7/25(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 第13回レポート(中野)
↑本物の伝治が登場して、ニセモノが暴かれる。胸には骨壷。
その中身は本物の薮野一家の骨。しかし、こんな格好で働いている人は
この世にいないだろう。これも唐十郎流のギャグ(撮影:伏見行介)
昨日は『蛇姫様 わが心の奈蛇』WSでした。
謎解きが立て続けに展開し、劇の興奮が高まっていくシーンです。
唐さんの筆も乗っているし、その勢いに任せて読んでいけば面白い。
けれども、ところどころ、唐さんの強引すぎる設定を味わいながら読むと
さらに面白い。もちろん、唐さんは、そういうことをわかって書いています。
辻褄の合わなさをシャレにして笑い飛ばしています。
まず、二つの映像を見るところから始めました。
天知茂主演 明智小五郎VS怪人二十面相の予告編
https://www.youtube.com/watch?v=DU2nSdNmYY4
片岡千恵蔵主演 多羅尾伴内シリーズ 正体を明かす場面
https://www.youtube.com/watch?v=xkheg50m3rw
これらを観ておくと、唐さんが思い描いたノリや
造形がよく見えてきます。両作とも、演技が二枚目すぎて笑いの域に
達しているので、おもしろ動画としても楽しめます。
その上で、
ドラゴン=鏡 という引用元不明の理論。
小林と伝治の対決による、小林の敗北。
バテレンの加勢が序盤。
というシーンが展開。
そしてここから、バテレンの壮大な謎解きが始まります。
まとめてみると、
①伝治はニセモノである
これまで伝治を名乗ってきた男はニセモノだと暴かれる。
彼は白菊丸に乗って密航した男で、当時は12歳。
シノが輪姦されるのを見ていたに過ぎない。
ちなみに、バテレンは従軍牧師として乗船していた。
②本物の"伝治"は日本人
小倉で乳飲み児(あけび)を抱えた恩人
シノを世話した。その東京に出て薮野一家の居候をしていたが、
脳卒中で倒れ、今は半身に障害を抱えてバスの整理係をしている。
シノが送った写真を、自分のニセモノになる男にユスられる
③薮野一家もニセモノである
大きい兄ちゃん(蛇)、文化や青色申告、知恵も密航者。
三年前に死に絶えた床屋の薮野一家を乗っ取った。
内縁は、もともとの薮野一家で生き残ったお婿さん、
だから文化たちを恐れている。
④白菊丸で起こったこと
シノが輪姦されたことは間違いない。
しかし、ニセモノ伝治が加わっていたかは不明。
バテレンは、当時12歳だった少年にそれは無理だという。
一方、ニセモノ伝治本人は満15歳だったと主張。
そのため、相変わらず自分はあけびの父親かも知れないと強硬に主張。
真の名前は「李東順(りとうじゅん)」
※唐さんによる「李東順」という名の引用元は不明
・・・と、このように、さまざまなロジックが展開します。
シリアスとコミカルが激しく交錯して、真剣なのかふざけているのか
分からないのがポイントです。劇的なやり取りが連続しながら、
あけびの出生がますます謎めいたことは確かで、
だからこそショックを受けた彼女は三度目の癲癇の兆候を見せます。
次の7/31(日)で最終回。かなりの力技で大団円に突入します!
7/18(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 第12回レポート(中野)
↑兄貴と慕う小林と泣く泣く闘うタチション(左:重村大介)
今は唐組で頑張っている重村の当たり役のひとつだった。
『海の牙 黒髪海峡篇』の番頭、『ジョン・シルバー』の小男も良かった。
(撮影:伏見行介)
昨日は3幕の中盤から終盤に差しかかるところをやりました。
これまでの登場人物が集まり、舞台上がどんどん賑やかになります。
帰化にあたり、あけびの母親役を担うのは、薮野一家か小林か、
これをめぐって敵役が増えていく。
まずは、小林VS薮野文化+青色申告
敵役たちは腕力に任せて余裕を見せます。
青色申告が擬音で迫るところがおもしろい。
無意味、ナンセンス、こういうところに唐さんの筆が冴え渡る。
さらに、権八(伝治)一家が入ってくる。
伝治に歯向かうも、あっという間にヤキを入れられ、
指を詰められた姉妹が猛省しています。
他方、言葉巧みな伝治の上をいくタチションの口八丁が炸裂し、
改めて、後継ぎはタチションでいこうとまとまる。
あけびは、どちらのハンコで帰化しようか迷います。
気持ちとしては小林でいきたい。しかし、彼のハンコを押すためには
小林の腕を傷つけなければならない。そのことに気後れする。
そうこうする間に、伝治にけしかけられたタチションと小林の
対決が始まる。不本意だったタチションも、あけびの方ばかり向く
小林に渡されたパン切り包丁を向けます。
兄貴分である小林のため、伝治の跡継ぎになって店の権利書を
手に入れ、それを小林にプレゼントしようと思っているのに、
当の兄貴はあけびに首ったけで全然こちらを相手にしてくれない。
その不満が、タチションを小林との対決に向かわせます。
が、そのさ中にタチションが放った「転換」という言葉が
偶然にも、小林を傷つけまいとするあけびの躊躇を振り払います。
転換=テンカン=癲癇と聞こえたあけびは、
思わず小林の腕を傷つけてしまう。結果的に、帰化の申請書類は
小林の捺印でまとまり、伝治一家・薮野たちは敗北します。
そして、更なる攻勢をかけろと命じる伝治を、タチションが裏切る。
自分の初回の攻撃に傷ついた小林の姿を見たタチションは
やはり兄貴についていこうと思い直します。
これで、小林とタチションの同士討ちは終わります。
次回は、あけびと伝治の頂上決戦に進みます。
姫であるあけびが、暗黒の父親に挑むという格好です。
激しく悲痛で、バカバカしい闘いが巻き起こります。
7/11(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 第11回レポート(中野)
↑シノとあけびの対話。シノ随一の見せ場である(撮影:伏見行介)
難所だった前回を経て、昨日はまたもとのペースで物語が進み始めました。
3幕の中盤です。
あけびが小倉に戻って死体処理と朝鮮半島への輸送に反対していた
小林ですが、その際に必要な帰化手続きを巡って、彼の心が揺らぎます。
日本人の身元引き受け人として、あけびは小林を指名したのです。
それはつまり、最も心の許せる相手であるという告白に他なりません。
さらにあけびは、1幕で切り落とされた小林の指を大切に
保管していました。そして、それを書類に押すハンコとして
使わせて欲しいと小林に懇願します。
それに感じ入り、自らの血を印肉として捺印を完成させようと
小林は提案。写真ボックスの傍に落ちていた三角形のガラス破片
(『唐版 風の又三郎』3幕とまったく一緒の小道具!)
を用いて、傷口から血を得ようとします。
・・・ちょっとグロテスクなシーンです。
が、ここにはハンコというものの本質があります。
ハンコとはもともと、骨と血を以って誓いをたてる呪いめいたもの。
二人の結びつきが強まります。
と、ここにタチションが飛び込んでくる。
ガラスの破片とはいえ刃物ですから、あけびが小林を傷つけようと
していると思って、兄貴分を助けようとしたのです。
(ここは、本作第2幕の終盤と一緒)
しかし、助けに入り、手に入れたバー箱師の権利書を持ち出して
二人で探偵事務所を立ち上げようというタチションを、小林は拒絶。
それだけあけびとの結びつきが強まっているとはいえ、小林を慕って
ここまで尽くし、しかも袖にされるタチションは可哀想です。
そこに、タチションを恨む権八の弟子たちの邪魔だてもあり、
舞台はまた小林とあけびに。今度こそ帰化の手続き書類を完成
させようとする二人に、今度はシノや薮野一家が割って入ります。
薮野一家が千恵の身体を使ってあけびの母・シノを操り、
薮野のハンコを使ってあけびの帰化を果たそうとする。
それによって将来の利益を得ようとする。
ここは、シノの見せ場で、薮野一家に脅かされながらも、
彼女は心の内で娘のあけびに小林という仲間ができたことを喜び、
あけびが自由に生きていくように願います。
薮野一家のハンコを使ってはいけないとメッセージする。
・・・というシーンまでをやりました。
面白かったのは、参加者の中にはこの台本が初めて掲載された
雑誌「新劇」をチェックしながら参加してくださっている方がいて、
シノの見せ場については、書かれていないことを指摘してくれました。
要するに、執筆時の唐さんは、
暴力されながら娘の幸せを願うシノのクドキを初執筆時には
書いておらず、稽古や上演の中で付け足していったことがわかりました。
この役は映画界のスターである清川虹子さんをゲストに招いて
上演した記録があるので、きっと清川さんに合わせて書き足されたものと
推測します。一方、舞台上で彼女をリンチしていることには変わりなく、
この辺が唐さんと清川さんの付き合いの面白いところだと思います。
あと、3回で終了。
クライマックスに向けて、物語が加速します。
7/4(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS10回レポート(中野)
↑かつて、小学校にはバケツを持って廊下に立つという罰があった。
そういう話をして盛り上がったのも、時間が押した原因かも。
劇団の稽古もそんな感じです。脱線なくして良い本番なし。
(写真:伏見行介)
昨日は難所につき、いつも20ページを目安にしている
進行ペースを大幅に下回り、約10ページを進めるのがやっとでした。
それほどまでに昨日のシーンは難しかった。
場面は3幕中盤の、小林とあけびが再開するところ。
主人公二人の会話だけで15ページほど続く箇所です。
ここは要するに、2幕で仲違いし夢破れた二人が、
もう一度お互いの目標を設定し直し、協力し合うまでを描く場面です。
この会話を成立させる、駆け引きがとにかく難しい。
初め、挨拶だけして小倉に去ろうとしたあけびを
気のふれた振りをした小林が引き止めます。
そして、1幕で約束した探偵事務所の話題を持ち出し、
あけびの出自がわかり、「蛇姫様」などと浮かれるにはあまりにも
過酷な出生を引き受けた上で、二人の夢をやり直したいと希望する。
それを受けたあけびは、探偵事務所のパトロンになると宣言する。
当然ながら、小林はよろこびます。探偵事務所を開いて、
二人の目標である白菊谷、そこに咲く黒あけびを探そう。
そうやって、再び意気投合する。
ところが、今度はその方法が問題となる。
あけびが目当てにしている資金調達の方法から、
彼女が身支度をして小倉に帰ろうとしていた理由が明らかになります。
それは、朝鮮戦争の終結に伴うキャンプ・ジョーノの解体による
最後の死体処理業務に従事するという仕事でした。
しかも、処理する死体とは、朝鮮半島から誤って運ばれた現地の人々の
それということも分かる。つまり、
①朝鮮半島→②北九州→③アメリカ→④北九州→⑤朝鮮半島
という長時間を経ながらあっちこっちを行き来した死体について、
④⑤の過程のエンバーミング・輸送という仕事だったのです。
従来のアメリカ兵に関する仕事よりさらに過酷。
それゆえに小林の探偵事務所を支え得る高ギャランティが期待されるも、
それを聞いた小林が、今度は止めにかかる。
という具合に、それぞれが相手を思いやりながらも、
犠牲や力の無さゆえに起こるチグハグ、足並みの揃わなさを
ほんとうに丁寧に追いました。
こういう場面をなんとなくでやってしまうと、
お客さんが主人公とヒロインの関係を形式的にだけ追うことに
なってしまいます。これから迎えるエンディングを心から
感情移入してもらうために、まるで公演を想定した稽古のように
丁寧にやりました。
思えば、2010年に唐ゼミ☆で上演した時も、
ここの場面の稽古には時間がかなり時間がかかり、
けれども、その分だけ身入りが大きかった。
終わった後に充実感がある、良いWSができました。
オンラインWSとしてはやりすぎたかも知れないけれど、
参加者の皆さんに感謝です。会話に終始した今回でしたが、
次週はタチションが加わって賑やかになります。
6/27(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS 9回レポート(中野)
6/20(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS8回レポート(中野)
6/13(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS7回レポート(中野)
6/6(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS第6回レポート(中野)
↑わらじを頭に載せる。汗の量がすごい初夏の芝居(写真:伏見行介)
昨日は本読みワークショップでした。
二幕も半ばに差し掛かり、再び再開したヒロイン・あけびと小林が
"蛇姫様""白菊谷""黒あけび"にまつわる妄想を育むシーンです。
冷静に考えると、二人は二十歳を過ぎているわけですし、
かなりイタい大人の男女だとも言えます。
が、
一人は小倉から出て来たばかり、床屋見習いのてんかん持ち、
しかも自分の父親や亡くなった母の出自もよく分からない。
一人は、グレてスリに手を染めたところ、指を詰めさせられた
パチンコ屋の新人店員ということで、なかなかに過酷な現実を
生きています。
こうして二人で蛇姫様ごっこしていないとやっていられないよ!
という彼らの切実な願いは、唐十郎ファンなら誰しも共感できるはずです。
それに、このシーンは全体のキモです。
小林が妄想する白菊谷の描写、暗いところに沢山のヘビがウネウネしている。
直視できないほどの不気味さゆえに、Barハコシ開店お祝いの鏡を使って
間接的に見なければならないほどの光景のおぞましさ、
という伏線が、劇の終盤で明かされるあけびの出自に繋がっていきます。
現実には、Barのセットの中で二人が探検ごっこしているだけなのですが、
この妄想をお客さんに共有してもらうことはかなり大事で、上演する側と
しては難所でもあります。てんかん予防にワラジを頭に載せて冒険する
あけびは可愛らしく、これも楽しんで欲しい。
さらにその後、伝治が登場してエンバーミング=死体化粧の
何たるかを語り始めると、舞台は一転、闇の雰囲気に包まれます。
朝鮮戦争時代の小倉に現れた凄惨な死体処理現場が
唐さん一流の長ぜりふによって想像力の中に現れる。
この陰と陽の目まぐるしい切り替え。
参加者の皆さんも心得たもので、コミカルの中にあるシリアスと
シリアスの中にあるシリアスを縦横に操ってもらいました。
ことばの力を借りて観客を弄ぶ快感。役者に弄ばれる観客の快感。
それらを同時に味わえる名シーンです。
あけびの床屋修行が、実はエンバーミング修行であったことも分かる。
次週は、そんなあけびが一人前の死体化粧師になり、
テレビ各社の取材が殺到するという奇想天外な場面からいきます。
大河ドラマ『黄金の日々』を翌年に控えた唐さんの露骨なまでのHNKびいき。
これが炸裂する洒落っ気に満ちたシーンです。
途中参加でもかなり楽しめます。ご興味ある方はぜひ!
5/30(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS第5回レポート(中野)
↑チーズの栄養で傷口もすぐに塞がる、と素朴に信じているタチション。
唐ゼミ☆2010年初夏『蛇姫様 わが心の奈蛇』より(写真:伏見行介)
昨日は『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWSでした。
主に取り組んだシーンは2幕の序盤から中盤に差し掛かるところ。
新規開店した「Barハコ師」の営業研修が落ち着いたところで、
主人公である小林・あけびが立て続けに登場し、物語が本筋に戻ります。
冒頭に取り組んだ権八・伝治の一人二役がバレる場面は、
ドリフや吉本新喜劇のように、古典的にコミカルなシーンです。
しかし、その中にはさりげなく、
薮野文化がヘビを「知らない兄ちゃん」と呼んで、
自分たちがヘビ一族(日本人ではない)だと暗示するシーンや、
権八が「あたしだって、真の、真の海をみつけたいの! 」と
真情をダイレクトに明かすせりふが隠されています。
ドタバタの面白さの中にこういう細部も余さず表現しきる面白さ、
それによって完成する劇世界の豊かさについて説明しました。
それに全体の流れの中でも各々が好き勝手やっている状況を作ると、
劇が活き活きとする。唐さんの得意技のひとつがこういう仕掛けです。
それから、パチンコ店に就職した小林がやってきて、
タチションとの会話になります。タチションは小林に対して甲斐甲斐しい。
客の残したチーズを食べて傷を直し元気を出すよう小林を励ましますが、
当の小林の頭の中は姫と思い定めたあけびでいっぱいです。
このあたりのすれ違いが、タチションを健気で魅力的にします。
そこへさらに、床屋で働き始めたあけびがやってくる。
結局、
あけび-床屋、小林-パチンコ屋、タチション-Barハコ師
それぞれの場所で修行に入った彼らはいずれも不遇です。
そこであけびと小林は、二人でつくり上げた「蛇姫様ごっこ」に
さらにのめり込むことで、現実逃避しようとする。
このあたり、私たちが劇や音楽や映画や小説やマンガなど、
虚構の世界に託す思いと一緒です。
こちらの方により自分の真実があるんだ!
そういう思いでこのワークショップもやっているところがある。
皆さんのような仲間がいると、さらに幸せ。
しみじみとそんな話をして散会にしました。
来週は、主人公たちのところに敵役の伝治が現れるシーンに進みます。
唐さんの3幕ものは間違いなく2幕が面白い。
それを地でいく場面の連続です!
5/23(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS第4回レポート(中野)
2010年初夏 唐ゼミ☆『蛇姫様 わが心の奈蛇』より1幕の終わり
(写真:伏見行介)
昨日は本読みワークショップ。
皆さんと一緒に『蛇姫様 わが心の奈蛇』を追いかけています。
前回、主人公の小林青年がヒロインあけびに惚れ込む場面を
やりました。まむしの毒におかされた弟分タチションを危険を
顧みずに救うあけびに、小林は惚れ込む。
一方、自分の右腕にある大アザを気にしていたあけびも、
それをステキだと誉めちぎる小林に絆されます。
ステキな蛇のウロコのようだと絶賛する小林のコメントが
ヒントになり、二人の蛇姫様ごっこが始まる。
少年探偵団のリーダーを自認する小林は、
あけびが母より聞かされた「白菊谷」を目指す冒険に惹かれます。
母の日記に書かれていた「はんにゃか ほんにゃか」という記述を
ヒントに、二人は共通の目的地を見出します。
「はんにゃか ほんにゃか」とは、要するに読み解けない文字である
ということ。これが終幕に向かう伏線として後半に生きてきます。
小児病的な世界が本作は面白い。
スリ崩れの二人、小林はあけびを「姫」と呼び、
あけびはすっかりその気になって自分を「わらわ」と言う。
時代劇を真似して遊ぶ言葉づかいが楽しい。
と、薮野文化が乱入します。劇冒頭に行われていた葬式の後、
亡き兄を火葬にしようとするのを押し留め、水葬にすると言い張る。
これは、彼らの出自に原因があり、朝鮮半島から日本に渡った文化の、
故郷に向かう海に兄を帰したいという思いは切実です。
さらにそこへ、伝次が帰ってくる。
しかも、あけびを母の名である「シノさん」と呼び、
この伝次こそ、母の日記を頼りにあけびが探してきた男だと分かる。
若き日、あけびの母であるシノとともに死体輸送船「白菊丸」に乗り、
半島から日本に渡った密航者だということも明らかになる。
母が語った「白菊谷」が、死体輸送船の名に由来すると知った
あけびは、持病の癲癇(てんかん)の発作を起こします。
舌を噛まぬようスプーンを咥えるあけびに、
小林は「姫!」と叫び続けます。
これで1幕が終了
変わって2幕。銭湯の跡地にあった藪野家の床屋は様変わりし、
今はスリ集団・権八一家の経営するバー箱師になっている。
「箱師」、つまり電車など乗り物専用のスリの名を冠するだけあり、
ここはお客から財布を摺ることで儲けを得る飲み屋。
なぜか、1幕で権八一家にヤキを入れられたタチションは
この店に入店し、一家の中でのし上がろうとしています。
あるいは、小林があけびに執心するのが、寂しいのかもしれない。
一家が営業&スリの稽古に明け暮れていると、
土地を乗っ取られた薮野一家が抗議に現れます。
しかし多勢に無勢、権八たちの勢いに押された薮野文化は
1幕終わりに登場した伝次を呼び出します。腕っぷしの強そうな伝次。
果たして彼は、薮野一家の加勢に現れるのか。
続きはまた来週!
5/16(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS第3回レポート(中野)
5/9(月)『蛇姫様 わが心の奈蛇』本読みWS第2回レポート(中野)
↑前にも紹介したような気がするが、やっぱりこれが象徴的な場面。
2010年初夏 唐ゼミ☆『蛇姫様 わが心の奈蛇』より
『蛇姫様 わが心の奈蛇』WSの2回目でした。
昨日の主眼は、初回から登場したヒロインあけびに対し、
青年の主人公である小林が登場することです。
彼のあだ名は「山手線」。
新米スリの「山手線」と、その弟分である「タチション」が働いた
電車内でのスリ被害者こそ、小倉から上京したてのあけびだったのです。
小倉から亡き母の日記を頼りに父を訪ねて東京にやってきたあけびは、
その日記を取り返すべく、スリ稼業に入ったことも判明。
片や引き金になった「山手線」こと小林も、もとは少年探偵団に
憧れる正義の元少年で、根っからの悪人でないことがわかります。
謎めいた日記を持ち主に返すべく、盗品を返却して回る日々を
送っていたのです。他方、スリの権八一家は彼らの縄張りを
荒らす山手線とタチションを捕まえにかかる。
と、ここまでが昨日の進捗でした。
「小林」というありふれた苗字を根拠に自らを少年探偵団だと
言い張る。タチションのあまりに子供じみたて下品な登場。
それから、小倉出身のあけびの方言がチャーミングな台本だ。
唐さんはけっこう方言を愛して使い切る。
この戯曲では、東京弁と小倉の方言と、原作『蛇姫様』に
あやかった時代劇言葉が入り乱れる。魅力的なので、
皆さんと愉しんでいきたいと思う。
毎度おなじみ女二人組みによる
『黄色いサクランボ』の替え歌『黄色いバスケット』も含め
ウキウキした場面の連続だ。やっぱり70年代後半の中で
随一の作品だと思う。
あけびと山手線が初めて交錯した時のスリ合いによる
紐の交差は、この劇を象徴するビジュアル的な名シーンであり、
それはエンディングにもつながっていく。
来週は、権八組に山手線とタチションが折檻される。
その残酷さと風変わりなおかしみ。結果的に山手線・タチションと
あけびの3人のチームが完成する場面でもある。楽しみ!