10/14(祝月)『少女都市』本読みWS 第5回(最終回)

2024年10月14日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑来週からは『少女都市からの呼び声』との比較が始まります
この文庫のおかげでずいぶんアクセスし易くなりました


昨晩は『少女都市』本読みの最終回でした。
今日のそのレポートです。

3幕。雪子のガラス化手術が進むフランケの研究室でやり取りの
続きから再開しました。自分がガラスになっていくことに希望を
感じつつ、不安を覚える雪子。そこへ連隊長に化けた兄がやってきて
フランけを追い払います。

兄に説得されると雪子はもとの世界で生きることに惹かれ、
兄に付き従おうとします。ですが、もともとが障害を持ち、
フランケによるガラス化手術を受けた状態の自分に不安を抱き、
失われた三本指を求めます。それは、まさに雪子にとって
「肉体」の象徴なのです。

しかし、いつかの事故で失われた指が復元できるはずもなく、
雪子は兄の指を所望します。お兄さんが指を提供してくれたら、
雪子は現世に踏みとどまることができるのです。

ここで、ダメ男だった兄が一念発起し、文字通り指切りのシーンが
始まります。ヤクザ映画の指づめと、約束の指切りげんまんが
入り混じったような場面ですが、妹と兄の壮絶な結びつきを
示す名シーンです。情けなかった兄が急速に成長していく場面でも
あり、痛々しいやり取りが繰り広げられる一方で、雪子が床を
這う虫の退治に気を取られて兄を放っておくところはコミカルでも
あります。こうして悲喜劇入り混じるところに唐さんの巧さがあります。

2本を切り終え、3本目の小指(約束の指)に差し掛かる時、
フランケ醜態博士がピストルを構えて乗り込んできます。
後ろには街の人々まで引き連れている。

フランけは持ち前の弁舌と武器の威力を駆使して大衆を扇動し
雪子の兄を追い詰めますが、結局はちょっとしたミスからピストルを
奪われ、それが元で雪子の下腹部が撃たれる結末に至ってしまいます。

傷ついた雪子が階段を登りながら、そのスタートからはビー玉が
こぼれ落ちる場面は、ガラスの少女の生理であり、フランケの
オテナの塔作戦が崩れ去ってゆく場面でもあります。
折しも、舞台背面が割れると、フランケがガラスの少女を求める発端と
なった連隊長が上海ママを連れて現れます。連隊長たちも、フランケも、
ともに夢み、すがった世界が崩壊してゆくなかでこの芝居はエンディングを
迎えます。ガラスをテーマにしているだけあって、壮麗な幕引きでした。

来週の日曜からは『少女都市からの呼び声』に入ります。

10/10(木)『少女都市』本読みWS 第4回 その②

2024年10月10日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑フランケの食事はこれです。三浦市の三崎口に行くと食べられます。
フランケはこれをマグロの頭でなく、サメと言い張っていますが。
生々しいものの代表例であるこれを食べつつ、ガラスの少女や
オテナの塔という相反するものに憧れる。単なるギャグで済ませず
フランケの内面を推し量る必要を感じる食事です


10/7(月)に行った『少女都市」本読みのおさらいです。
昨日は「2幕」をまとめたので、今日は「3幕」冒頭をまとめます。

2幕を挟んで、3幕は1幕の続きです。
フランケ醜態と雪子の居住空間のなかで、雪子のガラス化はますます
進行していくわけですが、雪子に不安が兆す、というのが三3幕冒頭の
主題です。

まず、3人の女たちが登場し、一升瓶を使って玄米のヌカを突きながら
月に一度くる生理とか、働かない旦那の話をします。
要するにこれらはいずれも「世帯くささ」とか「生活感」を感じさせる
もので、雪子とフランケの目指す「ガラスの少女」「オテナの塔」と
対局にある存在を羅列していることが重要です。

その後、雪子が登場して、自分がガラス化されていることを語る
わけですが、遠ざかりたいと願っている生活感、人間が動物として
持っている生理現象のいちいちが、いざそれを捨てようとした時に
後ろ髪引かれる思いのあることを言い出します。
フランケはとうぜん困惑しますが、雪子は揺れます。

そして、その象徴が「3本指」です。
これは、1幕で話題に出た3本指のこと。
雪子がガラス工場での事故により失った3本指は、雪子の体から
切り離されているためにガラス化されず、やがて宙空をさまよった後に
雪子の「肉体部分」としてガラス化を阻みにやってくる、
というイメージに雪子が囚われます。

実際には、事故に遭って飛び散った指は、
粉々に引きちぎれるか、腐るかして、処分されざるを得ないものですが、
それらが宙空を彷徨ったのちに飛来するイメージは見事です。

フランケと雪子の希望と不安が入り混じるうち、
連隊長に化けた雪子の兄がやってきて、フランケをまんまと退場させると
ここから、長い兄と妹の場面が始まります。

次回10/13(日)で『少女都市』最終回です

10/9(水)『少女都市』本読みWS 第4回 その①

2024年10月 9日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑小日向白朗さんです。『少女仮面』で甘粕正彦さんを登場させ、
『少女都市』ではこの日本人馬賊王を扱う。常に二匹目のドジョウを
狙ってやまない唐さんらしい戦略です!


前回、10/7(月)に行った本読みWSの内容をレポートします。
『少女都市』2幕と3幕冒頭を取り上げました。

「2幕」というのは明らかに幕間芝居。
いろいろと面白いことが起きるのですが、では一体何が起き、
伝えたかったのかと訊かれると、誰もがたじろぐカオスを感じます。
が、丁寧に腑分けていくと、核となる部分が見えてきます。

2幕は、オテナの塔の入り口周辺で繰り広げられます。
受付人(管理人)のもとに様々なキャラクターが訪ねて来て問答する。
これは実に、『煉夢術』2幕とまったく同じ設定です。

初め、人体模型人形の人形使いが訪ねてきます。
「渋谷警察への慰問」と言っているところなど、これは天井桟敷と
乱闘した後に書き加えられたネタでしょう。

次に、上海ママが登場して、小日向白朗の『日本人馬賊王』より
「復讐のコルト」のくだりを朗読します。かなり長いのですが、
要するに、自分は小日向と付き合っていた、そして捨てられた、
という上海ママの過去が明らかになるのが重要です。

さらに、老人AとB、山田くんと田中くんの再会、
というネタが入ります。「なんてじめじめした陽気だろう」で
お馴染みの二人ですが、要するに「塔は近いぞ!」と
言っているわけです。

そして、2幕冒頭の人形使いが帰ってきて、
今度は一幕で登場した連隊長を人形にして、上海ママとの
やり取りが始まります。つまり、この連隊長こそ小日向白朗
だったらしく、上海ママと連隊長は過去に男女の仲だったよ、
と言いたいわけです。

・・・やはり散らかっています。
混乱しないように2幕を要約すると。
・オテナと塔があります。
・小日向白朗と上海ママはただならぬ仲でした。
内容的にはこの2点に尽きます。
上海ママと小日向がこの先、三幕でどうなるのかと
観客に気にならせることができたら成功です。

また、朗読された『復讐のコルト』を原典に遡ってよく読むと、
小日向白朗という人は、恋愛関係にあった中国人女性をピストルで
殺した過去を持っているそうです。これがなかなか複雑で、
彼女が望まぬ結婚をせざるを得なくなり、小日向との愛を全うするために
このような殺人に至った、というエピソードです。
この構図は、3幕のフランケと雪子のやり取りに明らかに影響を
与えていますので、ここに申し添えます。

また、この幕間劇は全体に、『少女仮面』2場の向こうを張って
人形劇仕立てになっていることは言うまでもありません。

長くなったので、3幕のおさらいは明日。

10/7(月)情報、寄せられる

2024年10月 7日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑これです。この写真です!
『少女都市』初演より麿赤児さん扮するフランケ醜態博士

またも情報が寄せられました。
1969年の『少女都市』初演時に麿赤児さんが扮したフランケ醜態の
舞台姿が写された舞台写真のありかです。

私にはこれを見た記憶があって、変な装飾がなくて良い立ち姿だと
思ってきました。下級兵士あがりの傷痍軍人となったフランケに
麿さんの飾り気のない表情がリアリティを与えていると感じるからです。

掲載されているのは、山口猛さんが書いた『同時代人としての唐十郎』
です。1980年刊行の本で、山口さんはかつて状況劇場の団員だった
文筆家にして、在団当時は唐さんがブレイン的な存在として
頼りにした方でもあります。

よく見ると、フランケ醜態博士の衣裳はデコラティブではありますが
やっぱり表情は素晴らしいと思います。
哀しみをたたえて、自分の相手は同じく障害を持つ少女・雪子しか
いないと思い詰めている感じが如実にします。

教えてくださったTさん。どうもありがとうございます!

10/5(土)探しもの

2024年10月 5日 Posted in 中野WS『少女都市』
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探しものがあります。

それは、1969年の『少女都市』初演時において、
麿赤児さん演じるフランケ醜態博士が満州を思い描くシーンを
写した舞台写真です。

私はかつてそれを見たことがあって、特殊なメイクや飾りをせずに
麿さんのフランケをいいなと思って眺めた記憶があります。
いかにも下級兵士、いかにも傷ついた復員兵という感じが
その写真からはしました。リアリズムだな。そう思いました。

しかし、あると思っていた『状況劇場全記録 唐組(PARCO出版)』に
その写真が無いのです。他にもいくつか写真が付いていそうな
本や資料をあたってみたのですが、やっぱり無い。

私の頭の中にある写真を、私はどこで見たのか。
私の妄想に過ぎなかったかも知れないとさえ思いますが。
それにしてはあの麿さんの造形の記憶がクッキリし過ぎている。

引き続き探しています。


10/2(水)J.G.バラードを読もう!

2024年10月 2日 Posted in 中野WS『少女都市』
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日曜のワークショップをやっていて
「あ!」と閃き、考えがつながったことがありました。

ジェームズ・グレアム・バラードの『結晶世界』について思い出した
のです。SF作品として古典化した感のあるこの名作ですが、
『少女都市』のなかで雪子がガラス化していくくだりには、
世界が結晶化していくバラードのモチーフが影響しているように
思われたのです。

すぐに調べてみると、この小説の日本語訳初版は1969年1月10日。
唐さんは同年の夏から秋に『少女都市』を書いているわけですから、
時制軸順としても整合性が取れます。

それからもう一つ。
私にこの本の存在を教えてくれたのは室井尚先生なのですが、
では、室井先生は誰からこの小説のあることを教わったのかと
いうと、松岡正剛さんなのだそうです。

1969年に『少女仮面』を初演した早稲田小劇場と松岡正剛さんに
交流があったことを考え合わせるとき、『結晶世界』が
『少女都市』に影響を与えた確率はますます高まります。

ワークショップ中にこういう事があるのですから、
皆さんとの会話や本読みはおもしろい。
また一つ、執筆当時の唐さんが見えてくるように思います。

近く、『結晶世界』を読むことにします!

10/1(火)『少女都市』本読みWS 第3回 その②

2024年10月 1日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑雪中行軍といえばこの映画。生き残った人たちの手足に障害を
負わせる凍傷の恐ろしさを想像することができます。
つまりそれはフランケが身体に負った障害ということです


一昨日の本読みWSのレポートを続けます。

割れたビー玉にこと寄せたフランケのモノローグは、
彼が雪子を手術するに至った動機を明らかにしていきます。

まず、フランフがかつて、雪の満州を行軍する二等兵(下級兵士)で
あったことがわかります。さらに、フランケだけが追体験する
連隊長麾下の兵士たちとのやり取りの中で、ぜんそく持ちの
フランケ二等兵がいかに従軍を希望しながらこれを聞き届けられず
日本に復員することになったかが語られます。

明らかに太平洋戦争末期の満州が描かれています。
日本の敗戦が濃厚となるなかで、隊の者たちは雪原の中で
あてどもなく彷徨い、死んでいきます。
それを象徴するのは「オテナの塔」作戦という言葉。

この時、フランケに帰還を命ずる連隊長の言葉のなかにある
「おまえの作戦は、おまえでつくれ!」「おまえのオテナ、
温かいオテナ」という言葉が、雪子をガラスの少女に改造すること
への直接的な動機になっていることが示されます。

つまり、満州で死にきれず、傷痍軍人として日本に帰ったフランケは
(フランケが身体障害を負ったことは「醜態」という名前に示されて
います)、同じように身体に不具合を抱え、ガラス工場で働く雪子の
なかに、障害を持つ者同士のシンパシーや、美しさや永遠性への憧れを
覚えてフィアンセとなり、また手術を行っている背景が見えてきます。

この後のシーンで舞台が現実に帰り、雪子の兄が手術中の雪子を
助けに来ると、雪子はフランケと進めてきたガラス化への恐怖、
元の人間であることへの未練が生まれ、フランケとの約束のようには
事が進みません。しかし、何も手術はフランケが無理矢理に進めて
きた事でなく、雪子とフランケの結びつきの中に生まれた着想で
あり、二人の希望であったことが分かってきます。

場面としては、女1がラムネを持って帰ってきたことにより、
逡巡する雪子を挟んで睨み合うフランケと兄の対決は中入りします。

が、大切なのは、一見すると悪役に見えるフランケこそが傷ついた者
であり、主人公的であることです。雪子も、唐さんの物語展開では
書ききれていませんが、前提条件として『ガラスの動物園』のローラ
を参考に不具合ゆえのコンプレックスを抱えた存在であることは
明白です。他方、雪子の兄については、社会や会社に対して怠惰で
あることくらいしか設定がなく、むしろこの兄は正義の味方や主人公
であるように見えて、感情移入しにくいキャラクターであることも
見えてきます。

私としては、傷痍軍人であり、身体障害者であるフランケの視点から
『少女都市』『少女都市からの呼び声』を読んでいく必要を感じています
が、今回の本読みこそ、そういう方針の裏付けとなる重要シーンでした。

次回は10/7(月)19:30です。

9/30(月)『少女都市』本読みWS 第3回 その①

2024年9月30日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑昔なつかしきオールガラスのラムネびん
ビー玉を取り出すために側を割る行動に出た子どもたちもいました

昨夜は『少女都市』本読みの第3回でした。
超重要部分に入ったので、2回に分けてじっくりとレポートします。

まず、前回から続く、眼下に広がる海の世界から。
フランケ醜態が男(雪子の兄)に見せたのは、夜の海の世界です。
そこには、生まれてくることができなかった子どもたち、
その子たちを孕んだ母親たちがうごめいています。
そのなかの一員として前回読んだ「上海ママ」も登場しました。

彼女は、男の母たらうとして近づきながら、
そんなことは叶わず男娼でもあることが分かってきます。
母親になりたくてなれない苦しみを象徴します。

『煉夢術』に登場した人体模型まで登場して、
肉体を求めながら眼下の海に身を投げます。
要するに、フランケのいるこの世界が、生に憧れてつつも
立派に現世を楽しむことのできない、身体を失った生者・死者たちの
すぐ真下において成り立っていることがわかります。

ところ変わって1幕3場に入ります。

フランケの実験室では、雪子の身体がガラスに改造されています。
まずは子宮から。ビー玉を素材に用いてガラス化の手術が行われます。
すると、助手である女たちの手落ちから大事なビー玉が割れてしまい
フランケは激怒して女1にラムネを買いにやらせる。
中のビー玉を補充して手術を続行しようとするのだ。

この時のモノローグは、フランケの内面をよく示している。
彼は傷つき、欠損しているものに耐えられない。
決して壊れることのない強固さと、それから美しさを持つものに
憧れる。割れたビー玉を嘆いて語られるこのせりふにより、
雪子への手術の動機が見えてくる。生理を排するその手術によって
雪子はガラスの身体を手に入れ、永遠の少女として美しさを
生きる。手術に込めたそういう願望が見えてくる。

・・・長くなったので、続きは明日。

9/23(祝月)『少女都市』本読みWS 第2回

2024年9月23日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑『ガラスの少尉』を上演した時、ガラス工場を体験しに行きました。
『少女都市』のガラス工場もこんなイメージです


昨晩の本読みでフランケ醜態博士が登場しました。
いうまでもなく「フランケンシュタイン」をもじったこのキャラクター
こそ、この『少女都市』の最重要人物です。そして、このフランケの
置かれている状況を正しく理解し、彼の心情を正確にとらえることが
新しくて、それでいて本来の『少女都市』『少女都市からの呼び声』を
読み解くための重要なカギになると考えています。

昨晩のストーリーを要約します。

ガラス工場の事故により3本の指を失っている雪子は、
兄の心配をよそに平然としています。ガラス工場の主任であり、
フィアンセでもあるフランケ醜態とともにビジネスに邁進していると
胸を張ります。そして、自身の体をガラス製品に改造していることを
伝えます。まずは性器から。自身のガラスのヴァギナをアピールして
みせます。

当然、兄は驚きますが、雪子は自分がガラス化していくことに
希望を感じている風です。生理現象や母親になることから遠ざかり、
ガラスの少女になるのだ、観念の結晶になるのだと強弁して胸を張る。

兄とすれば、どこかいかがわしい。
そういう中で、雪子をガラス化に導くフランケ醜態が登場します。
彼の紳士的な挨拶に兄が圧倒されているうちに、友祈子は手術中の体を
軋ませながら去ります。こういうところは『ガラスの動物園』の
ヒロイン・ローラの影響です。

雪子が去ると、フランケ醜態は兄を翻弄し始めます。
詭弁を用いたり、怪しげなサイコロ勝負を挑んでは兄を追い出そうと
します。それはフランケが、自分と雪子の世界に兄を入らせまいとして
必死にやっていることだという事業が、後で知れます。

フランケの呼び込んだ町の女たちは、生理や出産に関わる女性の
苦しみを歌い、さらに海の上の孤島に舞台空間が変化すると、
フランケが行う花火の光の中に、堕胎されて苦しむ子どもたちや
中絶した子どもらに苛まれる女の苦悩が浮かび上がります。

果ては、『少女都市』のオリジナル・キャラクターである
上海ママが登場します。彼女は男性が演じる女性役なのですが、
それゆえに自分が決してなることのできない母親への憧れを強く
押し出したり、開き直って男娼である自分をアピールします。
一見すると突飛で面白い登場人物である上海ママは同時に物語を
混乱させます。

この後、身体障害を持つフランケと雪子がガラスに憧れる物語世界の
中で、上海ママがどのような役割を果たしていくのかを見極めることが
重要です。来週には『煉夢術』でおなじみの人体模型も登場して、
場が混乱します。混乱するけれど、大局を見失わないようにしましょう。

次回は9/29(日)です。

9/18(水)これを読むべし!〜『ガラスの動物園』

2024年9月18日 Posted in 中野WS『少女都市』
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一昨日、昨日に引き続き『少女都市』の話題です。
この台本を追究するにあたりぜひ読んで欲しい本をご紹介します。
その筆頭は、表題の『ガラスの動物園』です。
アメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズの代表作のひとつ。

唐さんはこの本が好きで、ヒロインのローラをベースに『少女都市』の
雪子を書き、ローラが大切にしているガラスのユニコーンを題材に
『ユニコン物語 台東区篇』を生み出しました。

ローラは、内向的な少女です。
その象徴が、彼女が密かに眺めているガラスのユニコーン、
これがガラスの動物園であり、それは、欠損の無い美しさを
示しています。

ローラ自身は自身の脚が悪いことをコンプレックスにしています。
それが原因でアメリカ人少年少女の必須科目であるダンスを
踊れずにいます。社交界に気後れを感じているというキャラクターです。
身体に抱えた不具合、内向性、片足を引きずるところ、
それでいてガラスの美しさに憧れることろ、すべて雪子の
モデルになっています。

幸い、新潮文庫の小田島雄志先生翻訳版は値段も安く
手に入りやすいので、おすすめです。これこそ、『少女都市』に
臨む際に押さえていただきたい資料の筆頭です。

9/17(火)『少女都市』本読みWS 第1回 その②

2024年9月17日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑戦争後に街に立った傷痍軍人たちの姿をよく心に留め、思い起こし
ながら「老人たち」の描写を読みましょう


初回WSで読んだ内容に入ります。
一昨日は全94ページ中、14ページを読みました。
『少女都市』は『煉夢術』に引き続きて各幕が「場」に分かれており、
唐十郎作品としては珍しい構成をとっています。
昨日はプロローグと1幕1場・2場を読みました。

まずプロローグ。少女(雪子)が登場し独りごちる。
彼女が階段の上にいることから、何やら塔の上を想起させます。
すぐに『オテナの塔』を歌うので、なおさらその感興が高まります。

次に1幕1場、すぐさま男(雪子の兄)が彷徨う場面です。
男の目の前に老人たちが現れ、大正琴を弾いて物乞いします。
これは、戦後の傷痍軍人たちを意識したシーンです。
この「傷痍軍人」というモチーフは重要ですから、
上演の際は役者たちの造形に気を配りたいところです。
次回以降で触れますが、これは「フランケ醜態博士」という存在への
強い伏線です。

男は10円玉を投げるのと引き換えに、老人たちから妹の情報を
聞き出します。オテナの塔に彼女はいるらしい。

続いて1幕2場。男と妹・雪子が対面します。
兄に行き先を告げることもなくここにやってきた雪子は
ガラス工場の主任と一緒に出張に来たのだと説明します。
どうやら長期の出張らしい。

一方で、兄のだらしなさが会話の端々から聞き取れます。
会社のお金をちょろまかしてクビになったり、他人の保険証を
使って医者に行ったり、妹を探していたのは金を無心したがって
いるフシも見受けられ、とにかくだらしない男であることが
露呈していきます。

その最中、雪子が工場の事故によって指を三本失っていることが
わかります。兄としてショックを受けますが、本人は至って前向き、
雪子自身は落ち着いています。

兄としての情けなさが身に沁みたところで、初回は終了。
次回はフランケ醜態が登場します。

9/16(月)『少女都市』本読みWS 第1回 その①

2024年9月16日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑学藝書林から出版された『少女仮面 唐十郎作品集』。ここにも
『少女都市』が掲載されています。1970年3月5日発行。

昨晩から『少女都市』の本読みがスタートしました。
よくよく考えれば、『少女都市』にちゃんと向き合ってきませんでした。
『少女都市からの呼び声』が人気作品である一方で顧みられることの
ないオリジナル版ですから、私としても力が入ります。

昨日は初回ですので、まずは執筆の背景から。
この芝居の初演は1969年12月です。

先行して『少女仮面』が早稲田小劇場により公演されています。
1969年10月中旬から12月まで。これは週末ごとの上演であったようで
それが鈴木忠志さんの劇団運営だったでしょうし、稽古場兼劇場を
持っている強みであったとも言えましょう。
評判がたてばお客がやってくる仕組みともいえます。

唐さんが他団体に書いた『少女仮面』の向こうを張って『少女都市』
に着手したのは明白です。『特権的肉体論』の中で「少女」を論じた
唐さんにとって、自分なりのテーマを手を変え品を変え展開して
みせたのでしょう。要するにそれは日本論でもあります
様々な他人が通り過ぎるのを強かに受け入れながら初心を装う。
そういう共通点で唐さんは「少女」と「日本」を語ってみせます。
「都市論」は、変貌を遂げる東京を生きる当時のインテリの
流行り言葉であったでしょう。

具体的な執筆時期としては、1969年7-9月に行った南下&北上興行の
途中、東京に帰ってきた後の10月頃が考えられます。
『少女都市』という台本はあまり緊密とはいえませんから、
少し時間不足だったかもしれません。

しかし、『少女仮面』を理解すると『少女都市』の特性がよく見えて
きます。後に『少女都市からの呼び声』を書くことによって、
唐さんはこの問題を解決にかかったように自分には思えます。

また初日明けた翌週に起こした寺山修司さんの天井桟敷との
乱闘により、唐さんが警察に引っ張られた結果、ただでさえ少ない
公演回数がさらに減ってしまったことも評価の定まらない原因と
考えています。当初は12回公演でしたが、これが少ない10回に
なってしまった。

警察に捕まらなかった大久保鷹さんが、あの時はお客に
公演できないことを謝ったと伺ったことがあります。
唐さんが復帰してからはかなり盛り上がったでしょうが、
スキャンダルへの喝采の陰に作品への評価が隠れてしまったことも
容易に想像がつきます。

そのようなわけで、恵まれない『少女都市』に光を当てましょう。
具体的な内容はまた明日!

9/14(土)明日から『少女都市』

2024年9月14日 Posted in 中野WS『少女都市』
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↑『少女都市』初演時のポスターデザインは赤瀬川原平さん


明日から『少女都市』の本読みWSがはじまります。

近年では改訂作である『少女都市からの呼び声』の評判が高く、
これには、ずっと上演を続けてきた新宿梁山泊の金守珍さんの
功績が大きく影響しています。

その後は、私たち唐ゼミ☆も上演しましたし、唐組の久保井さんも
横浜国大の大学生たちと『少女都市からの呼び声』に取り組み、
やがて2023年に下北沢で行われた唐組新人公演にも結びついています。
ハヤカワ文庫から、『少女仮面』『唐版 風の又三郎』とともに
収録されて、現在では確実に唐十郎の代表作の一角を成しています。

が、オリジナル作品である『少女都市』そのものは、
絶えて顧みられることがありません。そもそも、ある理由から
初演時も上演回数が少なく、記録があまり残されていないのも
原因かもしれません。でも、だからこそ、今回を通じて参加の
皆さんとともにその真価を見極めてみたいと考えました。

前5回かけてこれを読み、その先は『少女都市からの呼び声』も
通読します。『少女都市』は本当に忘れられて良い作品なのか。
両作品はどこがどう違うのか。例えば、「その日は海が荒れていた」
というなかなかの名曲が『少女都市』にはありますが、
改訂の時にこれを失ってしまったのは損失ではないのか。

そういったことを検証していきます。
『少女都市からの呼び声』ファンの方はぜひご参加ください。
それから、『少女仮面』が好きという方も、対抗して作られた
オリジナル『少女都市』の魅力を味わってください。
では、明日!