11/27(月)『青頭巾』本読みWS 最終回
2023年11月27日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑動画でないと分かりにくいんですが、トランクから飛び出た
オイチョカブがザクロ石を見事にさらうところで大団円
この青頭巾の女性が、オイチョカブか、アフリカ人女性のゾロメか
わからない。それが唐さんという作家の巧さです(写真:伏見行介)
10月から始まり、全9回目でエンディングに到達です。
最終回は先週の続きとして、快庵と牧村課長の作戦により、
盛り上がっていた杉作とオイチョカブの間に亀裂が入るところから
始まりました。オイチョカブの弟の遺体のエキスを吸って育った
ザクロの実を食べたことにより、力を得ていた杉作の自信が
急速に揺らいでいきます。ある種の養子縁組というオイチョカブとの
繋がりも急に弱まっていく。
こうなると、それまでの勢いはどこへやら、
杉作は萎えてしまって、オイチョカブがどんなに励まし、
掻き口説こうとも元の気弱な浪人生に逆戻りしてしまいます。
やがて、オイチョカブの心も離れ、
一転、自分の死体遺棄は杉作に唆された、つまり杉作のせいと
警察に訴え、二人の中は徹底的に引き裂かれてしまいます。
そして悪いことに、
オイチョカブは飛び込んできたガセ象に刺されてしまう。
これは、二幕序盤でユリアが若い男と絡むのを見せつけながら、
夫であるガセ象を挑発したのが引き金でした。
焚き付けられたガゼ象は男を見せようと逸り、凶行に及ぶ。
ガセぞうが警官に連行され、オイチョカブは息も絶え絶え、
杉作の呼び掛け虚しく、オイチョカブも退場します。
残った杉作の前にやってきたのは、トランクを持ったカラス。
そしてカラスは欲得ずくの本性をあらわし、お宝を手に去ろうと
します。カラスの当初からの目的を目の当たりにし、揉み合う
杉作。と、二人が争ううちに転がったトランクの中から
跳びだしたのは、ザクロ石をしっかりと握ったオイチョカブでした。
彼女はいまや、アフリカで亡くなったゾロメという女性にも見える。
ゾロメは自分の土地のお宝を、こうして青頭巾となって取り返しに
きたのです。あるいは、単に死んだふりをして、強かなオイチョカブが
見事に宝石を手に入れたようにも。とにかく、杉作はこれに
喝采します。
というエンディング。
参加してくださっている方からの感想では、
この『青頭巾』は時間も場所もキャラクターも飛躍せず、
唐さんの作品のなかではかなりわかりやすい、
という意見を頂きました。
その通りだと思います。
ザクロ石の奪い合いという物語の骨格もすごく単純で観やすい。
けれど、最後の最後だけ、青頭巾の女テキヤ、オイチョカブは、
アフリカで杉作の兄に轢かれた女性・ゾロメなのではないかという
唐さんの仕掛けが、このシンプルで痛快な物語に、大胆でユニークな
着想を与えています。
上田秋成の原作で、青頭巾を被ったのは鬼に堕ちた坊さんの魂でした。
これが唐版では、青頭巾を被るのはアフリカで殺された女性の霊という
ことになる。このアイディア、さすが唐さんです。
こうして気分良く、来月からの『鐵假面(てっかめん)』に続きます。
11/20(月)『青頭巾』本読みWS 第8回
2023年11月20日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑1幕終盤に続き、快庵和尚が登場します。圧倒的にキャラだっている
彼が登場すると、物語がラストスパートします(撮影:伏見行介)
次回第9回が最終回ですから、劇の終盤に向けてこれまでの内容が
急速にまとまっていくのが昨日の内容でした。
そういうわけでは、もはや内容は複雑でなく、
シンプルな3つのトピックが順を追って展開します。
おさらいしてみましょう。
(1)拇印を押してしまう杉作
前回から話題になっていたオイチョカブの弟の養子縁組。
弟は亡くなっているわけですが、警察から遺体処理をめぐる問合せを
受けたオイチョカブは、事後的に弟を杉作の家「上田家」の養子とし、
お墓に入れたと杉作に口裏を合わせてもらうよう懇願します。
これに反対したのがカラス。
杉作がオイチョカブになびくのを許せないカラスは、
オイチョカブの素性を露わにしてこの契約を邪魔しようとします。
が、結果的に杉作はオイチョカブの頼みを聞いて拇印を押します。
悲嘆に暮れるカラス。
(2)トランクを誰に返すか?
次に杉作からオイチョカブへのお願いが始まります。
杉作が捺印に応じたのは、オイチョカブを信じているからでした。
彼女は欲得で動いているのではない。すなわち、ザクロ石入りの
トランクを返す気があるのだと信じようとしていたのです。
杉作のこの思いを知った時、オイチョカブはたじろぎます。
ということはやっぱり詐欺師だったのかと杉作が思えば、
彼女は奇妙な提案をします。即ち、トランクの把手にロープを
結わえ、お兄さんが首を吊った木の枝を使って、天高くトランクを
飛ばそう。そうしてお兄さんの元にトランクを返そう。
こういうのです。
杉作は言うことを聞きます。
これが、またしてもオイチョカブによる騙しの手口かと思われた時、
彼女は一人、歌います。自分のほんとうの目的、それは、
お宝をマウント・サタンに返すこと。
この下は、エンディングに向けて重要な意味を帯びてきます。
(3)商社の牧村課長と快庵和尚が持ちかけた取引
ここに牧村と快庵が登場します。オイチョカブを陥れ、
トランクを取り返そうと二人は提案を持ちかけます。
ザクロの木の下にオイチョカブの弟が埋まっていることを察知した
彼らは、その土を掘り返し、白骨化した弟の遺体と引き換えに
トランクを取り返そうとします。最大の弱点を突かれたオイチョカブ。
さらにまた、彼らは二重の罠をはっていました。
オイチョカブが弟の遺体を木の下に埋めたのを(つまり死体遺棄)、
隠れている警察の前で白状させることで、彼女の罪を暴こう、
彼女を逮捕させようとしたのです。
今回ばかりは、見事に罠にはめられる側になってしまった
オイチョカブ。駆け込んできた杉作との別れが迫り、
物語はラストのクライマックスに向かって突き進みます。
11/14(火)『青頭巾』本読みWS 第7回 その②
2023年11月14日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑オイチョカブは、あの世の兄さんにトランクを返す、
という奇想天外なアイディアで杉作を騙そうとする(撮影:伏見行介)
一昨日に行った本読みWSは2幕中盤における
杉作とオイチョカブの会話を中心に進行しました。
この場面の醍醐味は、
1幕終盤でオイチョカブに騙され、
怒りに燃える杉作がその剣幕にも関わらず、
結局はオイチョカブに丸め込まれ、さらには説教までされて、
最終的には杉作の側からオイチョカブの言うことを聞かされていく
くだりにあります。
何より、そういう過程に悲壮感が無く、互いに嬉々として、
騙し、騙されるのを楽しむようなところがある。
この余裕が、全編を通じた『青頭巾』の魅力です。
最初、杉作は移動型のカギ屋に扮しています。
これは、彼なりにオイチョカブを捕らえてやろうと張った罠でした。
何しろオイチョカブはトランクの二重底を開けてお宝・ザクロ石を
取り出すことに血道をあげていますから、カバヤマの持つカギが
手に入らなければ、きっとカギ屋に頼むに違いない。
こんな予測からカギ屋に扮するという、
まことに手の込んだ杉作の発想がコミカルです。
そして杉作は、まんまとカギを巻き上げて逃走中のオイチョカブを
発見する。カギ屋であることはまったく役に立たなかったわけですが、
執念は本物です。そこから彼は、1幕の後にどれだけオイチョカブが
トランクを持って現れるのを待ち、兄の葬儀や火葬に取り組みながら
彼女がやってくるのを信じ続けたのかを語ります。
信じた分だけ裏切られたショックがいかに大きかったか。
すると、ここからはオイチョカブ得意の口八丁が炸裂。
杉作に会いに行きたい自分になぜそれが出来なかったのかを
滔々と語り、自分はトランクをあの世の兄さんに返そうとしたのだと
強弁します。果ては、兄さんが首を吊った木とロープとを利用し、
あの世にトランクを飛ばす装置の説明までしてみせる。
(そんなことできるはずがないのは百も承知だが、杉作は騙される)
さらに、杉作がオイチョカブの案に疑いの目を向けるたび、
子どもの頃に杉作たちに投げられた石による額の傷が痛いと言って
杉作の罪悪感を刺激します。根がお人好しの杉作は、
またもオイチョカブにたらし込まれていく。
やがて再びオイチョカブの善意を信じるようになった杉作に
彼女はもう一つの要求を突きつけます。それは、オイチョカブの
亡き弟を杉作の家の養子にして欲しいという相談でした。
彼女の亡き弟の遺体を巡り、警察からの問い合わせに
困ったオイチョカブは、すでに死んだ弟を杉作の家の養子に入れ、
杉作の名字である上田家の墓に入ったことにしようとします。
実際はザクロの木の下に埋めたわけですが、嘘の証言を共に
することを杉作に飲ませようとする。証拠の品である
養子縁組の書類に杉作の拇印を打たせることで書類を
でっち上げようとするのです。
このあたり、唐さんの法律的知識はかなりいい加減で
(おそらく百も承知でメチャクチャなロジックを
組み立てているわけですが)、オイチョカブの目的は充分に判ります。
杉作にこの作戦を拒絶されると、
わざといじらしく諦めてみせ、相手に無理難題を頼んだことを
詫びてみせるくだりなどは詐欺師の真骨頂で、杉作はすっかり
絆され、要求を飲もうとします。
というやりとりを、一昨日は愉しみました。
次週は、オイチョカブの思い通りにはさせないとカラスが
登場します。結局、テキ屋の頂上決戦はオイチョカブとカラスの
一騎打ちです。杉作の奪い合いとも言える。
クライマックスに向けて劇が高揚していきます。
11/13(月)『青頭巾』本読みWS 第7回 その①
2023年11月13日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑2幕で再会した杉作とオイチョカブ。
杉作は裏切られた怒りをぶちまける(撮影:伏見行介)
主に取り組んだ2幕中盤は杉作とオイチョカブの会話に終始します。
主人公同士の場面なので、物語の骨格がグイグイと進行する。
そこで、これまでのおさらいも含めて昨日やった箇所を振り返ります。
この物語は初め、青年・杉作による蒸発した兄捜しから始まりました。
これが決着するのが1幕終わり。お兄さんが自ら命を絶ってしまい、
悲しい結末をむかえます。
そのさなか、新たに立ち上がってくる主題として、
ザクロ石の奪い合い、というトピックが起こります。
杉作の兄がアフリカから日本の送ったトランクは二重底になっており、
そこには巨大なザクロ石の原石が隠されている。
このトランクを手にいれ、兄の同僚であったカバヤマの持つ
カギにより封印を解くとお宝が手に入る。
エリート商社員たちとテキヤたちが争奪戦を繰り広げる。
これが2番目のテーマ。
そして3番目に、青頭巾の女テキヤ・オイチョカブが抱える、
亡き弟の埋葬問題が起こります。
盲人のおじさん(先代の青頭巾テキヤ)が亡くなり、
自身が女青頭巾となってテキヤになった頃、
商品の拡大器の仕入れの途中で、弟は交通事故により亡くなります。
オイチョカブはその遺体を花屋敷前のザクロの木の下に埋ました。
そしてザクロを大事に想ってきたのです。
ところが、1幕終わりで木が伐られてしまう。
さらに、警察から遺体処理を巡って問い合わせがきてしまった。
弟の遺体をどう処理したのか。説明がつかずに彼女は困っています。
改めて確認すると、昨晩に読んだ箇所は、
2幕における杉作とオイチョカブの再会シーンでした。
延々と二人で喋り続けたわけですが、1幕終了時点からの
物語の進行のなかで、杉作は自分がオイチョカブに騙され、
彼女がまんまとお宝入りのトランクを持って行ったことを
悟りました。再会場面は、これまでのオイチョカブの所業に対し、
杉作が怒りをぶちまけるシーンから始まります。
・・・が、長くなったので、また明日。
11/6(月)『青頭巾』本読みWS 第6回
2023年11月 6日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑伐り株の上のウェディングケーキ。花やしき風の馬車装飾。
馬のかぶりものをはじめとした皆の衣裳。我が劇団ながら楽し気です
(写真:伏見行介)
参加の皆さんの中には唐組『糸女郎』千秋楽に駆けつけて
欠席の方も何人か。その分、しっかりレポートして次週に繋ぎます。
物語進行にさまざまなトピックがあったので番号を振って説明すると、
(1)カバヤマの結婚式アレンジ
1幕で自殺した杉作の兄の元婚約者と新たに結婚しようとする
商社の同僚カバヤマは、なかなかに悪趣味な趣向を凝らします。
中野の深山閣で挙げるはずだった結婚式の会場を急遽変更、
この花やしき前で、杉作兄が首を吊った樹木を向こうににらんで
屋外セレモニーをやろうというのです。呆れる課長・牧村の
静止も振り切り、決行の様子。杉作兄がザクロ石の原石を
封じ込めたトランクの鍵を持つカバヤマは、そんな風にして
結婚相手に踏み絵を踏ませ、かつての仕事上の相棒に勝とうと
します。カバヤマのサディズムとマゾヒズムが炸裂する、
なかなかに味わい深い設定。
(2)カラス、牧村を圧倒
カバヤマの結婚式進行に呆れる牧村に取り入るカラス。
最初は下手に出ていたものの、国際チバ師協会や亡き杉作兄と
アフリカの高級ホテルで会っていたこと(これは真っ赤な嘘)を
チラつかせて牧村の信頼を勝ち得ると、途上国から安く買い叩いた
物を高く売りつける商社のやり口がテキ屋と同じであるのを説き、
牧村の尊敬を勝ち取る。そうして商社に入職し、お宝の入った
トランクに接近しようとするカラス。
(3)結婚式の馬車がやってくる
花やしき仕様なので、木馬に引かれたリアカーの即席馬車が
やってくる。カラスは一目散に花嫁の隣に座り、彼女をかきくどく。
カバヤマそっちのけで。そして、なぜか彼女の足元にある荷物を
嗅ぎつけてそれを持ち去ろうとすると、今度は花嫁がそれにしがみ
つく。そこから、花嫁の訴える謎のポショポショ合戦が始まる。
(4)ポショポショ合戦のてんまつ
ポショポショ言う花嫁の要望を汲み取ってカラスが全員に
ゲキを飛ばす。要するにポケットの中身を出せ!という要求。
みんながそれぞれの所持品を取り出すと、花嫁が欲しがったのは
カバヤマの持つトランクのキー。ここで牧村課長が異変に気づく。
同時に、口にガムテープを貼られた本物の花嫁が駆け込んでくる。
つまり、花嫁はニセモノで、オイチョカブが化けていたのだ。
ザクロ石の入ったトランクとキーの両方を手に入れ、逃げる
オイチョカブ。皆はそれを追う。
・・・という進行でした。
久々に振り返ってみて、皆で「ポショポショポショポショ」
ひたすら言うくだりは唐十郎にしか書けないな、と感心しました。
文字では面白さが伝わりにくい。けれども、実際に演じると
ほんとうに場が湧く。唐さんの軽演劇的なセンスがよく出た
シーンです。次回は11/12(日)!
10/31(火)『青頭巾』本読みWS 第5回 その②
2023年10月31日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑左から、ガセ象、切り株、カラス、若い衆、ユリアがいます
若い衆を可愛がるユリアに、ガセ象は追い詰められます
(写真:伏見行介)
第2幕に少しだけ入ったので状況を整理しておきます。
2幕では、すでにザクロの木が伐られ、切り株になっています。
その間でユリアがコマ回しの芸を見せ、
薬売りの口上を述べているところから始まります。
これは本来、ユリアの夫であるガセ象がやっていたこと。
けれど、傍にいるのはガセ象でなく、1幕では手下だった若い衆。
彼らは商売をしながらイチャついている。
と、ガセ象が上半身裸でそれを覗き見ています。
1幕のガセ象はいざという時にまったく役に立たず、
しかも、終盤はチバ師のカラスと組んで、カラスは鞍馬天狗に、
ガセ象は馬に扮して時代劇ごっこに興じていたのでした。
そんな愚かなガセ象への折檻として、
ユリアはガセ象の裃を奪い取って裸にした挙げ句、
若い男とイチャつく姿をこれみよがしに見せつけています。
泣きべそをかくガセ象をなぐさめるのはカラス。
そういうシーンから2幕はスタートします。
このガセ象、ユリアの夫婦関係はなかなかに含蓄があります。
美男美女同士、お互いに第一希望同志の恋人や夫婦の世界は、
それこそ絵に描いたドラマのようなものです。
現実には、そんな美しい者同士の美しい関係ではないからこそ、
味わいが出てくる関係性というものがあります。
ユリアはいつも情けないガセ象を怒っている。
ガセ象はいつも尻に敷かれてユリアに付いて回っている。
でも、この二人の、腐れ縁に見える関係を、いざとなれば深い
情実をはらんで泣かせるような輝きを発揮する。
こういうのが唐さんの得意手です。
言ってみれば『秘密の花園』の2幕終わりのようなもの。
いちよと大貫が分かちがたく結びついていたように、
ユリアとガセ象もまた強すぎる絆を彷彿とさせます。
そういう細部にも注目して欲しい。
痛快な『青頭巾』は下町のしがない人々を扱って、
細やかな情緒を扱った劇でもあります。
10/30(月)『青頭巾』本読みWS 第5回 その①
2023年10月30日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑上田秋成の『青頭巾』に出てくる名僧・快庵和尚の子孫の坊主も
登場し、念仏を唱えています(写真:伏見行介)
いよいよこの『青頭巾』という劇は、唐作品の中でもライトに楽しめる
エンタメだということがはっきりしてきました。
青頭巾の女テキヤと青年・杉作は意気投合します。
青頭巾の扱う品物の拡大器、彼女の語る亡き弟への想い、
いずれも杉作の心を捉えます。彼はすっかり青頭巾に絆され、
彼女にどこまでもついていこうという勢いです。
ところが、ここでユリアが殴り込む。
ザクロの木の下の場所割りを巡ってニセ醤油売りのカラスとの
争いに躍起になっていたユリアはふと我に返り、
青頭巾の騙った倉持の親分がすでに他界しているのを
嗅ぎつけたのです。
もはや青頭巾の詐欺師ぶりは明白。
青頭巾を封じる、といえば、この芝居の原作、
上田秋成の『青頭巾』に登場する快庵和尚の末裔まで
引っ張り出して(役名は「坊主」)、青頭巾ことその名を
オイチョカブを戒めにかかります。
ところが、やはりオイチョカブは一枚上手、
今やすっかり自分に心酔する杉作も使い、ユリアと坊主の追求を
巧みにかわします。坊主は先祖の快庵に及ぶべくもないスケベ野郎、
バカな生臭坊主だということまであっという間に暴かれます。
が、ここは敵もさるもの。
坊主は「光月照松風吹〜」という原作おなじみの呪文を唱えながら
手下にオイチョカブをはがいじめさせ、さらに別の手下が斧で
ザクロの木を伐り倒します。弟のエキスの詰まった木を切られ、
心を引き裂かれるオイチョカブ。
そこへ、杉作の兄が自殺した報が飛び込んできます。
駆け付けたカラスによれば、
杉作の兄は近所の木にロープを結えて首を括ってしまったのです。
この大事に、すべての人間が事件の現場に殺到します。
もちろん、杉作も。
するとオイチョカブは駆け出そうとする杉作に声をかけ、
自分は弟を、杉作は兄を、喪った者同士の再会を涙声で約束します。
情感あふれる熱いシーンです。
が、すべての人間が去った後にオイチョカブが見せた表情は
まんまとザクロ石の詰まったトランクをせしめた喜びでいっぱい。
要するに彼女は、またも持ち前の口八丁で皆を出し抜き、
お宝入りのトランクをせしめることに成功したのです。
ここで1幕はおしまい。
杉作の兄が亡くなるという大事件が起きながら、
不思議と悲壮感がないのがこの『青頭巾』の魅力です。
痛快さを全面に押し出して悲劇性は控えめ。
昨日は2幕冒頭にも進んだので、それはまた明日。
10/25(水)『青頭巾』本読みWS 第4回 その②
2023年10月25日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑こういう格好で乗り込んできます。これでもエリート商社員!
(写真:伏見行介)
『青頭巾』1幕半ばは延々20ページにわたる青頭巾の女テキヤと
青年・杉作の会話でしたが、ともすればしんどいこの時間を耐え抜くと
パッと視界が開けたように唐さん得意のドタバタがやってきます。
5人の白い頭巾をかぶった男女、
実は杉作の兄の元同僚たちが舞台に乱入してくるのです。
お兄さんの同僚ということは彼らはいずれもエリート商社員。
ですが、彼らはそんな格好でやってきて、
その中から蒸発した兄の元婚約者が名乗りを上げます。
それで彼女は、新しい男に乗り換えたいだの、
それでいてお兄さんのキッスの時の舌の噛みっぷりは
最高だったのと、まあ、唐さんの得意なくだらない世界が
怒涛の展開を見せます。さらに乱闘になって、青頭巾の女テキヤは
大いに張り切り、チャンバラの刀で商社員たちをめった打ちにする。
で、ふざけにふざけた後は、キュッと引き締めるシーンがやってくる。
実は、お兄さんがアフリカを引き上げる時に送った
ザクロ石の原石が行方不明で・・・と続くわけです。
ここから、杉作の兄探しと並行して、
お宝・ザクロ石の原石を商社員らとテキヤたちで奪い合う
というまことに分かりやすいドラマの主眼が姿を現すわけです。
そんなわけで、この『青頭巾』のエンターテインメイント性が
だんだん発揮されてきます。気軽に観ていってちょうだい。
そういう作品です。大悲劇も良いですが、こういう作品にも
味があります。というわけで暗い『夜叉綺想』の後にこれを
選びました。次回の本読みはまた日曜日に戻ります。10/29(日)!
10/24(火)『青頭巾』本読みWS 第4回 その①
2023年10月24日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑この1幕の、延々と続く二人のシーンを凌げば、あとは一気に楽しく
なります。物語の大筋を伝える我慢のしどころ、腕の見せどころです
本来は一昨日の日曜日にやるはずだったのを今日に振り替えました。
平日にも関わらず参加してくださった皆さんに感謝です。
まずは一幕半ばの、延々とつづく青年と女テキヤの会話からスタート。
ダイジェストすると流れはこんな感じです。
(1)女テキヤこそ、青年の探す青頭巾だった。
行方をくらました青年の兄、元エリート商社員がサクラをしている
という青頭巾の女テキヤを発見
(2)青年と青頭巾には面識がある
青年が小学生の頃。学校の一口に拡大器を売りにきていた
青頭巾のテキヤの連れていた少女こそ、現在の女テキヤの幼い頃。
少女には弟もいて、姉と弟でテキヤのおじさんに連れられていた
(3)亡くなった弟
テキヤのおじさんが亡くなり、
女が跡を継いだのちに弟は交通事故で亡くなった。
※青年の兄はアフリカで弟を庇った女を轢いてしまい、女テキヤは
交通事故で弟を亡くしている、という対比
(4)ザクロの秘密
青頭巾の女テキヤは弟の遺体をザクロの木の下に埋め、
その養分をザクロに吸わせた。なった実には弟が宿っている。
その実を青年に食べさせ、弟を彼に投影する青頭巾。
青年はこれを拒絶しつつも、徐々に丸め込まれて・・・
(5)青頭巾と兄の交わり
青頭巾によれば、実際には兄はサクラをしていたわけではなかった。
むしろ、拡大器を買いに通い詰める兄を青頭巾は不気味がり、
避けるようになっていたという。自分を誰かに投影していたようだった
と青頭巾は言う。アフリカで殺してしまった女を投影していたのだろう。
お兄さんは自殺しそうな気配だった、と青頭巾は青年に告げる。
・・・長くなったので、今日はここまで。
第4回はこの後に続く、大勢が出てくるかなりコミカルなシーンまで
読みましたので、明日に少し補足します。
10/17(火)『青頭巾』本読みWS 第3回 その②
2023年10月17日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑野外上演版の拡大器を扱うシーン(写真:伏見行介)
青頭巾の女テキヤによる身の上ばなしは、
一昨日にやったパートの中で重要な聞かせどころです。
何せ彼女は手練のテキヤという設定ですから、
とにかく弁が立つように書かれている。
その能弁家が弟を亡くした様子を語るくだりはなかなかグッときます。
だいたい、彼女たち姉弟はかなり厳しい子供時代を過ごしています。
青頭巾がトレードマークの拡大器を売るテキヤに拾われ、
この姉と弟は(親がどうだったかは知れない、戦争孤児か?)、
学校にも行かずにテキヤの学校前販売に付き沿っています。
青年との出会いもこの時分。
それが、時間が経つうちに青頭巾のテキヤが亡くなって、
子どもながらに姉の方が方が跡を継ぐことになった。
それだけでもなかなかしんどい育ちですが、
加えて商品である拡大器の仕入れ中の弟が交通事故で亡くなる。
その際、車に轢かれて道路に倒れた弟の手に姉が拡大器を握らせ、
弟の顔をなぞることで地面に大きな弟の似顔絵を描こうとした
くだりは、唐さんならではの不思議な情感に満ちています。
姉は咄嗟に、すでに事切れて時間の止まってしまった弟を拡大器で
描くことで、大きく成長した姿を思い描こうとしたのか、なんて。
どうにもやりきれません。
さらに、墓もままならぬ貧しさから弟の遺体をザクロの木の下に埋め、
その養分を吸い取って生ったザクロの身を食べた青年を弟がわりに
しようとするところなど、余りに強引ではありますが、
何としても弟に再会したいと願う姉のなせる技、と理解できます。
加えて、これが興味深いのは、
主人公の兄がアフリカで起こしてしまった交通事故と、
女テキヤの弟が轢かれた事故が、キレイに対になっているところです。
アフリカでは弟を庇って姉が轢かれ、日本では姉の前で弟が轢かれる。
このあたりの連鎖も、唐作品の特徴ですからぜひ味わって欲しい。
次回は10/24(火)19:30からやります。
10/16(月)『青頭巾』本読みWS 第3回 その①
2023年10月16日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑白頭巾の青年が持っている、これが、かつて子どもたちにとって
憧れの文房具であった拡大器です(写真:伏見行介)
昨夜は『青頭巾』本読みの第3回目でした。
前回の最後に登場した女テキヤが、青年の捜している
青頭巾をかぶった女テキヤだと知れるところが最重要トピックです。
行方をくらました元エリート商社員の兄を探す青年にとって、
兄が浅草界隈で青頭巾をかぶった女テキヤのサクラをやっているという
噂をもとに花やしき前にやってきていたわけです。
ですから、いよいよ兄の気配に近づいてきた。
実際、兄らしき人物が登場し、追おうとするとパッと逃げてしまう
という場面もありました。
物語の展開を改めて整理すると、下記です。
(1)
女テキヤは口八丁でガセ象&ユリアvsカラスの口上合戦をけしかけ、
まんまと両者を追い払って自分の商売の場所をせしめる
(2)
女テキヤの扱う品物が「ヒゴの拡大器」だと知れたことで、
子どもの頃に誰もが憧れたこの道具への好意を大人になっても
持ち続けていた青年は、拡大器を絶賛する。
すると、自分の売り物をガセ(役に立たないもの)と自認していた
女テキヤは大いに青年の反応を喜び、二人は親し気になる。
(3)
女テキヤが青い頭巾を付けたことで、青年は彼女が、
自分の探していた兄への手がかりだと知る。
(4)
青年が小学校の裏手で拡大器を買った体験、
青頭巾の女テキヤの子どもの頃の記憶が重なり、
二人が過去に出会っていたことがわかる。
(5)
女テキヤは子どもの頃、幼い弟と二人で青頭巾のテキヤに
養われる身だった。学校にも行けないような子ども時代。
小学生たちにはバカにされ、投げられた石が女の額に当たって
傷を受けた。二人を養った親代わりのテキヤも亡くなり、
姉として稼業を継いだものの、可愛い弟が交通事故で
死んでしまう。以来、孤独で青頭巾の女テキヤとなり、
拡大器を商ってきた
・・・という展開でした。
長くなったので今日はこれくらいにして、明日に補足します。
10/14(土)劇中歌WSレポート
今日から「オルフェの唄」へと曲が変わりました。
オルフェウス神話のエピソードが歌われています。
歌の内容は、こんな感じ。
♪ 昔オルフェのさまよえる
魔物の里の都では
蛇にかまれたエウリディケ
呪いの毒蛇に 足をひき
顔をみせずに 呼んだとさ
私を呼んで オルフェさま
呼んでもお顔は見せられぬ
見せればさらば これっきり
又三郎の正体は、女のエリカ。
このことをしった織部は、精神病院のスリッパを持ち出し
暴れ出してしまう。
たしなめるようにエリカは、自分は又三郎である、と伝え
さらには、織部にオルフェの唄を歌う。
この曲、低い音程が多いのですが、
これまた「エリカのかぞえうた」と同じように
高低差もある難しい曲。
さて、この曲を織部に聴かせたところに風が!
2人を後押しするかのようにヒコーキの音も。
織部は持っていた風向計を使い、自らの耳へ。
エリカはその力を借りて、テイタンに向き合う。
すると、テイタンの扉が開く!
テイタンの中には、あの教授に三腐人、さらには航空兵たちが。
「高田さん」!!
とエリカの声。
その声を確かめるように、1人の青年が立ち上がる。
エリカがその青年に向かおうとした時、
もう1人の美しい少年が立ちはだかり、
「あんな女にかまってちゃいや!」と。
愕然とするエリカ。
徐々にテイタンの扉も閉まっていく。
またも作戦は失敗。
追い打ちをかけるように、梅子を連れたスケバンの桃子が
怒鳴り込んでくる。
と、ここで1幕終了!!
魔窟へのヒントを耳に見つけ、テイタンの扉を開けることが
できたものの、エリカの前には新たな死少年の存在まで現れてしまった。
二幕冒頭の劇中劇は、「ベニスの商人」!
二幕は、このテイタンの中からのスタート。
ではまた!!
10/10(火)『青頭巾』本読みWS 第2回 その②
2023年10月10日 Posted in 中野WS『青頭巾』
0.3X39.7X30.3mm/65.7gで6,000円くらい。
大まか、『青頭巾』本読みWS第2回の骨子は昨日の内容です。
浪人生の青年が花やしき前のテキ屋業界に首を突っ込んでいるのは
兄捜しのため。同時に、兄が付き従っているという青頭巾の
女テキ屋を探すため。
その中で、兄が商社員として商いの対象として取り扱っていた
ザクロ石の原石、というトピックが浮かび上がります。
物語が進むうち、青い頭巾の女テキ屋や兄らしき男が現れると、
話はテキ屋たちがこのザクロ石をめぐって奪い合いを繰り広げる
という状態に突入していきます。
兄のこと、ザクロ石のこと、両方ともが一気に明かされる点において
一昨日に読んだ第2回目パートの重要性はいや増すばかりです。
とにかく、この部分を見失ってしまうと話についていけなく
なってしまう。
他方、ここからはトリビアなネタなのですが。
そもそもザクロ石=ガーネットは宝石のなかでは
そんなに高価な方じゃないそうです。
だいたい、〇〇カラットのダイヤの原石、といった極端に巨大な
結晶でなければ、宝石の原石は一生働かずに暮らせるほどの財産には
ならないらしい。
もともと宝石というものは、原石どう加工するか、
指輪でいえばリング部分など、他の貴金属部分を
どうとり混ぜるかも重要ですし、デザインにお金が掛かっているもの
ともいいます。
そこへいくと、この『青頭巾』という劇の中で語られる
「ザクロ石」の取り扱われようは、まるでそれさえ手に入れれば
末代まで優雅に暮らせそうな高価さを思わせます。
もちろん、何十キロという重さ、奇跡的な純度の結晶、
という漫画ちっくな巨大さならば、億いくかもしれませんが!
こういうところは実に唐さんの可愛らしさです。
ですから、上演にあたるものはザクロ石が飛び上がるほど
高価でないと理解しつつ、だからこそより大仰に、
それこそ国家的な秘宝を取り扱うような大袈裟さで語るのが、
劇を上演する側の愉しさといえます。
また、お兄さんがザクロ石を発見した場所は
アフリカの「マウントサタン」とされています。
これは唐さんが幼少期にハマった紙芝居『少年王者』の中の
悪役が棲む魔の山の名前をとったものです。
当然、アフリカにそんな山は無い!
けれど、だからこそ、
これもまがまがしく謎に満ちた神秘の山として大袈裟に伝える。
現場の演技や演出の愉しさです。
以上。こんな具合に台本を読み、作戦立てていけば
芝居づくりは格段に面白くなります。内容を介して作者である
唐さんとのやり取りが面白いのです。
よし、現場として唐さんを大いにサポートしてみよう。
そういう気概で取り組むのが愉しいのです。
次回は10/15(日)。
いよいよ青頭巾の女テキ屋が正体を表して活躍を始めます。
10/9(祝月)『青頭巾』本読みWS 第2回 その①
2023年10月 9日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑青年(右)がザクロの木の周囲にいるわけがわかりました。
が、なぜこんな変な格好をしているのか判るには、もう少し物語を
進める必要があります(写真:伏見行介)
唐十郎作品において第2回目はいつも重要です。
何故かといえば。
だいたい、唐さんの劇は冒頭でカマします。
不思議な登場人物。突飛なシチュエーション。
そういうものをバンッと提示して注目をひきます。
そこから、どうしてそういう人物たちがここにいるのか。
それぞれがどういう人間たちなのか。その理由は後で、
徐々に語られていくというパターンをとることが多い。
この『青頭巾』も典型的にそういう経路を辿ります。
なぜ、時代劇に出てくるチャンバラごっこの格好をした青年が
ここにいるのか。彼は浪人生であるにも関わらず、
受験勉強そっちのけで浅草に通い、こうしてザクロの木に佇んでいる。
そしていつしか、粗悪品の醤油を売るテキヤに好かれてしまい
ズルズルとここに通っているのです。
なぜ、そんなことをしているのか。
答えは、この青年の兄が引き起こした事件にありました。
浪人中の青年とは違い、お兄さんはエリート商社員です。
宝石を扱う会社の商社員。それがザクロ石(ガーネット)の
原石を求めてアフリカに赴任していた最中、自動車の人身事故を
起こして現地の女性を殺めてしまいます。
採掘権を求めて交渉に当たっていた山、
その名も「マウントサタン」で盗掘をする少年を発見した
商社員の兄は、少年を自動車で追うなり、誤って少年の姉らしき
女性をはねてしまいました。会社が女性の家族に補償をし、
お兄さん自身は半年の収監を経て日本に帰国。
しかし、その後の兄は行方をくらまし、
その姿を浅草にあるザクロの木の辺りで見た人がいるという。
しかもお兄さんは、青頭巾をかぶった女テキヤのサクラをやっている
という噂です。それで弟の青年はこの場所に兄を捜してやってきた。
そういう経緯が語られます。
こうなると、この『青頭巾』という劇がはっきりしてきました。
青年は兄を捜している。兄に会うために浅草に来た。
ザクロの木の周りにいるのはそのためだ。兄に会えなければ、
青い頭巾をかぶった女テキヤを見つければ良さそうだ。
青頭巾の女と兄を探すという目的が提示されました。
・・・長くなったので、続きは明日!
10/5(木)業界用語のお勉強
2023年10月 5日 Posted in 中野WS『青頭巾』
目下WSで取り組んでいる『青頭巾』はテキ屋同士の抗争を描く物語です。
↑これは野外版の上演。みなとみらいの臨港パークで上演したものです
(写真:伏見行介)
まあ、抗争というと大袈裟な感じもしますが、
みんなが子どもみたいにお宝を奪い合い、あまり陰惨な感じはしません。
軽演劇的にライトに観られて、それが良いところです。
で、中にはこんな言葉たちが出てきます。
テキ屋の人たちが使う業界用語。
実にリズムよく語られて、サッと通り過ぎてしまいがちなのですが、
意味を知っているとより愉しめます。もちろん、演じ手は把握が必須。
【香具師の用語】
ヤサゴミ・・一軒一軒を訪問販売
流し・・街中で行商
ハコバイ・・汽車や電車など乗り物で売る
ヤサバイ・・整理品の投げ売り
ガセミツ・・ニセの春画売り
ワリゴト・・ニセモノを騙って売る
チバ師・・ニセモノの中に本物を少しだけ混ぜて売る
台本の中にも説明が出てきますが、なかなかそれを聞き取って
理解するのは難しいところがあります。
唐さんが執筆時に嬉々としてこれらの言葉を調べ、
名調子のせりふに仕立てていった様子が想像できます。
そういえば、スリの世界を描いた『蛇姫様 わが心の奈蛇』にも
スリの業界用語が出てきて、例えば、電車やバス内、
交通機関内での置き引きを「ハコ師」ということを覚えました。
「ハコバイ」と同じ理屈ですね。
こうしたことも説明しながらWSは進みます。
10/4(水)『青頭巾』本読みWS 第1回 その②
2023年10月 4日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑2015年の上演から。左が杉作(熊野晋也)で右がカラス(丸山正吾)。
写真は伏見行介さんです
舞台は花屋敷の前。
あの、私たちもお世話になってきた浅草花やしきのことです。
そこに集まるテキ屋たちのお話です。
舞台装置で大切なのはザクロの木が一本。
これが物語の核になりますが、それに触れるのはまだ先の話。
ザクロの木の陰から謎めいた青年がチラチラとこちらを覗いています。
彼は、後に杉作という名前だということが分かります。
杉作は浪人生で、訳あってここにきている。
その訳はまだ明かされません。
変わっているのは彼が寝巻きを着て、
腰の紐のところに棒を差していることです。
要するに、チャンバラごっこをする少年みたいな格好をしている。
浪人生といえばもう18〜19歳なのに。これはかなり変です。
この変なところがポイントです。
彼はどうやら、一人のテキ屋につきまとわれています。
醤油を薄めて売るカラスというテキ屋がやたらと杉作にご執心で、
商売柄口八丁のカラスは、気の弱い杉作になんのかんのと
声をかけ、丸め込み、杉作に親しげに振る舞います。
当の杉作は困惑しながらも、
ついついカラスのペースに巻き込まれ・・・
というのが『青頭巾』の始まりでした。
今後、次々と個性的なテキ屋があらわれるなかで、
物語の核心、杉作がどうしてこの場所に通い、ザクロの木を
気にしているか、ということが明らかになってきます。
次回は、そのテキ屋連中が登場します。10/8(日)に開催!
10/2(月)『青頭巾』本読みWS 第1回 その①
2023年10月 2日 Posted in 中野WS『青頭巾』
↑角川ソフィア文庫の書影。オススメです。
状況劇場が1979年秋に初演し、私たち唐ゼミ☆も2015年に
花やしき座で上演、他にも野外演劇に仕立てて東北ツアーを行った
思い出深い演目です。
初回なので、いつもの通り内容に入る前に
唐さんが台本の執筆に至った経緯を年表を仕立てて確認しましたが、
1970年代後半の唐さんが新たな展開を求めるうちの一作だという
ことが、年代を追っていくとよく分かります。
1976年の『下町ホフマン』で大久保鷹さんが辞め、
同年の『恋と蒲団』を最後に天竺吾郎さんが去り、
1978年の『河童』で根津甚八さんまでもが退団した後に、
悪役として華開いていた小林薫さんを主人公の青年に
登用しての公演です。
『蛇姫様 わが心の奈蛇』の権八・伝次や
『ユニコン物語 台東区篇』の八房で跳梁跋扈していた
小林薫さんには物足りなかったのではないか。
唐さんはそんなことは百も承知で、しかし、劇団のピンチで
あるために、薫さんを得意でないポジションに置かざるを
得なかったのではないか。そんな話をしました。
一方で、この『青頭巾』は、唐さんがずっと愛読してきた
『雨月物語』からヒントを得た作品です。若い頃のインタビューで
好きな作家を問われた唐さんは、ホメーロスと上田秋成を挙げました。
上田秋成こそ『雨月物語』の作者です。
大好きなネタを引っ張った分、規模感こそ大きくないものの、
唐さんのコミカルな部分が特に活きて、痛快な作品です。
そういうわけで、ぜひ『雨月物語』を読んでください
という話もしました。手に入りやすいところで岩波文庫と
角川ソフィア文庫がありますが、角川の方が現代語訳も付いていて
オススメです。写真はAmazonのサイトから書影を引っ張りました。