12/16(月)『御注意あそばせ』本読みWS 第3回

2024年12月16日 Posted in 中野WS『御注意あそばせ』
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↑すき焼き食べたくなりました。年末に実家に牛肉を買って帰り、
やってみようかと思います。唐さんの庶民派センスが冴えています


軌道に乗った感のある第3回の本読み。
『御注意あそばせ』という作品が何を問題にしているか、
いよいよはっきりしてきたのが、今回でした。

主人公の「僕」はキヨちゃんのアパートに潜入して、
目の前の病院にいる「佐川君」にアプローチしようとしています。
そのモチベーションになっているのは、小説『佐川君からの手紙』を
めぐるイザコザです。

「僕」=唐さんは、当初は佐川君から、自分の引き起こした事件の
映画化を依頼する手紙を受け取っていたのです。しかし、パリまで
行った唐さんは、実事件に関わることへの警戒心と得意の妄想が
大爆発。実際に佐川君には会うことなく、佐川君と語学学校で一緒
だったという女性「K.オハラ」を唐十郎流のヒロインに仕立て上げ、
『佐川君からの手紙』を書いて芥川賞までとってしまった。

しかも、佐川君から7通受け取った私信のうち、1通を引用すら
しているのです。これでは、佐川君が自分をダシに使われたと
受け取るのも無理からぬことです。また、当の唐さんの方でも
申し訳なく思い、それでアプローチを試みているというわけです。

それで、「看守」も抱き込んだわけですが、よく考えるとこの役名も
おかしい。佐川君がいるのは病院なのですから、せめて「警備員」
とすれば良いのに・・・

というわけで、「看守」は「僕」にマッサージをさせながら、
佐川君との交信の結果を使えます。佐川君は、オハラの肉を
食べたなら会ってやろう、と、「僕」に難題をふっかけている
らしいのです。

困ったところへ、キヨちゃんが帰ってくる。
キヨちゃんはスキヤキを作り始め(肉を食べる、がこの劇のテーマ!)、
初対面の「看守」にとっては、キヨちゃんは実は、自分の見合い相手の
お兄さんだということもわかり、「看守」はキヨちゃんへの敬意を
あらわにします。キヨちゃんは「看守」をうっとうしがりながらも、
その度量の大きさから食事をともにしようと一緒に準備する。

その間、僕は再びシャワー室にオハラ幻視します。
佐川君とルネの、あの決定的な事件の時に自分も同じ部屋にいたと
語るオハラ。さらにオハラは、佐川君に会うために自分を食べろと
「僕」に持ちかけます。目前には、自分の肉を食べろというオハラ。
背後には、スキヤキができたから一緒に食べようと誘うキヨちゃん。

かなり面白い展開になってきました。
続きは12/22(日)19:30!
※年内最後の回は12/28(土)の19:30です

12/11(水)『御注意あそばせ』本読みWS 第2回 その②

2024年12月11日 Posted in 中野WS『御注意あそばせ』
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↑自分も数年前に初めてパリに行き、安ホテルに泊まりました。
唐さんの体験が想像できるようになりました


昨日の続きです。

②「僕」とK.オハラ(幻視のようでもある)との会話
キヨちゃんがいなくなると、シャワーの音が高まり、湯けむりの
向こうから女の声が、その次に、姿が現れます。タオルを巻いた姿です。

美術学生たちにヌードモデルをしているという「K.オハラ」の登場。
そこから、パリのボナパルト・ホテルでオハラにしたインタビュー、
彼女と過ごした時間が甦ってきます。オハラは、パリの語学学校で
佐川一政さんとともに学んだ仲であり、だからこそ、佐川君を
訪ねる前に唐さんが取材をすることになった。

すると、唐さんにとって、佐川君よりも、亡くなったルネよりも、
K.オハラという女性の方が謎めいて輝きだし、物語世界の中の
ヒロインに成長してしまった、という経緯です。

ホテルの一室で飲んだ桜茶の話などしながら、パリが過ぎる。
アンドレ・ブルトンの『ナジャ』の世界が展開する。
そういうシーンです。この場面を通じて、この劇の前段となる
『佐川君の手紙』の世界が見えてきます。

それにしても、この「シャワー」という仕掛けは卓抜なアイディアです。
『少女都市』で満州行軍の兵士たちが登場する「蚊帳」のような
道具立て。シャワーがあるだけで、パリの安ホテルの雰囲気も漂うし、
唐さんによる素晴らしい発見とアイディアです。


③「僕」と看守の会話
そこへ、看守が帰ってきます。と同時に、オハラは消える。
この消え方も、シャワーの向こうに現れた幻想の女を思わせます。

「看守」というと刑務所を想像しますが、この場合は病院の看守です。
佐川君をテーマにしていますので刑務所のイメージが強いですが、
佐川君が人事不省とされて刑事罰を受けず、日本に帰国して病院に
入っていたことを思えば、「僕」という主人公が佐川君に接近するために
病院近くのアパートをウロウロしてキヨちゃんのアパートに転がり
こんだこと、この「看守」を抱き込んでスパイとし、中にいる佐川君に
手紙を託している様子が伝わってきます。


・・・と、一昨日はここまで読みました。
なかなか強引な設定です。キヨちゃんの部屋は刑事の張り込み部屋
みたいになっていますが、「僕」がよくここに転がり込めたものです。
キヨちゃんという得意なキャラクターゆえです。
しかも、速攻でスパイ化する看守なんて、なかなかいません。

「僕」というキャラクターは引っ込み思案の内気な青年を思わせますが、
なかなかの手腕を持つ探偵のようです。
このように愉しんでいければ、なかなか良い作品として『御注意あそばせ』
という台本が魅力的に読めます。

次回は、12/15(日)です。

12/10(火)『御注意あそばせ』本読みWS 第2回 その①

2024年12月10日 Posted in 中野WS『御注意あそばせ』
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↑ネット上で初めて仮チラシの画像を見つけました。この公演は、
『御注意あそばせ』の「キヨちゃん」造形にかなり大きく影響したと
考えています


昨晩は本読みWSでした。
通常だったら日曜日の開催ですが、一昨日に唐さんの会があったので、
月曜に振り替えたのです。月曜からお付き合い頂き、皆さんに感謝。
来られなかった方々のために、レポートはストーリー重視でやります。

本読み第2回ですから劇はまだ序盤です。
大きく三つのパートをやりました。

①「僕」とキヨちゃんの会話
②「僕」とK.オハラ(幻視のようでもある)との会話
③「僕」と看守の会話

順番にいきましょう。

①「僕」とキヨちゃんの会話
前提条件として、「僕」は何か因縁のある病院にアプローチしようと
しています。どうもここに佐川一政さんがいて、何らかコンタクトの
手段を探っている。そういう趣きです。
「僕」は病院近辺のアパートを偵察場所として探っていたところ、
そこに住むオカマのキヨちゃんと親しくなり、それでこの部屋に
潜り込んでいる、というわけです。

上記の設定からもわかるように、見ず知らずだった「僕」の潜入を
許すわけですから、キヨちゃんは相当に懐が深い人物です。
また、それだけ簡単に他人を受け入れる、どこか寂しい人物でも
あるように見受けます。

昨日に読んだ箇所では、キヨちゃんがこれまでの苦労を語る箇所が
ありました。オカマ商売の中で、警官から逃走中の泥棒に人質に
とられたり、妻や子どもに虐げられた中年男の出奔先になって
家族に責められたり。このような目に遭いながら、キヨちゃんは
迷惑がるどころか、警官・泥棒・中年男に構ってもらえたことを
よろこぶ風なのです。彼らを優しい、とも言います。

このような性向から、キヨちゃんがいかに虐げられてきた人間で
あるかが伺えます。人に邪険にされすぎたせいで、ちょっとしたことにも
優しさを発見してしまう。言わば自己防衛の一種で人を良い人にして
しまう。それがキヨちゃんなのです。


オカマが群れなす下谷万年町で育った唐さんならではのキャラクター
と言えます。自分にはどうも、このキヨちゃんというキャラクター
には、1981年初演の『下谷万年町物語』で「お春」を演じた
大門五郎さんや、「お市」を演じた塩島昭彦さんが影響しているのでは
ないかと思います。要するに、見た目はゴツいけど優しい方が、
人情も悲哀もよくかもしだされるのです。

・・・①だけで長くなってしまったので、続きは明日。

12/3(火)『御注意あそばせ』本読みWS 第1回 その②

2024年12月 3日 Posted in 中野WS『御注意あそばせ』
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↑アンドレ・ブルトンの『ナジャ』が底流にあるのは明白!
これを機会にぜひ読んでもらいたい、唐さんの青春の書です


12/1(日)は初回なので、レクチャーを多めにやりました。

1983年に芥川賞を受賞して以降、唐さんと状況劇場の創作が変化せざる
を得なかったこと。例えば、ずっと恒例で続けてきた紅テント公演を
1983年の春はお休みしています。そういうことは、所属する劇団員に
とってはすごく大きなことだったろうと想像します。

特に、プリマたる李礼仙さんとの間に生じた関係の変化が想像できます。
1984年に改訂された『少女都市からの呼び声』、1985年に初演された
『ジャガーの眼』に李さんは関わっていません。

一方で、『少女都市からの呼び声』を1985年秋に若衆公演として
新宿で上演しているとの同時期に、『御注意あそばせ』は吉祥寺で
山崎哲さんの演出で上演されており、このヒロインを李さんが
演じています。劇団内の人間関係が混沌としていたことが想像できる。

一方で、1980年代半ばには、唐さんは第七病棟との仕事において
『ふたりの女』を再演し、『ビニールの城』を初演します。
作家として旺盛に創作を行ったともいえます。

そういう様子も、年表を追いながら皆さんと想像しました。
さて、『御注意あそばせの』の内容。

舞台は、アパートの一室から始まります。
ここは、病院前にあるオカマのキヨちゃんのアパート。
上手には坂があり、なんだか『秘密の花園(1982年初演)』に似ています。

主人公の「僕」は数日前からキヨちゃんと知り合い、
その部屋に潜り込んでいるという設定です。どうしたらそのような
関係性が急速に発展するのか、謎めいていますが、観客を惹きつけます。
※『下谷万年町物語(1981年初演)』の「お春」と「洋一」の関係に似ている。

そして、このアパートで何より謎めいているのは、風呂場を改造した
「シャワー室」があることです。普通、シャワー室を改造して風呂場に
することはあると思うのですが、この場合はその逆。なぜこんな設えなのかと
いえば、ここに、パリ取材中の唐さんが投宿したボナパルト・ホテルの
一角を再現しよう、という趣向だからです。

『佐川君からの手紙』では、ホテルにあったシャワー室が唐さんに
幻想を呼び込みます。キヨちゃんの部屋にそれを持ち込むと、
実際に「僕」は、ある女がここでシャワーを浴びるのを幻視します。

これが『御注意あそばせ』の始まり。

一方で、キヨちゃんとの会話になると、そういった小説的な幻想譚の
雰囲気は破壊され、キヨちゃんがオカマであることをめぐるやたら
具体的でコミカルな会話になるところが、いかにも芝居書きとしての
唐さんの真骨頂で、皆さん、安心するはずです。

オッパイを取り付ける手術が半分のみ進行中であることを「僕」に
指摘されたり、キヨちゃんは散々な言われようですが、それでも、
怒るどころか、自らを恥じて「僕」に謝り、「僕」に尽くすような
健気さでいっぱいのキヨちゃん。彼(彼女)のキャラクターで
この会話劇は華やぎます。

来週は、ヒロイン「K.オハラ」の登場です。
次回は12/9(月)19:30から!

12/2(月)『御注意あそばせ』本読みWS 第1回 その①

2024年12月 2日 Posted in 中野WS『御注意あそばせ』
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↑台本には、この新劇1985年12月号に掲載されたものをwordに起こして
活用しています。


昨日は『御注意あそばせの』本読みの初回。
唐十郎作品の中ではあきらかにマイナーなこの作品にどれだけの方が
参加してくださるのか不安でしたが、10名を超える皆さんにご参加
頂きました。貴徳な方々!

まずは第一回ということで、周辺情報の確認から入りました。

初めに佐川一政さんのこと。例のオランダ人女性殺人&人肉食は
1981年6月に起こり、映画化を希望して唐さんに手紙が来たところから
『佐川君からの手紙』への扉が開かれます。

唐さんはパリまで行き、周辺をウロウロしたものの、
結局は佐川さんには会わずに帰国、ですから、この小説は
スキャンダラスな装いこそあれ、本質的には唐さんが幻のヒロインを
幻視する幻想譚として描かれています。

『佐川君からの手紙』ではパリで会う「K.オハラ」。
続編の『御注意あそばせ』では東京で出会う「奈美さん」。

ふたりはともに「幻のヒロイン」ということで全く共通していますが、
これは明らかにアンドレ・ブルトンの『ナジャ』に影響されている
というのが、私の見解です。唐さんは、青年時代に影響を受けた
ブルトンを、パリで想ったに違いありません。

さらに、あまり世間を賑わせた事件にダイレクトに
接近し過ぎると、どうしても現実に太刀打ちできなくなってしまう。
作家の創造が威力を持たなくなるであろうことも予想できていたはずです。
(唐さんは用心深い!)

そのようなわけで、この演劇版『御注意あそばせ』も必然的に
幻のヒロインを追う話になる。そのような説明を行いました。
内容については、また明日!