3/14(火)ふたつの『秘密の花園』本読みWS(中野)

2023年3月14日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
IMG_1189.jpg
↑唐さんは何を考え、どう行動したのか。二つの版の変化には、
その表れを発見することができます。

昨夜は本読みワークショップ。これぞ唐ゼミ☆という特集が出来ました。
ここ2ヶ月半かけて『秘密の花園 初演版』を読みこなしたところで、
1998年以来唐組が何度も上演してきた改訂版とどこが違うのか、
検証する回をやったのです。

同じ台本の版の違いを比較して味わう、
というニッチ極まりない企画ですが、かなり盛り上がりました。

結論から言うと、
唐さんが改訂版にあたり注力したポイントは、
劇中の「姉」の存在感を増すことにあります。

初演では単に「医師」だった役を「野口医師」とし、
野口医師に得意の精神分析学を語らせることで、
恋人いちよと姉もろはを同時に求めるアキヨシの無意識、
アキヨシを突き動かす欲動に迫っています。

ラストシーンでは、姉もろはは恋人いちよは
別の女優の肉体として具体的に現れ、姉の存在を押し出します。

初演版では、首を吊った大貫、いちよ、アキヨシ、ネンネコ男
が二幕のクライマックス暗転時に舞台上にいたのに対し
唐組版では、そこに野口医師と姉もろはが加わり、
舞台上のカオスの度合いを高めます。

舞台のより多くの人物が入り乱れることで同時多発的に人々の想いが
交錯し、観客に同時多発的に襲い掛かります。

こう変化した理由として考えられるのは、
第一に唐組版が「劇団の表現」だからです。
野口医師を演じた金井良信さん、姉もろはに藤井由紀さんを配して、
集団戦で攻めるのが改訂版の特徴です。

対して初演版は、
いちよ&もろは=緑魔子さん、アキヨシ=柄本明さん、
大貫=清水紘治さんの三人に物語を結集させる。
そういう行き方の違いです。

参加者の中には純度の高い初演版を偏愛する人が多かったですが、
「劇団の表現」を追究する唐さんの姿勢や生き方を語り合うことで、
「作品」や「完成度」を超える劇団の運動体としての面白さに
触れられたとも思います。
自分もまた「劇団」の表現について考える機会になりました。

今回は月曜での開催、しかもかなりマニアックな回だったにも
関わらず皆さんが参加してくださったことに感激しました。

来週からは『愛の乞食』をやります。
また一から、ひとつの作品を丹念に追いかけていきます。
『ジョン・シルバー』シリーズの解説も加えて、
わかりやすくお届けします。では、また来週。
3/21(祝火)の開催です!

3/8(火)『秘密の花園』本読みWS 第9回レポート その②(中野)

2023年3月 8日 Posted in 中野WS『秘密の花園』

download-1.jpg

↑漫画ベルセルクより。「・・・・・・・・」部分に来る言葉は?



『秘密の花園』終盤を読んでいて特に印象的な場面があります。

劇の中に出てくる雨音や汽笛によって、アキヨシのせりふが

掻き消されてしまう場面です。


掻き消されてしまうので、台本を読む人はアキヨシが何を

言いたかったのか、類推する必要があります。彼は何を言ったのか。

前後のやりとりをヒントにしながら、彼らの真理を読み、

また、私たちの人生を総動員してせりふを推し量るのは愉しい。


実際、ワークショップに参加した皆さんの意見を聞きながら

何が相応しいか、考えました。それはこんなやりとりです。


アキヨシ (それを持って、ゆっくり、いちよを見上げる)

いちよ そうよ。その人が、いちよさん。

アキヨシ ―

いちよ そして、あたしは、あんたの心の、秘密の枯れ葉。

アキヨシ もう。

いちよ たくさん?

アキヨシ いえ、もう―

 

偶然の凄き雨音。

 

いちよ (耳をそばだてる)

アキヨシ (何か言っている)

いちよ (聞こえない)

かじか (49段式に乗ってかまえる)


以上。これが二幕のクライマックス部分。

また、エピローグにはこんな場面もあります。


姉 どお?

 

煙を吹かす。

 

アキヨシ  え?

姉 こっちから、見おろすと。

アキヨシ なにがです。

姉 あの町。

アキヨシ 秘密の花―

 

汽笛。それで、後は聞きとれない。


以上。二箇所。


一番目はかなり重要です。

アキヨシは「いえ、もう―。」の」部分に何を言ったのか?


問題は、このやりとりを聞いていたアキヨシの恋のライバル・

かじかが、自転車を構えることです。つまり、それまでは強く

結ばれていたアキヨシといちよの間に亀裂が生じたからこそ、

かじかは自分にチャンスが訪れたと見て、

荷台にいちよを乗せて二人乗りで駆け出すべく自転車を構える。


ということは、この」部分には、

いちよの心象を損ねるアキヨシの発言があったということです。


この時、いちよは執拗にアキヨシに迫っていました。

アキヨシが自分に向ける好意は、姉もろはへの恋慕の代わりではないか。

本当は自分ではなく、姉もろはを好きなのではないか。


ネンネコ男が連れてきた顔を見えない半裸の女を前にした時、

アキヨシにはさらに強くこの二者択一が突きつけられます。


......自分(中野)としては、ここには「わからないんです」

という言葉が入るのではないかと考えています。


「いちよ」と答えたらいちよの心証は害さない。

「もろは」とはっきり答えられるほど、アキヨシは決然として

いないはず。そこで「わからない」という答えを考えました。

混乱している。見分けがつかないでいる。自分でもわからない。

人間の正直とは、こんなものではないでしょうか。


・・・東出昌大の記者会見を思い出します。

「奥さんと不倫相手のどちらが好きですか?」

という記者の質問はなかなかの難易度です。


二番目の方は簡単で、これは「秘密の花園」と言ったに

違いありません。ただし、一番目があったことで、

これはとても印象的な場面になります。

一番大切なことを言おうと勇気を奮った時に、

これを伝えきれないもどかしさが、

『秘密の花園』という芝居の哀切さを高めています。


そういえば、まだ唐ゼミ☆が横浜国大にいた頃、

『ベルセルク』という漫画が流行ったこともあります。

あれにも、大変に有名なシーンがあります。


主人公であるガッツとグリフィスの関係が進退極まった時、

グリフィスは何を言ったのか。雑誌の連載時には掲載され、

単行本収録の際にカットされたせりふが有名です。


カットされると読み手はますます気になり、色々と考えを

めぐらせる愉しみが生じる。本読みの魅力のひとつです。

3/6(月)『秘密の花園』本読みWS 第9回レポート その①(中野)

2023年3月 6日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
岡山駅で_230306.jpg
↑投稿内容とまったく関係ありませんが、生まれて初めて岡山に来ています

昨日、日曜日は恒例の本読みワークショップ。
昨晩はずっと読み進めてきた『秘密の花園 初演版』を最後まであたりました。

前回、迫りくる東京大洪水(大雨による)を前に、アキヨシにとって
いちよともろはの見分けがつかなくなっていくシーンを読みましたが、
その混乱はラスト20ページ至って頂点に達します。

登場したのはネンネコ男。
劇全体のプロローグ部分にのみ登場した彼が再びやってきて
半裸の謎めいた女を引っ張り込みます。

指には傷、病院の通院書こそあるものの、
その名前部分には泥がかぶり「〜葉」の部分しか読み解けません。
つまり「一葉(いちよ)」と「双葉(もろは)」のどちらか見分けがつかない!

ネンネコ男によって新たに連れ込まれた女がいちよに見え
他方、これまでいちよと思って話していた女がいよいよ姉に見えてくる。
アキヨシ、大混乱です。

その様子を見てとったいちよは、アキヨシではなくかじかに
ついて行くことを決意します。
49段式の自転車にかじかといちよは二人乗りし、アキヨシのもとから
いちよを行かせまいとして自転車に齧り付いた千賀まで巻き込んで、
自転車は波に揉まれる日暮里の坂に突進。
が、あえなく洪水に飲まれ、3人は溺れかかります。

すると、大貫がボートを仕立て、アキヨシに救助に行けと勧めます。
一念発起したアキヨシはボートを漕ぎ出し、大貫と『青い鳥』を暗唱しながら
いちよを救いにかかります。アキヨシを見送り、トイレに消える大貫。

アキヨシの救助は成功し、いちよと溺れた千賀を回収します。
3人を乗せたボートを漕ぎながら、先ほどまでの離反が嘘のように
アキヨシ・いちよの二人は『青い鳥』を誦じ、アパートに帰ってきます。

が、トイレを開けると、大貫は首を吊っていました。
いちよは咄嗟にアキヨシにもらった指輪を返し、大貫のもとに駆け寄ります。

それまで希薄と思われていた夫婦の結びつき
本能的な関係の強さを目の当たりしたアキヨシがいちよを追おうとすると、
ネンネコ男がすかさず駆け込み、アキヨシといちよの間に一本の糸を通します。
二人の関係が断たれたことをはっきりと示します。

・・・月日は経ち、アパート跡にアキヨシが佇みます。
傍らには姉のようでもあり、いちよのようでもある女性。
あれからアキヨシは関西のいとはんと結婚し、
子どもの出産を間近に控えて暮らしていました。
それが、帰京して姉と電車に乗っていた時に通りがかりの日暮里が
気になり、ふと電車を降りてしまった。

そして、2年通ったあの場所へと帰ってきました。
傍らの女は姉になり、いちよにもなり、再びトイレに消えます。
いちよが首吊りした記憶が残るアキヨシは引き止めようとしますが、
菖蒲の葉で指輪を清めれば、アキヨシのもとに帰ってくると言って
いちよは去ります。

いつか話した忘れ菖蒲。それで姉の指輪のイニシャルを消し、
いちよと結ばれるための指輪に変えようとするアキヨシ。
けれど、忘れ菖蒲に指輪を通しても、いちよは戻りませんでした。
それどころかトイレは空っぽでした。

『青い鳥』を読む声が響き、それも遠ざかリマス。
アキヨシがいま見た女も、そもそも2年通った日暮里の思い出も
本当にあったことなのか分からぬようにして物語は幕を閉じます。
まさに『秘密の花園』というタイトルにふさわしい幕切れ。

・・・長くなったので、今日はあらすじをまとめるにとどめます。
気になるシーンや読み解きのための意見は、また明日。

来週、3/13(月)19:30-21:30は、1998年以降に唐組で上演され続けている
バージョンとの比較検討をします。かなりニッチな回ですが、これぞ
唐十郎研究の真髄とも言えます。何をどう考えてどこを書き換えたのか、

その変化に、唐さんの内面と、
それぞれの時代の『秘密の花園』を読み解きます。

2/27(月)『秘密の花園』本読みWS 第8回レポート(中野)

2023年2月27日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
イオンの自転車屋.jpg
↑もうすぐ小学生になる息子に自転車を買ってやろうと、近所の店に行きました。
自分が子どもの頃より平均して1万円は高くなっていました。考えものです。
両手を離して乗れるか。一度も足をつかず、一気に坂を駆け上がれるか。
そららが世界の大問題、という時間を息子が過ごす日も、近い。
なぜか唐さんは、そういう感覚を大人になっても維持しているから不思議です。


年明けから始めた『秘密の花園』本読みも、残すところあと2回。

来週、3/5(日)は初演版を最終回まで読み、
再来週3/13(月)は唐組が上演してきた改訂版との違いを比較します。
つまり、昨日は佳境も佳境。そのために盛り上がりました。

坂の途中にあるアパートの2階が床上浸水するほどの!?の大雨に見舞われ、
日暮里はいよいよ大変なことになっています。
(ということは、東京の東側は推して知るべし)
そこで、いちよをめぐるアキヨシとかじかは、激しく激突する。

まずは、かじかが叔父さんである"殿"とともに荒ぶります。
かじかが「生涯天中殺」であったこと。本人が何かを望むうちは
その希望は全く叶わず、その希望を諦めた瞬間に希望した以上の
大きさでその望みが叶ってしまうという特異体質が明らかになります。

結局は望外に望みが叶うので、かじかはラッキーマンな感じもするのが
「生涯天中殺」の面白いところです。
(ちなみに、「天中殺」というワードは1979年に大ブームを起こしたそうです。
書籍も大ヒット。『秘密の花園』初演の3年前)

そんな中、殿がかじかにSMショーよろしく鞭を振るう。
とってもコミカルなシーンが描かれます。
その盛り上がりの中で、かじかは畳の陥没により床下に消えます。
そして、そこに隠されていた菖蒲の葉、とりわけ特別な、
硫酸の池のほとりで育った「忘れ菖蒲」とともに床下から浮上します。
(畳の陥没→床下移動→別の場所から再浮上、という仕掛けは、
1981年2月に初演した『下家万年町物語』第2幕の影響)

そして、以前は自転車で登りきれなかった日暮里の坂を、
今度こそ踏破してみせると宣言する。しかも、いちよを自転車の後ろに乗せて。
坂道を自力で、一度も足をつかずに登り切れるかどうかが大問題!
という競い合いには、私たちが忘れてしまった小学校低学年的な主観が
強く息づいています。こういうのを切実に実感し続けているところが、
唐さんの特異な才能です。

かじかの台頭により、1幕で菖蒲を吹いたアキヨシ、
畳の床下から忘れ菖蒲を手に入れたかじかはともに
「夕泣き丸」として立ち、「夜泣き丸(=いちよ)」の応答を待つことになる。
二人の男からの挙手に対し、いちよはどちらに応えるのか。

結果、あっさりとアキヨシが勝ちます。いちよはアキヨシを選ぶ。
それもそのはず、かじか登場の前段で、例の赤ちゃん言葉のシーンにより、
二人はデレデレのドロドロになっていたわけです。彼らの結びつきは、
男女のジェンダーさえも入り変えながら強く、激しく混じり合っていたわけです。

ところが、いちよには不安がよぎる。
アキヨシは自分にぞっこんだが、それは本当に自分を好きなのではなく、
姉もろはへの想いが代わりに自分に向かっているだけなのではないか。
そういう心配に囚われます。そして、アキヨシを試しだす。

「ほんとうはお姉さんが好きなんでしょう?」と迫るいちよに
アキヨシは否定を続けますが、あまりに何度も繰り返すいちよを
「姉さん」と呼んだ瞬間に、いちよがブチギレる。

・・・というシーンで昨日は終わりました。
なんだか面倒なやり取りだとも思いますが、恋愛のよろこびとは
こういう面倒なやり取りを繰り返すところにあるとも言えます。
くっついたり、離れたり。相手を試したり、それでケンカしたり、
また愛情を確認して仲直りしたり・・・

いま付き合っている女性に「前の彼女のどんなところが良かったの?」
と、いかにしつこく訊かれても、男は決して元彼女を褒めてはいけない。
男女が逆でも然り。そういうトラップなのです。

じゃ、訊かなきゃいいじゃねえか!とも思いますが、
相手を試さずにはいられないのが恋愛なのでしょう。

昨日やったシーンの中で特に面白いのは、
いちよ役の中に、折に触れて姉もろは口調が混ざるところです。
瞬間的に「アキヨシ!」と呼びつけたり、姉独特の命令口調になる。
一人二役を活かし、目の前の女性が誰なのかわからなくなる不安と魔力。
観客にとっても、どちらを演じているのか、わざと分からなくする。
そういう仕掛けです。

来週、最後までいきます。次回は3/5(日)19:30から!

2/22(水)『秘密の花園』本読みWS 第7回レポート その②(中野)

2023年2月22日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
IMG_0935.jpg
そもそも、いちよは、かじかの49段式自転車の車輪に指を突っ込んで、
切断したことになっています。が、薬指のみを車輪で切断するのは至難の業!
という指摘が参加者の一人から寄せられました。
こういう発想が好きです。いちよの行動をまともに受け取って、
どうやったら薬指のみ切断が可能か考えるのは、痛々しくも愉しいものです。
こんな具合かな? と、自分の短い指で試してみました。



昨日のレポートの続きです。

いちよとアキヨシがプラトニックかつ濃厚に絡み合い、
すっかり高まったところに殴り込んでくる男がいます。かじかです。

いちよが指ごと切断して指輪を返し、かじかのもとを去って以来、
彼はその指と暮らしてきました。そうして自らの不幸を味わい尽くすのが
かじかの流儀らしいのですが、当然ながら、そのような夫婦生活に
甘んじているのに耐えかね、いちよ本体を取り返しに来たのです。

そうして医者を紹介する。
かなり怪しげな医者ですが、要するに、指が切断された根っこと
指自体に、切れた事実を誤魔化せば、時間が経っているにも関わらず
指はくっつくと力説します。またも、そんなわけあるか!という設定ですが、
こういう理不尽こそ唐さんの得意手です。

指の切断を深刻に見せたり、芝居だからとギャグにしたりと、
忙しく観客を振り回す。それに付き合って振り回されるのが、
観劇の醍醐味といえます。

また、この医者の場面は改訂版で大いに書き換えられた箇所でもあります。
どこがどう変わったのか。後日、重点的に検証します。3/13(月)のWSで!

かじかが出てくると舞台は騒がしくなり、
いちよとアキヨシの場面から一気に空気が変わります。
そこへ、殿も殴り込んでくる。八代亜紀が1980年に発表したヒットソング
『雨の慕情』が鳴り響き、洪水が力を増していく場面です。
https://m.youtube.com/watch?v=HTeJHMWeKL4&t=1s&pp=2AEBkAI

洪水の波間に浮いていたジローの母親、千賀が殿の巧みな
ロープ使いで引き上げられ、荒事の予感。
ここから殿とかじかの絡みの面白さは最高潮に達しますが、
それはまた来週。

"生涯天冲殺"とか、面白いせりふがいっぱい出てきます。

2/21(火)『秘密の花園』本読みWS 第7回レポート その①(中野)

2023年2月21日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
download.jpg
↑豊臣秀吉。一説には彼は6本指の持ち主だったらしい。本当だろうか?

恒例の日曜日!は『オオカミだ!』公演の最終日だったので、
片付けをするために翌月曜日に本読みWSを振り替えました。
平日にも関わらず参加してくださった皆さん、ありがとうございます。
それでは、第7回のレポート!

※昨日やったパートは内容がかなり入り乱れているので、
レポートも今日と明日の2回に分けます。

2幕の真ん中です。劇中に降る雨は異様に激しさを増し、
日暮里の坂の途中にあるアパートの2階が床上浸水するほどに。
そんなわけあるか!という設定ですが、
こけら落とし公演から劇場を水浸しにしたくて仕方ない唐さんの
気概と勢いが溢れています。
そしてそれは、"殿"が口にするせりふにも出てくる。

「その本多氏が、果して、こんなことに気づいたでしょうか。
柿(こけら)落としに於て、ここが、床上浸水に見舞われるなどと!」

・・・先日まで本多劇場でお世話になった私としては、
いまや下北沢を劇場街ならしめた初代本多さんへの唐さんなりエールを
感じて、胸の熱くなるせりふです。

そんな中で、アキヨシ×いちよのやり取りはひとつのピークに達します。
初演版の特徴である"赤ちゃん言葉"が炸裂。

いちよに再開したアキヨシは、
またも姉がからかっているのかと彼女を邪険にします。
実際に同じ女優が演じているのでそれも無理からぬことなのですが、
いちよと大貫はこのアキヨシの間違いを許さず、徹底的にアキヨシを
罵ります。そして、今度は一転、デレデレとした赤ちゃん言葉に突入。

いちよがかじかから渡された指輪を抜き取るために指先ごと切断した
事実を心配したアキヨシは医者へ行くよう説得しますが、
やがて不思議な儀式に発展します。

姉もろはのイニシャルが入った指輪をいちよの傷持つ指にはめることで、
その出血が"処女を失った時のよう"な体験に転じます。
これまでプラトニックできたアキヨシといちよが、
さらに強く結ばれる瞬間です。

加えて、この行動はもう一つの側面も帯びます。
怪我を負ったいちよの指がもろはの指輪を貫くことで、
今度は姉もろはが犯されるに至る。
この場合、いちよの指は男性、もろはの指輪が女性というわけです。

ひとつの事象がジェンダー的に真逆の状況を生み出す。
観る人、読む人の頭をグルグルとした混乱に引き摺り込む。
だからこそ、姉もろは×アキヨシ×いちよが交わって根源的に結びつきあう。
並の男女関係やセックスのレベルを超える、唐さんならでは展開です。

また、いちよの指が男性性を帯びる時、いちよは昔話『親指太郎』を
持ち出しますが、よく読むと一瞬だけ、怪我をした左手薬指と小指の間に
見えない指があり、それこそが真の自分だと言い出す箇所があります。
つまり、初演の前年に『下谷万年町物語(1981)』に出てくる"6本指"の
モチーフまでもが、チラリと『秘密の花園』をよぎる。

ただし、"6本指"の話題はすぐに畳まれて、二度と出てきまん。
唐さんが蛇足だと判断したのか、執筆時の無意識がひょっこり現れて
しまったものなのか、とにかく一瞬の"6本指"。

また、いちよとアキヨシが交わす会話の最後の部分は、
そのままエンディングへの伏線になっています。

いちよ  僕が去ったら。
アキヨシ 僕(いちよのこと)は去りますか?
いちよ  僕が、この地上を去ったら。
アキヨシ あたちも。
いちよ  もしも、僕が、とわに去っても、あたちは、そこにぬかづくか。
アキヨシ あたちのまま。
いちよ  分かったな。これらが、指の言葉だぞ。

・・・要するに、いちよ自身は去る。けれども、アキヨシは後を追うな、
と、いちよは言います。そして、実際にその通りになる。

そこへ、いちよに指と指輪を残して去られた、かじかが登場し・・・
という具合に進みますが、続きはまた明日!

2/13(月)『秘密の花園』本読みWS 第6回レポート(中野)

2023年2月13日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
images-2.jpg
↑ご存じ。初演の地である本多劇場

『オオカミだ!』劇場入り直前ではありますが、
昨夜もきっちりと『秘密の花園』を読みました。
この演目の本読みワークショップ第6回目です。

二幕中盤に差し掛かり、いよいよ初版版の特徴である
「赤ちゃんことば」のシーンに突入したのが嬉しい。
とはいえ、まずは順を追って先週の続きから。

亡くなった赤ん坊の母親であり、キャバレーでいちよの同僚でもある
千賀から「いちよちゃんをかじかから取り返して」とハッパかけられた
アキヨシが部屋に戻ると、そこにいちよがいました。

自殺を試みたほどにアキヨシに思い入れながら、
身を引くと言い出すいちよ。対するアキヨシは、自分は結婚はせずに
この日暮里のアパートにいるのだと言って聞きません。

この問答の中で、日暮里の森の奥、
硫酸の池のほとりに咲くという「忘れ菖蒲」が話題にあがります。

かつての情愛を洗い流すという忘れ菖蒲の描写は、
劇のエンディングに向けてとても大事な役割を果たします。
ここでのアキヨシといちよは、姉もろはのイニシャルを硫酸パワーで
消そうとしてこの忘れ菖蒲の話題を持ち出しますが、
この劇のエンディングでは、アキヨシが他ならぬいちよを
思い切ろうとして忘れ菖蒲のエピソードを活用します。

このように、この劇にとって大切な道具立てが初登場しました。

結局、ここでのいちよは、姉もろはが化けていました
一人の女優が二役を演じるこの芝居の仕掛けを上手く使い切った
唐さんのアイディアが冴えています。

それから、舞台は突然に洪水状態になります。
大貫がボートを担いでアパートの二階までやってくる。
彼曰く、強まる雨は洪水を呼び、この日暮里の坂の中腹にある
アパートの2階にまで押し寄せているらしい。

そのことあるわけない!と言いたくなる設定ですが、
笑いと、ロマンと、唐さんが柿落とし公演にして本多劇場を
メチャクチャにしてやろうと意気込んだのが伝わる設定です。

殊に、この後に畳敷のアパートの一室で繰り広げられる
アキヨシと大貫の擬似洪水シーンは、二人の真剣さと滑稽さが
同時に迫ってきて、笑いながらも胸が熱くなります。

大貫は自分が身を引いてアキヨシといちよを一緒にさせようとし、
アキヨシは大貫に強い情を感じる。いびつだけれど強い、
二人の絆を描くシーンです。

と、そこへ本物のいちよがやってくる。
ところが、当のアキヨシはそれをいちよだと思えなくなっている。
すでに彼の目には、姉もろはといちよの区別がつかなくなり、
二人が見分けられなくなっていくのが、日暮里というの森に
入り込んだ迷子アキヨシを炙り出していきます。

大貫のとりなしで一度はそれも解消され。
先に書いた「赤ちゃんことば」シーンに。

昨日はさわりだけやって、本格的には来週に取り組みます。
バカバカしくも真剣な恋人たちのやり取り、
初演版の真骨頂を皆さんにも楽しんでもらいたいと思います。

それから、週半ばから本多劇場入りします。
初めて立つあの劇場のステージの上で、
『秘密の花園』のことも考えてみたいと思います。

2/6(月)『秘密の花園』本読みWS 第5回レポート(中野)

2023年2月 6日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
1750459.jpg
↑そもそも"いちよ"の名のもとになったのは、この方ですね。樋口一葉。

昨日は『秘密の花園』本読みでした。参加者は15人。
二幕冒頭の約20ページを読みましたが、なんというか、
やはり何かを読んだり観たりすることは、自分の感性というか
バックグラウンドというか、人生を賭けて読むものだと痛感しました。

原因は、いよいよアキヨシのお姉さんが本格的に舞台に登場したからです。
・・・どういうことかは、後ほど。

1幕の終わり。
いちよはトイレで首を吊りました。
亡くなってしまったのか、命を取り留めたのか。
2幕冒頭ではまだわからないけれど、徐々にいちよが死んではないことが
明らかになります。

まずは、婚約を破棄したアキヨシを姉がなだめるシーンから。

アキヨシが離れようとしない日暮里のアパート、
すなわち大貫といちよの家のそばには、アキヨシの元婚約者が待っています。
いちよのお見舞いと称してわざわざ関西からやってきた彼女をアキヨシは拒絶。

せめて会ってはどうかと諭す姉に、アキヨシは聞く耳を持ちません。
それだけでなく、アキヨシは姉(「もろは」という名前)に不信を持っています。
不信のもとは指輪。アキヨシが元婚約者にプレゼントするための指輪を
買い与えていたのは姉、もろははそこに、自らのイニシャルを刻んでいました。

どうしてそんなことをしたのか問いただすアキヨシに、
姉は弟への過剰な愛情を語ります。曰く、母のもとで一人っ子だったアキヨシに
日暮里の坂の上から転がり落ちて姉となったのが自分である、という不思議な
話も。かなり不思議な話です。

親族関係が入り乱れた戦後であれば、他人の子を引き取ったのだ、とか。
娘を持つ父と、息子を持つ母が再婚して、血のつながらぬ姉と弟が誕生したのだ
とか、いろいろと考えられます。
それにしても、母親のいるアキヨシともろはの家に、父親の存在感が全く
感じられないのはなぜなのか。そんな疑問も渦巻きます。

ともかくも姉もろはは、アキヨシへの過剰な愛情を以って自らの恋愛も
放棄し、弟のことだけを考えて身を処して来たのだと熱弁を振います。

他方、いちよの夫である大貫は、千賀のお世話をしつつ、
アキヨシと問答します。何故いちよは自殺を図ったのか。
キルケゴールとかメーテルリンクとかを持ち出し、議論は難解ですが、
結局はまた、アキヨシに月々のサラリーを以って来て欲しいと誘導する始末。

再び、戻ってきた姉もろはとアキヨシは、より深長な話をします。
アキヨシがいちよを好きなのは、結局は姉もろはに対する憧憬なのではないか。
そういう疑いを、姉もろはは滔々とまくしたて、アキヨシに迫ります。

幼い頃からアキヨシが、姉の下着と自分の洗濯物をわざと一緒に洗おうとしたこと、
近所で犯した下着ドロボーの際、結局は姉の下着を嗅ぎつけてしまったこと、
いちよ(一葉)に惚れたのも、姉のもろは(双葉)と名前が似ているからではないか、
ということ。一人の女優が"いちよ"と"もろは"を演じ分ける仕掛けと相まって
姉が織りなすこの説は異様な迫力を帯びます。

また、それらの問答の隙間には、家事で赤ん坊を喪った千賀と、
アキヨシのやり取りが展開し、ニュアンスを添えます。
千賀はアキヨシに亡くした息子ジローの影を見ており、
ジローがせめて、『青い鳥』的な恋人と結ばれて欲しいという願いを込めて、
アキヨシといちよの仲を推します。今はかじかが新規オープンしたバーの
囲われ者となっているいちよを取り返せ!と、アキヨシをけしかける。

幼い子どもを喪った未熟な母・千賀のアキヨシへの願い、振る舞いは、
彼女の不幸や哀しみを湛えて迫るものがあります。

・・・という回でした。

で、冒頭に書いた人生云々ですが。

今回取り沙汰された、姉と弟の関係に、私(中野)は相当に抵抗があります。
私には実際に姉がおり、それがかなりあけっぴろげでガサツな姉であったために
姉や妹、女性の兄弟がいない唐さんはかなりの幻想を抱き過ぎているように思う
のです。この『秘密の花園』の魅力は、"姉"の魅力に負うところが大きいので、
そういったところが乗り切れない、ということを白状しながら読みました。

例えば、姉と自分の下着を一緒に洗濯するのが当たり前で育った自分に
とって、そこに幻想を抱く唐さんの欲求や夢見がちなところには、
かえって気持ち悪さを覚える、とか、そういうことです。

参加の皆さんの中には、異性の兄弟への幻想が強い人も弱い人もいて、
今回の場面はそういった話もしながら読み解きました。

その分、私は大貫や千賀びいきに読んでしまう。
でも、この台本の本質は、明らかに弟ー姉に幻想を抱けるかにかかっている。
そういう真情に共感するところを探す。これは私個人の目標です。

来週は、いちよが舞台に帰ってきます。
『オオカミだ!』の稽古中でもありますし、作品ふたつを頭の中で並走させて
オンライン本読みに臨みます。

1/31(火)唐さんの「ブラームス」

2023年1月31日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
51y7zvH89nL._AC_.jpg
↑カザルスの演奏CD

目下、本読みWSで取り組んでいる『秘密の花園』の
1幕、2幕のクライマックスには「音楽。ブラームス。」というト書きがあります。

要するにブラームスの曲をかけろ!ということなんですが、
ブラームス作曲のどの曲でも良いわけではありません。
ここで唐さんが使って欲しいのは、
ずばり『ブラームス 弦楽六重奏 第一番 第二楽章』一択です。

どの上演でも、『秘密の花園』の芝居を観たことのある人ならば、
各幕の終わりでこの曲が絶大な威力を持つのを味わったことがあるはずです。

もともと、この曲をドラマの中で使ったのは、
ルイ・マル監督の映画『恋人たち』が有名です。

おそらくはそれを、まずは蜷川(幸雄)さんが観た。
そして、1980年に初演した『NINAGAWAマクベス』で何度も使用しました。
これを唐さんが観て、蜷川さんに教わったのだろうと思います。
そうして、1982年11月に『秘密の花園』でこの曲が鳴り響くことになった。

日曜の本読みでは、録音を2パターン用意していました。
①パブロ・カザルス率いるカルテットが1952年に録音したもの
②アンナー・ビルスマ率いるラルキブデッリが1995年に録音したもの

①はミスター・チェリストのカザルスが弾いたものですから、
ゆっくりで情熱的でロマンチックです。
②は古楽器で弾いたビブラート押さえ目なものなのでスイスイ進む。

ワークショップの始まりで2パターンかけたら、好みが半分に分かれましたが、
実際にせりふを声に出して読みながらかけたところ、やはり①がしっくりきました。
②だと、ちょっと速すぎてせりふや所作とぶつかってガチャガチャしてしまう。

おそらく、もともと蜷川さんや唐さんが使ったのもこれと思います。
オリジナル強し。こんな遊びをしながらも、本読みを進めています。

曲だけ聴きたい人は、曲名をYouTubeにコピペして楽しんでください。
名曲です!

1/30(月)『秘密の花園』本読みWS 第4回レポート(中野)

2023年1月30日 Posted in 中野WS『秘密の花園』

download.jpg

↑先週は魚を紹介しましたが、「森でゲコゲコ鳴いている」という

記述から、「かじか」の由来は「カジカガエル」と判明しました。

こちらで!



かじかの登場から1幕の終わりまでいきました!

シーンをまとめるとこんな感じ。


①かじか、いちよに振られる

②アキヨシといちよの別れ

③いちよの自殺


①かじか、いちよに振られる

まずは、かじかの登場から。

彼はおじ"殿"の力を傘に着て、いちよが自分になびくのを疑いません。

そして、千賀との関係を気にしています


千賀はいちよのキャバレーの同僚であり、

いちよの夫である大貫が、千賀の赤ん坊を死なせてしまったという関係です。

その千賀の父親こそ、他ならぬかじか。

(おそらく認知はせずにお金で解決していた?)


いずれにせよ、

例えいちよがかじかを好きでも、二人の間にはここまで

入り組んだ事情があり、すんなりとは結ばれようのない関係です。

だからこそ、その禊(みそぎ)として、かじかは49段式の自転車に乗り、

日暮里のキツいキツい坂を一気に踏破してみせようとする。


それで過去の清算になるのか!

とも思わずにはいられませんが、これがかじかの主観なのです。

いわば、お遍路や24時間マラソンや散髪(女性が髪を切る、

男性が頭を丸める)のようなもんだと思ってください。


そのさなか、かじかは坂を転がり落ち、

その傷も含めていちよに評価してもらえると信じきっている。

おじである"殿"だけがそのかじかに感動し、溺愛を露わにします。

(小林よしのりのマンガ『おぼっちゃまくん』の主人公父子を思わせる)


結局、いちよはかじかにプレゼントされた指輪を叩きつけます。

(実はこれは偽物、アキヨシが提供したリング)

ここでようやく、かじかは自分がいちよに拒絶されたことを知る。


「ふられると‥‥、どうして、こんなに女が大きく見えんだろう!」

かじかの名ぜりふが炸裂します。かじかと殿は去る。


②アキヨシといちよの別れ

再び、アキヨシといちよの二人きり。

アキヨシはいちよと出会ってからの二年をお祝いするため、

ケーキを差し出します。が、勘の良いいちよは、そのケーキと、

かじかに突き返した偽物の指輪に、アキヨシの意志を見抜きます。


すなわち、アキヨシは家族や上司の計らいで

関西に栄転し、結婚までする話が進んでいたのです。

(指輪は、アキヨシの結婚相手に贈るために姉が選んだもの)

アキヨシから真実を聞き出すと、取り乱すいちよ。


いちよには大貫という夫がおり、

アキヨシとの間には一切の肉体関係がありません。

けれど、だからこそ、二人の結びつきは強く、

アキヨシが自分を捨てるのをいちよはなじります。

唐さんが生み出してきたクドきの中でも屈指の名シーンです。


一転、次の瞬間にはいちよは居住まいを正し、

アキヨシを送り出すことを決意します。

そしてトイレに立ち、何度も何度も振り返りながら廊下を進む。

"共同トイレ"というかつてのアパートの機構がここに活きています。


「ボートに乗るのは、あたしとだけよ」

と、またも『青い鳥』を引き合いに出した二人の、最後の約束。


③いちよの自殺

ここからは急転直下。

大貫が1幕半ばでしたアキヨシとの約束を決行しようと千賀を連れてきます。

亡くなった我が子に会えると期待した千賀はアキヨシを見て落胆。

短いシーンですが、千賀に絡むここをうまくやると、

若過ぎたシングルマザーである千賀の、赤ん坊への喪失感、

友だちである大貫・いちよ夫妻から月々の慰謝料を受け取る複雑な

関係が浮かび上がります。


アキヨシはアキヨシで、

いちよとの別れへの後悔や、ある不吉な予感が去来します。

トイレの戸をこじ開けると、すでにいちよは首を吊っていました。


愕然とするアキヨシ、弾けたようにいちよを救いにかかる大貫、

ついに現れたいちよにそっくりなアキヨシの姉(いちよと同じ女優が演じる)、

いちよに返された指輪を偽物と見抜き、それを返しに来た殿とかじか。


すべての登場人物の行動と想いが入り乱れて1幕が終わります。


整理するだけで長くなったので、

明日も『秘密の花園』のこの場面にまつわるエピソードをやりましょう!

1/24(火)『秘密の花園』本読みWS 第3回レポート(中野)

2023年1月24日 Posted in 中野WS『秘密の花園』

download-1.jpg

↑いちよに指輪をプレゼントした主として、話題にあがる"かじか"

もともとは魚の名前で、小さくてブサイクな魚

ゴリとも呼ばれて、金沢では美味の一種



昨日の深夜はレポートを挫折してしまいましたが、

今日は気を取り直して書きます!


一昨日、相変わらず『秘密の花園』人気からか参加者が多く

ありがたく感じています。

一方で、体調を崩しての直前キャンセルの方が数人いました。

寒波の予報も出ているし、風邪が流行っている。

お互い気を付けましょう。


第3回ということで、1幕中盤を当たりました。

その骨子は下記5点です。


①大貫に給料を渡してしまい、いちよになじられるアキヨシ

②一転、アキヨシに責められ、夫婦の過去を告白するいちよ

③アキヨシのお給料をめぐってつばぜり合い。大貫といちよの対話

④アキヨシの秘策

⑤日暮里の殿の来訪とかじか登場への前振り



①大貫に給料を渡してしまい、いちよになじられるアキヨシ

結局、アキヨシは大貫にお給料を巻き上げられました。

しかも、彼が事故で死なせてしまった赤ん坊の母親を慰めるよう

依頼まで受けてしまった。お人好しなアキヨシが自嘲気味に

部屋に戻ると、待っていたのはいちよ。

お金を渡してしまったアキヨシをいちよはなじります。


②一転、アキヨシに責められ、夫婦の過去を告白するいちよ

一転、今度はアキヨシがいちよを攻める。

2年通いながら大貫の起こした事故=いちよにとっても大問題に

ついて打ち明けてもらえなかった水くささを攻めると、

いちよは夫婦の遍歴を告白します。大貫といちよが日本全国を

股にかけた美人局(つつもたせ)の結婚詐欺だったこと。

そんな中で大貫が事件を起こしてしまったこと。

(↑この部分の時間の整理はちょっと曖昧です。事故を起こして

以来、詐欺を働くようになったという経過が自然ですが、矛盾する

証言があります)

その上、いちよにはカモにしている相手=日暮里の殿の甥っ子

"かじか"がいて、殿の血縁だけに手を焼いている。詐欺の相手としては

危険なので巻き上げた指輪を返さなければならない、という

いちよの現在の苦境まで、アキヨシの理解するところとなります。

アキヨシはいちよの味方となり、指輪を外すために二人で工夫する。


③アキヨシのお給料をめぐる大貫といちよの対話。

指輪の外れぬうちに大貫が帰ってきます。

アキヨシは押し入れに隠れ、小貫はいちよにあってしまう。

夫婦の会話をしながらも、アキヨシからお給料を巻き上げたのを

いちよが怒っているのは明らかで、大貫は誤魔化しながらその場を

離れます。表面的な会話の下で繰り広げられる暗闘が面白いところ。


④アキヨシの秘策

大貫が去ると、アキヨシといちよの指輪問題が再燃します。

そこでアキヨシは、いちよがかじかにプレゼントしたのとそっくりな

指輪を取り出し、それを返すよういちよにアドバイスします。

その指輪は、アキヨシのお姉さんのものだという・・・


⑤日暮里の殿の来訪とかじか登場への前振り

殿がやってきます。

いかにも殿らしい威丈高ぶりでいちよに甥のかじかの素晴らしさを

説く殿。が、いちよは意を決して婚約解消を申し出ようとします。

その原動力となるのはアキヨシ提供の指輪。

かじかの登場は間近!



・・・というところまでやりました。


第3回で当たった箇所には、

初演で殿を演じた山崎哲さんと下北沢界隈についての

楽屋ネタがあったり(これは改訂版ではカット)、

一方で(文鳥のように首をかしげるいちよ)などの印象的な所作が

発見できます。


唐さんから直接に伺った話として、

・かじかは十貫寺梅軒さんのをヒントに書かれ、実際に演じたのは藤井びんさん

・アキヨシを志村けんさんにお願いしたかった

といったエピソードも披露しました。


特に初演版アキヨシのキャスティングについては、

志村けんさんと柄本明さんの芸者コントに大笑いした世代として

感慨深いものがあります。

また、唐さんが志村けんさんに一途さや寡黙さを見ていたことも

面白いと思います。


次回は1幕の終盤に差し掛かっていきます。

1/16(月)『秘密の花園』本読みWS 第2回レポート(中野)

2023年1月16日 Posted in 中野WS『秘密の花園』
FR-cT6FacAIEf5H.jpg
↑これは現代のオシャレな銭湯ですが、菖蒲の葉をあしらう風習は残っています

昨晩は『秘密の花園』本読み第2回目でした。
やはりこの作品は人気が高い。大勢で読みました。

今回はひたすら大貫とアキヨシの会話です。
約20ページの間、いちよの夫である大貫(おおぬき)と恋人であるアキヨシが
ひたすらせりふの応酬をするのみ。
女性参加者は大貫、男性参加者はアキヨシ、という風に役を振って読みました。

会話は大貫の主導で進み、話題としては下記3点です。

①大貫はアキヨシの持つお金(給料)を狙っており、アキヨシは警戒している。
②大貫はアキヨシにひときわ大きな菖蒲の葉をプレゼントする。
今日は端午の節句、銭湯のお湯から大貫は大量に菖蒲を持ち逃げしてきた。
③大貫が過去に起こした惨事が語られる。大貫は働いていた乳児預かり施設で
火事を起こしてしまい、赤ん坊が一人亡くなった。


まず①。
全体に、大貫はアキヨシが持つサラリーを狙っています。
だからこそ、岩崎宏美の『すみれ色の涙』を歌いながら登場した時も、
アキヨシは警戒心でいっぱい。前回のシーンでいちよに、大貫の手管に乗せられて
お金を渡してしまわないよう、釘を刺されているからです。
まずは、あの手この手でアキヨシに取り入ろうとする大貫と、
それに乗せられまいとする大貫のやりとりが面白い。
まして、彼らはいちよの夫と、いちよの恋人という関係です。
普通はコミュニケーションできない関係ですが、お互いが公認している?
という関係の奇妙さも愉しい。

次に②。
大貫は登場時から身体中に菖蒲の葉をまとっているといういでたちで
強烈なインパクトをアキヨシと観客に与えます。
これ、すべてアキヨシに取り入るため。

考えてみれば、この菖蒲の葉を楽しみにしていた子どもたちの中に
割って入り、根こそぎいい歳をした大貫が掻っ攫ってきたわけですから
かなり非道な行いと言えますが、これが軽妙に語られます。

中でもひときわ立派な一本を、子どもたち、街の人たちが「夕泣き丸」と
呼んでいることがわかります。同時に、銭湯から菖蒲をさらって逃げた大貫
の語りから、日暮里の街にある坂の多いこと、夕暮れ後の暗さも語られます。

菖蒲の葉を持って自転車で逃げる大貫を、子どもたちがやはり自転車で追う。
坂を駆け上がる大貫に、子どもたちの体力では歯がたたない。そういう光景を
想像するのは面白い。かなり大人気ない光景。銭湯から逃げているわけですから、
ひょっとしたら大貫も子どもたちも半裸かも知れない・・・

また、子どもたちを振り切った大貫がゆっくりと坂を降りる時、
自らの持つ菖蒲や夕泣き丸でない葉笛が坂上から鳴るのを大貫は聴きます。
これを彼は「夜泣き丸」と名づける。正体のわからない謎めいた葉笛。
闇に包まれた坂の上から、誰がどんな葉で鳴らしているとも知れない
調べが聴こえてくる、というミステリアスな描写です。

最後に③。これは実はかなりヘビーです。
曰く、大貫は2年前に大変な事件を起こしたといいます。

その頃の大貫は乳児預かりの施設で働いており、子どもをひとり火事で
死なせてしまったのです。哺乳瓶を使った授乳中にミルクの粉が切れているのに
気づき、火を付けっぱなしで買い物に出てしまったのが原因でした。
多くの子どもを助けたものの、一人だけは救うことができなかった。

救助に当たるなか、大貫は通り掛かりの少年が亡くなった赤ん坊を抱え、
坂の上に連れて行く光景を幻視したと言います。要するに昇天してしまった
ことをそのように語ったわけですが、この通り掛かりの少年が夜泣き丸の
イメージにつながってくる。

・・・この場面の読み解きには相当に注力しました。
大貫の語りは唐さんの巧みな言葉のベールで覆われていますが、
一方で、私たちの生きる社会で年に数回おきてしまう、不幸な子どもたちの
事故に他ならないからです。保育園や幼稚園で起きる事故と同じように
大貫が起こした事故や、大貫といちよがその後に背負った責任、賠償、
罪の意識、園や遺族との関係を想像する時、この夫婦がどうして
アキヨシのサラリーをあてにするのかという理由もまた、
切実なものとして浮かび上がります。

その上で、この語りの全体が、大貫のついた単なる嘘かも知れない
というところに、この『秘密の花園』の面白さがあるわけです。
過去の上演を見る限り、この事件に関する現実的な重さを自分が
キャッチしきれていなかったと思いましたので、この場面にはかなり
重点を置きました。


最後に、大貫がアキヨシを丸め込むテクニックはメチャクチャで、
①②③を通じて、アキヨシは「夕泣き丸」にされ、「夜泣き丸」にされ、
「夜泣き丸」が連れて行った亡くなった赤ん坊にもされてしまいます。

菖蒲の葉「夕泣き丸」を吹く「夕泣き丸」。
坂の上の闇の中にいて亡くなった子どもたちをあやす「夜泣き丸」。
幼くして亡くなった子ども。

・・・どこかキリストの三位一体っぽい。
そしてまた、初期に唐さんが展開した「腰巻お仙」の男の子版という
感じもします。「お仙」も笛を吹いて堕胎時たちをやしていましたし、
もちろん、劇団第七病棟の旗揚げ公演が『ハメルンの鼠』であることも
関係があるでしょう。


昨日は重要かつ面白い描写が連続したので長くなりました。
序盤の基礎情報をよく押さえて、3週目以降に進みましょう。
『秘密の花園』は3/12(日)まで取り組む予定です。

1/11(水)身内にも分からないほどの顔面の変形

2023年1月11日 Posted in 中野WS『秘密の花園』 Posted in 中野note
IMG_0333.jpg
↑北宋社『紅い花 青い花』
後に唐さん同じ出版社から『ユニコン物語 台東区篇』を上辞します


引き続き『秘密の花園』のことが気になっています。
劇の冒頭でおでこを押さえている青年・アキヨシ。
なぜ押さえているかというと、日暮里駅前に生えているうるしにかぶれたから。
どれほどかぶれているかというと、ついさっきまで一緒にいた実のお姉さんにも
アキヨシだと見分けがつかないほど、という設定です。

・・・という具合なので、これだけで相当なかぶれ具合、
アキヨシの顔面が大いに変形してしまったことが想像できます。

しかも、ことが起こったのはほんの僅かの時間だという。
どれくらいかといえば、一緒に日暮里駅に降り立ったお姉さんがトイレに行き、
戻ってくるまでの間。どう考えても10分ほど。長くても30分とかからない間に
すっかりかぶれて見分けがつかなくなってしまった、という設定がおもしろい。

なかなか奇抜な発想といえますが、これは唐さんオリジナルのものでは
ありません。唐さんの好きな泉鏡花の『龍潭譚(りゅうたんだん)』という
短編に、唐さんのアイディアのもとになった少年とその姉が登場します。

『龍潭譚』
少年がお姉さんに禁じられた外出をするところから物語は始まります。
しかも行ってはいけないと諭されていた方角に進み、
少年は咲き乱れた躑躅(つつじ)に魅せられ、かぶれます。
この小説の場合はうるしではなく躑躅です。
それでいて、顔がかぶれてしまうところは一緒です。
少年が迷子になりながらも家に引き返そうとするうちお姉さんを発見しますが、
必死で弟を探す姉には少年の正体がわかりません。

結局、家の使用人に助けられて家に戻ったところでこの短編は幕を閉じ、
自分の慕うお姉さんに他人の扱いを受けてしまった体験も含めて、
少年には夢魔として一連の冒険が記憶されるという話です。

比較してみると、唐さんの場合はほんのトイレにたった隙の一瞬の
出来事である点が、一層の効果を上げていることがわかります。
現実的には、ほんの刹那に肉親からも分からないほどにかぶれてしまうのは
かなり理不尽ですが、それが『秘密の花園』という台本が持つ
強い魅力につながっています。

執筆当時の唐さんは、後に親しくなる文芸評論家の堀切直人さんと
知り合っています。北宋社という出版社で、日本の現代作家が書いた
花に因む短編を集め、『紅い花 青い花』というアンソロジーが編まれたのが
きっかけだったそうです。この本には泉鏡花も、別の機会に触れたい夏目漱石も、
唐さんの作である『銭湯夫人』も収められています。
これを、唐さんはニューヨークに行く際に持っていったのだそうです。

古本で手に入り辛いですが、興味のある人は探してみてください。
『龍潭譚』の方は、岩波文庫の『泉鏡花短編集』などで簡単に手に入ります。

1/10(火)『秘密の花園』本読みWS 第1回レポート(中野)

2023年1月10日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『秘密の花園』

IMG_0341.jpg

↑昨日、触れた初演版『秘密の花園』戯曲掲載の文芸誌「海」


今日は肝心の内容に入ります。


冒頭。額、おでこを押さえた青年が日暮里駅近くの陸橋に佇むところ

から劇が始まります。青年の名はアキヨシ。彼には二年通いつめた

恋人がいて、彼女の名は一葉(いちよ)。

一見、半同棲状態に見える彼らですがその関係はかなり変わっています。


二人の変な点を挙げると、まずいちよに旦那さんがいること。

けれども不倫かといえば、一線を決して超えていない。

二年にわたり一度もセックスしていないという関係です。


劇中の言葉で言えば、

「肉欲」にタッチせず「肉欲以上の関係」を築いているのが彼ら。

さらにアキヨシは、いちよに月々いくらかのお金を納めているらしい。

それが丸二年。健康な男女であればなかなか不思議な関係ですが、

だからこそ二人の結びつきは特別に強いのだというのが、

唐さんが仕掛けた二人の設定です。プラトニック・ラブの極地。


二人の馴れ初めについてはおいおい語られますが、

この二人の関係はいちよの旦那公認です。

旦那は大貫(おおぬき)という名の男なのですが、

この大貫もまたアキヨシが稼いでくるサラリーを狙っている。

そのやり方が口八丁な巧みさなので、人の良いアキヨシがお金を

巻き上げられないよう、いつもいちよが気を揉んでいる、

というシーンを一昨日はやりました。

ずいぶん不思議な三角関係もあったもの。これが全ての発端です。


ちなみに、二人の関係にはメーテルリンクの『青い鳥』より

「未来の王国」の章に出てくる前世の恋人同士の少年少女が

影響しているらしい。二人が初めて揃って登場する場面が

『青い鳥』の朗読であることからも、それは顕著です。


要するに、二人は前世で愛を誓い合った、

清くて太い恋の絆で結ばれているらしい。


で、これに待ったをかけたのがアキヨシの姉でした。

アキヨシも結婚適齢期、一家を構えて一人前にならなければ

ならないと気を揉んだ姉は、縁談をまとめ、

二年続いた二人の関係を清算させようと日暮里にやってきた。

手土産にケーキも買ったという描写もあります。


ところが、駅を出て姉がトイレに立つうちに、

アキヨシは駅前のうるしの木にかぶれて、トイレから出てきた

姉が弟と分からないくらいに顔が変形してしまった。

そのような具合に二人は行き違ってしまった。

という設定から物語がスタートするわけです。


姉とはぐれて一人でいちよを訪ねたアキヨシは、

だから、いちよに別れを切り出さなければならないという思いを

負いつつ、それを切り出せないでいます。


ちょっと先回りした説明も加えましたが、

概ね、一昨日に当たった箇所は以上の設定です。


次回は、いちよの夫である大貫が登場するところから。

1/9(祝月)『秘密の花園』本読みWS 〜台本について(中野)

2023年1月10日 Posted in ワークショップ Posted in 中野WS『秘密の花園』

download.jpg

↑初演バージョンの台本を扱います


新年になり、新たな演目の本読みWSがスタートしました。

テーマは『秘密の花園』。唐組が昨年秋に上演したばかりだからか、

そもそも何度も再演を重ねる名作だからか、この作品の人気は根強い。

それを反映してか、多くの方にご参加頂きました。感謝!


いつものペースだと今日はWSの内容についてレポートする日ですが、

その前にまず、取り扱う台本について書こうと思います。

初回のレポートは、また明日。


今回から、私たちが扱うのは初演版の台本です。


そもそも、この『秘密の花園』は1982年11月に初演されました。

会場は下北沢の本多劇場。この時がこけら落とし。

つまり、この芝居を皮切りにあの劇場の歴史は始まったわけです。


それから16年後。唐さんは1998年秋にこれを再演します。

この時から劇団唐組が生んだ名作としての『秘密の花園』の歴史が

始まります。きっかけは、新人発表で現在の座長代行である

久保井研さんが演出したものが高評価を受け、

唐さんが本公演に乗り出したというのが経緯のようです。


ともあれ、98年版は高評価を博し、

翌99年秋にも同演目を再演することになりました。

唐組の歴史の中でも、これは異例なことです。

それだけの舞台だったということでしょう。


劇団唐ゼミ☆の創立メンバーである私、椎野、

今はフリーで活動している禿恵は99年4月に大学に入学しましたから、

この時の上演には間に合いました。

唐十郎初心者をして、その凄みに圧倒される芝居でした。


この98〜99年の上演の際、唐さんは当時の世相、劇団員に

合わせて台本を書き換えています。

それが沖積社から出版された上の単行本となっているわけですが、

今回の唐ゼミ☆WSではまず1982年の初演版の台本をベース研究し、

それから98年版との比較を行おうと考えています。


82年版の台本としては、1982年12月号の文芸誌「海」に

掲載されたものを使用しています。


昨年初め、私はロンドンでの研修に入る時にこのコピーを

手に入れることができました。そこで、序盤の上手くいかない

英国生活に四苦八苦しながら、夜な夜なこの台本と向き合うことに

したのです。ロンドンの片隅で日暮里のことを考える。慰められました。


そういう思いの詰まった台本、それを読み解くWSです。

長くなってしまったので、初回のレポートはまた明日。


作品を好きな人のために、途中からの参加や、

レポートだけ読んでも愉しめるように構成していくつもりです。

今年もよろしくお願いします。