざけられた光子が舞台に帰ってくると、
リーランはますます内田の前で霞んでしまいます。
この構造こそ『二都物語』で必ず押さえておかなければならない
物語の基本設定です。

顔に大火傷をして包帯グルグル巻きにした
妹・光子もまた悲劇的な存在ですが、兄・内田がいることに
彼女の強みがあります。

他方、リーラン=ジャスミンの圧倒的孤独。
だからこそ、リーランは光子を排除して内田を奪おうとする。
哀しい哀しい過去が彼女をそのような衝動へと駆り立てるのです。

1幕ラスト。「包帯の王女」を名乗る光子+光子の友だちに
赤チンの女王として対抗するリーランは、徹底した弱者の強がりです。
多勢に無勢。突っ張ってはいるけれど、可哀想なリーランの
チャレンジが、物語を後半へと誘うのです。

・・・長くなったので、今日は1幕の終わりのみとしましょう。

皆さんと『二都物語』を読んでいると、今までのステレオタイプが
取り払われて、物語が真の姿を表す感動があります。

リーラン=ジャスミンは、怪物のような女傑ではなく、
傷つき疲れた少女だということが素直に浮かび上がります。
タンカを切るようなせりふが快い反面、それらはすべて彼女の
強がりなのです。考えてみれば「ジャスミン」というのは、
小さな花びらを持つ可憐な花であり、バラのような毒々しい
美しさを誇るような花ではありません。

だいぶ『二都物語』の目指すべきところが見えてきました。
明日は幕間についてレポートします。

5/22(月)『二都物語』本読みWS 第3回レポート

2023年5月22日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑日本のスタンダード痰壺はこんな感じ


『二都物語』第3回は、内田一徹と光子の兄妹が登場する場面から始まりました。
妹の光子は万年筆工場で勤めていたものの、工場が火事となり、
顔が焼け、包帯で顔を覆った少女です。視界が狭まるせいか、火傷のためか、
視力にも問題がある。可哀想な妹の手を引いて、兄・一徹が現れる、
という格好です。

二人は火事の顛末をいろいろと回想しますが、
同時に、光子の妄想、願いが語られます。
彼女は、海の上を走るメリーゴーランドの馬に乗ることを夢見ています。
そして、その馬の燃える立て髪に触れようとして顔を焼かれたのだと
語ります。火事に襲われた少女が自分の体験を突飛に理解しようとする
様子に、兄・一徹は優しさから話を合わせているようです。

そこへ、噂の職安の人々に相手にされず、一人しゃがみこんでいた
リーランが割って入ります。彼女はベンチに商売道具である痰壺を置いて
地べたに座り込んでいたわけですが、そのベンチに兄妹が座りこんだ
わけですから、リーランが挑発されるとも訳ないともいえます。

リーランには思うところがあるらしく、光子と張り合い、兄・一徹に親しく迫ります。
優柔不断なところのある一徹は、リーランを突っぱねられません。

そうこうするうちに、例の痰壺に100円硬貨のお願いに応じる一徹。
すると、リーランの掴み上げた100円が支払口(突然に登場!)に投入され、
メリーゴーランドよろしく赤い立て髪の木馬がやってきます。

初めは光子と一徹とは一緒にこの馬に乗りますが、
リーランの計略によって、一徹だけは馬から降ろされ、
光子は馬とともに追い払われてしまいます。

二人っきりになったところで、リーランは一徹のなかに暗い記憶を
見出します。太平洋戦争末期。日本人を襲う朝鮮半島の人々の
運動が盛んになる中で、兄を人々に襲われ、自分もまた彼らによって
レイプされた記憶が蘇ります。痰壺の中から摘み上げられる100円の
とともに蘇る悪夢。『二都物語』の中でもとりわけ有名な場面でした。

来週で1幕が終わり、幕間に進みます。

5/17(水)『二都物語』に寄せられた情報

2023年5月17日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『二都物語』 Posted in 中野note
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↑早く届け!と心待ち


いつも本読みワークショップに参加してくださっているFさんから
目下、研究している『二都物語』について情報が寄せられました。

この劇中、
有名な場面のひとつにリーランが100円をせがむシーンがあります。
彼女はすれ違う人たちに常に100円をくれるようお願いして回る。
が、これが単なる物乞いと違うのは、リーランが自らに課した過酷な
条件によります。

彼女は、お客に対して痰壺に100円を投げ込むよう頼む。
痰壺という極めて不衛生、普通だったら嫌がるものから硬貨を
拾い上げてみせると約束することで、まるで自分を見世物に
してみせる。これがリーランが自ら設定したアイディアです。
なかなか残酷で、忌まわしい仕掛けです。やはり印象的。

ワークショップでこのシーンを読んでいる時、
Fさんから、このシーンはある映画の影響だと指摘がありました。
その場では俳優ロバート・ミッチャムの出演作だという話になりましたが、
翌日にわざわざ訂正の連絡を頂きました。

どうやら正解は、ハワード・ホークス監督、
ディーン・マーチン主演の『RIO BRAVO』ということです。
1959年の映画。唐さんは西部劇が大好きなのでこれは当たりでしょうし、
ネットで調べたところ、確かに冒頭にそういうシーンがあるらしい。
唐さんは若き日にこれを観て『二都物語』に援用したに違いありません。

ずいぶん前の映画なので、格安DVDを注文しました。
ネット・レンタルも良いけれど、将来、何人かで観る可能性がある。
そこで買って持っておくことにしました。

明日には届くそうです。届いたらさっそく観てみるつもり。
Fさん、ありがとうございます!

5/9(火)『二都物語』本読みWS 第1回レポート その②(中野)

2023年5月 9日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑『二都物語』が始めて活字になったのは雑誌「文藝 1972年6月号」

肝心の『二都物語』冒頭をまとめます。
一昨日に読んだ内容としては、

怪しげな職業安定所がやってきます。
大久保鷹さんが机を背負って登場した有名なシーン。
課長、田口、佐々木、津、という4人により成り立っている
移動型のオフィス兼店舗です。
(あくまで職業安定所なのですが)

このあたりの唐さんの手つきは、
後年に書いた戯曲『河童』の中の動く不動産屋、
名付けて「運動産屋」に通じます。テント者の王者だけあり、
仮設性、移動性が大好き。

職業を探して訪ねてくるのは「犬殺し」です。
実際の本読みでは、この「犬殺し」という職業をめぐって盛り上がりました。
唐さんが子どもの頃には、リアカーを引いて巧みに野良犬を捉え、
食用として売り捌く達人がいたのです。

『ジョン・シルバー』に出てくる「小男」の父、
『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』の「ドクター袋小路」も
「犬殺し」という設定です。

WS 参加の皆さんとともに多様な食肉遍歴を披露し合いました。
犬、猫、鯨、鳩、ウサギ、カエル・・・。
世界にはさまざまな食肉文化があります。

そして、課長たちは犬殺しに「三味線屋」への転職を紹介する。
猫の皮でできた三味線。彼は犬殺しから猫殺しになった。
唐さん流のブラックジョークです。どこか哀切でもある。

やっと一人の職業を斡旋したところで、
この職業安定所はいかにも怪しさが漂ってきます。
職業を求めて必死な、いわばお客さんに対してどうにもぞんざい、
それどころか憎悪さえ感じさせます。いかにも訳アリな感じがします。

と、そこへ「陽向ボッコの群れ」がやってくる。
ちょっと不思議な、抽象的な登場人物たちです。
その頭目の男と課長は会話しますが、取り止めがありません。

ちなみに、この「陽向ぼっこ」というのは東北の伝承なのだそうです。
陽向を求める「ぼっこ=子どもたち」という意味で、彼らは暗闇でも
陽向を求めて畳の上にじっとしている。のどかな妖怪、そういう
イメージです。この平和さが後々この芝居に生きることになります。

唐さんは「陽向ボッコの群れ」に何を託したのか?

そこへ、正規の職業安定所職員がやってきます。
彼の登場によっていよいよ課長たちは偽物と知れる。
が、課長は得意の口八丁で彼を翻弄し、追い払います。

さらにやってきたコックさん。
彼は、この職安に紹介された娘の素行がひどいとクレームを付けに
きたのです。いよいよヒロインのリーランが登場。

という手前まで初回は読みました。
まだまだ序の口です。これからじっくりとどんな物語かを見極めよう。
それを狙うこのWSにとっては、ここまでは難しくない。
来週以降、リーランがいかに登場し、何を語るのか。
入り口から少しずつ奥へと進む段階です。

5/8(月)『二都物語』本読みWS 第1回レポート その①(中野)

2023年5月 8日 Posted in 中野WS『二都物語』
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↑『状況劇場劇中歌集』
冒頭に出てくる ♪氷の洞窟で〜 という劇中歌はこのCDに入っています
他にも、『二都物語』主題歌ともいえる『ジャスミンの唄』も収録


ついに始まりました!
『二都物語』の本読みWSです。昨日は恒例の序論から。
特に前半は、唐さんが『二都物語』を執筆して初演した当時の
状況について話すところからスタートしました。

その際、説明をしながら再認識したのは、
伝説的な部分の多い初期状況劇場の活動の中でも、
特にこの『二都物語』はレジェンドだということです。

例えば、

・唐十郎が状況劇場劇団員4人を連れて戒厳令下のソウルに渡り、
現地でこれを上演した。
・上野不忍池での公演では、冒頭シーンにおいて大久保鷹が
机を背負って池を泳ぎながら登場し、観客の度肝を抜いた
・ソウルと東京という二つの都を股にかけたこの作品こそ、
看板女優の李礼仙がもっとも輝いた芝居である

と、こんな具合いです。とにかく逸話が尽きない。

ここで時系列的にお話しすると、
1971年春に上演した『吸血姫』こそは、1963年の創立以来、
台頭してきた初期状況劇場の集大成といえる作品でした。
麿赤児、李礼仙、大久保鷹、四谷シモン、不破万作、根津甚八が
揃い踏みして活躍した劇です。

その後に書いて秋に上演した『あれからのジョン・シルバー』は
『ジョン・シルバー』シリーズの完結篇として初めて観る者には
前提条件が多過ぎ、またせりふが爛熟し過ぎて難解になり、
お客も不入り、平たく言えば失敗作であったようです。
(だから唐ゼミ☆ではサルベージを狙うべく連作上演しました)

そして、1971年終わりに麿さんが劇団を去り、シモンさんが
人形作りを専らとしていく。唐さんの落胆が激しかったのは
言うまでもありませんが、共同通信の記者の誘いでソウルを
訪ねたことが起死回生のきっかけになったと、李さんのエッセイで
読んだことがあります。戦後の東京にも似たソウルの雰囲気を
目の当たりにした唐さんは活性化し、『二都物語』に着手。
李さんというプリマを全開に押し出して難局を乗り切り、
ここから『ベンガルの虎』『唐版 風の又三郎』へと続く
黄金の3年間の端緒を切り開きます。

紅テントにお客がほんとうに押し寄せたのもここからといいます。

・・・とずいぶん景気の良い話が続きますが、
要はこれら伝説的エピソードによるヴェールを1枚1枚はがし、
この『二都物語』の真価を見極めようというのが、
これから2ヶ月強かけて行うこの本読みWSの主眼です。

ほんとうにはどんな物語で、唐さんは何を訴えようとしたのか。
まっさらな目で読んでいきます。すると、数々の伝説による魅力
とは違う、別の愉しみが、『二都物語』の芯から溢れてくる。
そういう風にしたいのです。

唐ゼミ☆ではまだ上演したことの無い作品です。
だからこそ、上演の可能性を探るために私も必死です。
『二都物語』の真の姿を、これから見極めましょう。