↑『ジャガーの眼』が初めて活字化された新劇1985年7月号
WS参加者のなかにふたりもこれを持っている方がいてビビりました
皆さん、相当なフリークです。が、のめりこんだ上で、誰にも
分かりやすい「読み」「上演」を心がけるのが私のモットーです
今日は、「その②」として、
「主役は田口」という話題を展開したいと思います。
『ジャガーの眼』の上演を知っている人であればあるほど、
戯曲を読んでみて冒頭に違和感を感じるはずです。
数ある映像では、路地を覗いたのを見咎められて多くの住人たちに
田口が体を押され、辻に引っ張り出されて糾弾されるシーンから
この劇は始まる。
が、台本では、トップシーンは路地に立つ女。
彼女の歌う歌がプロローグ的についています。
ヒロイン「くるみ」はすでに登場し、亡き恋人「しんじ」と
移植された角膜を想って歌う「♪あたしは見ていた〜」が冒頭で
提示されるのです。
これは、これまで見てきた実上演の印象をかなり大きく変えてしまう
シーンです。この冒頭があると、劇全体が「くるみ」の物語となり、
無ければ「田口」の話となる、というくらいに観る人の感じを
変えてしまいます。
どうしてこのようなことが起こったか。
どのような経緯で唐さんは、当初に書きつけた冒頭シーンをカット
したか。ということを考えるのは愉しい。
ちなみに、この『ジャガーの眼』には活字化されたものでは
3種類のバージョンがあり、
1.『ジャガーの眼』雑誌「新劇」(1985.7 白水社)
2.『ジャガーの眼』単行本(1986.7 沖積舎)
3. 『唐組熱狂集成』より『ジャガーの眼2008』
(2012.2 ジョルダン・ブックス)
という具合です。
今回定本としたのは、最初に活字化された「新劇」掲載のものです。
「新劇」版、沖積舎版の単行本には件の冒頭シーンがあり、
ジョルダン・ブックス『唐組熱狂集成』にはこれがありません。
1986年と2012年の間にはいくつもの実上演がありますが、
そのうちに冒頭シーンが無い上演台本が定着したものと思われます。
が、今回の本読みWSはせっかくなので、
冒頭シーンがある上演はどんなものになるか、という問いを大きな
モチベーションとします。せっかく皆さんで読むんですから。
『ジャガーの眼』の原型が掴めるかも知れない、という愉しみです。
一方で、「主役は田口」ということも重要です。
「田口」とは唐さんがよく自作の主人公につける名で、これは
母方の姓なのだそうです。
1970年代に入ってずっと主役をやらなかった唐さんが、
自ら主役になって押し出している作品が『ジャガーの眼』であるとも
言えるし、プロローグ部分のカットによってそれは決定的になりました。
ということも一緒に考えてみましょう。
↑1982年の刊行です。寺山さんが亡くなる1年前
お待ちかねの『ジャガーの眼』本読みが始まりました。
再演の回数の多さ、映像が残されているという点からも人気の演目です。
たくさんの方にご参加いただきました。
昨晩は初回ですので、いつものように年代記的に唐さんが
『ジャガーの眼』執筆に至った経緯を追い、
付随して、触れて頂きたい資料を紹介しました。
『臓器交換序説-寺山修司演劇論集(1982)』
ブリタニカ叢書→1992年1月25日ファラオ企画より再版
『豹(ジャガー)の眼(1975)』 高垣眸 少年倶楽部文庫
『豹の眼-唐十郎第2エッセイ集(1980)』 毎日新聞社
『犬の心臓』 M.ブルガーコフ(水野忠夫訳)河出書房新社
『犬の心臓・運命の卵』 M.ブルガーコフ(増本浩子訳)新潮文庫
ちなみに、『悪魔の辞典』などの短編で有名なA.ビアスにも
『豹の眼』という小説がありますが、これは関係がありません。
『ジャガーの眼』という題名について、高垣眸(たかがきまなこ)さん
の冒険活劇小説と、それを原作とするドラマや映画に影響を受けて
唐さんはタイトルを付けたようです。
1980年に刊行された第2エッセイ集『豹の眼』は主に、
1979年に行った『女シラノ』サンパウロ公演の行程を題材にした
記録です。アフリカと南米を一緒くたにして語るところ、
要するに「なんだか豹がいそう」くらいのイメージで
ざっくりと捉えるところが唐さんの愛嬌です。
寺山さんの『臓器交換序説』には、ヒロイン「くるみ」の歌や
犬である「チロ」が大きく影響を受けています。
寺山さんの好きだったマルセル・デュシャンの言葉(墓碑銘)
「死ぬのは、いつも他人ばかり」という言葉もこの本の中に
出てきます。
ブルガーコフの『犬の心臓』は、ある男に犬の心臓を移植した
ところ、心臓に宿る犬の記憶や習慣が延命後の男に影響して
しまう、という内容です。これはSFチックな話ではありますが、
例えば人間の脳とオランウータンの身体を掛け合わせた
兵士(兵器?)を本気になって模索していたという逸話もある
ソビエト連邦という国家を思う時、あながちSFとも言い切れません。
そういう社会にとって、リアリズム小説と言えなくもない。
と、こういう話をしました。
・・・資料の話で長くなりましたので、続きはまた明日。
ちなみに、『ジャガーの眼』は昨日を含めて全10回の構想で
このオンラインWSを行う想定です。と、いうことは、
4/13(日)が最終回という目算です。
たくさん時間がありますので、ぜひ上記の資料に触れて頂きたい
ところです。